ステータス999でカンスト最強転移したけどHP10と最低ダメージ保障1の世界でスローライフが送れません!

矢立まほろ

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○4章 役所へ行こう

 -8 『急な展開』

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 なにはともあれ、俺たちは瞬く間に四天王のうち二人を倒した。

 残るは一人。
 噂のナカタさんは不戦勝なので、実質三勝済みだ。

「次はワタシね。まったく、みんな情けないんだから」と続いて前に出てきたのは、彼らの中で最も背丈が低い『ツンデレのマリー』だ。

「ワタシの相手は誰かしら」

 堂々と構える少女に、俺は控えている仲間たちを見やる。
 ヴェーナはさっき戦ったばかりでもうすっかりやる気をなくしている。マルコムも連戦と鼻血の影響は鑑みるべきだろう。

 となるとスクーデリアは……

「勇者様のゴミクズ」
「ふあぁっ?!」

  『ダメージ1 スキル発動 残りHP1』

「土に還ればいいのに」
「ふあぁっ?!」

  『ダメージ1 スキル発動 残りHP1』

 先ほどからずっと、延々とマルコムを罵倒して殺そうとしている様子だった。

「取り込み中なら仕方ないな」

 なにより、罵声を浴び続けているマルコムは非常に幸せそうに破顔させている。あのドMを相手に平然と微笑を浮かべながら自然に罵倒し続けているスクーデリアは、彼女こそ真性のSなのではないかと思ってしまう。

 邪魔をするのも忍びないので放置しておこう。

 ろくに戦えないミュンに行かせるわけにもいかないし、そうなると俺しかいないか。

「よし、俺が相手だ」

 ミュンの背負うクレスレブを引き抜き、構える。そんな俺を見て、マリーは鼻を鳴らして笑んだ。

「なんだか弱そうじゃない。貴方なんかでワタシに勝てるのかしら」
「いや、さっきの連中よりはまともなつもりだから」

 まるでろくな戦闘をしていない前二組と一緒にしてもらっては困る。

 勝負となれば俺は手を抜かない。たとえ目の前にいるのがミュンと同じくらいの少女であっても、四天王というだけあって、それなりの実力者なのだろうから。

「ワタシの魔法を受けても後悔しないでよ」
「大した自信だな」
「貴方なんかに負けるわけないじゃない。見るからに平凡そうな優男なんかに」
「ひどい言い分だな、おい」

 マルコムなら頭を下げて喜びそうだが、俺は決して気を緩めずに相対す。二人の視線が交錯し、ぴりぴりとした無言のせめぎあいが始まっていた。

 どちらが先に動くか。どう動くか。相手はどんな攻撃をしてくるのか。

 この緊張感、学生時代にちょっとやっていた格ゲーみたいで少し血が滾る。とはいえ今は自分の体を賭けているので少しも油断はできないのだが。

「いくわよ」

 マリーが俺の目を見つめ、手の平を差し向けた。
 彼女は丸腰だ、武器はない。何か攻撃魔法でもしてくるのだろうか。しばし様子を窺ってみるが、これといった変化もなく数秒が経過した。

 ようやっと動きをみせたのは、手ではなく、マリーの口許だった。にやりと口角が持ち上がる。

 彼女の前に突き出した腕が一度下がる。その瞬間、俺は何をされたわけでもないのに、不思議と空気か何かに縛られたような感覚があった。

 マリーが右腕を持ち上げる。
 すると、まるで釣られるように俺の右腕も勝手に持ち上がる。

「な、なんだこれ」
「ふふっ。あなたはもうお人形さん。ワタシの言いなりのね」
「はあ?」

 いやいや、マジかよ。
 耳を疑いたくなるが、実際、俺の右手は勝手に動いている。動かせないわけではないが、まったく意図せずに動かす意思が働いている。

 負けて地面に突っ伏したまま気を失っていたはずのゲジイが、ふと顔を持ち上げて勝ち誇ったような得意気な顔を浮かべる。

「マリーは呪術に長けた名門の末裔。その術は対象を人形に見立てて体を操り、意のままに動かすことの出来る禁忌の術じゃ」
「なんだって?!」

「それを解きたくば、マリーの両脇に手をかけ、お前が人形だとばかりに抱き上げてやらねばならん。さすれば呪いは跳ね返るじゃろう」
「なんつー奇怪な解呪方法だよ」

 しかもそれを教えてくれるのか。

「このバカじじい! なにそんなことまで喋ってるのよ!」とマリーが激昂するのも最もだ。

「だ、だって……若者と話すのは久しぶりじゃったんじゃもん。こんな老いぼれの話に付き合う子など近頃おらんくてな。つい楽しくて……えへ」

 しわがれた老人声でおどけてみせるゲジイに、マリーが足元の小石を掴んで放り投げる。

 マリーの投げた石ころはゲジイの脳天に直撃し、彼の気を失わせた。さすがに殺意こそ込められていなかったのだろうが、老体にこれはつらい。

「南無南無。成仏しろよ、じいさん」と、俺は動かなくなった置き地蔵に拝んでおいた。

 さて、仕切りなおしてマリーの相手だ。
 手足の自由を半分奪われたような状態でどう戦うべきか。

 試しに駆け込んで切りかかってみると、クレスレブを振り下ろした瞬間、マリーの右腕に連動して外側にずれてしまった。ならば一度退いてもう一度横に薙ごうとするが、マリーも同じように振りかぶると、彼女の動きに倣って真上へと振り上げてしまった。

「あっはっはっ。きれーな空振り」
「くっそう。なんかすげえ恥ずかしい」

 傍から見ると俺がただ盛大に外してしまっているだけなのが辛い。心なしか、後ろで眺めているヴェーナやミュンの視線も冷ややかに感じてしまう。

 てこずっている間にすぐマリーに距離をとられる。
 また近づくところからやり直しだ。だが、近づいたところで、攻撃のベクトルが不意に変更されてしまう。彼女の腕の動きを止めなければどうにもならない。

 思考をめぐらせて見たが、勘の無い俺には浮かぶ選択肢にも限界がある、ほとんど限られた時間の末に、俺は背後に控えるヴェーナへと目をやった。

「ヴェーナ。俺に吹き矢を撃て」
「わかったわ」

 即答からの、流れるような早さで吹き矢を取り出して俺に打ち込んでくるヴェーナ。さすがだ。それは的確に俺の首筋に突き刺さる。

  『ダメージ1 残りHP9』

「殺意は込めんでいい」

 あわよくばそのまま殺してやろうかと次弾の装填までしているヴェーナに、俺はにこやかに怒った。

 だがこれで準備は整った。

「仲間に攻撃させるなんて、貴方も変態なの?」
「俺をあそこのバカ勇者と一緒にするな。まあ見てなって。俺とクレスレブの愛のロンドをな!」
「は?」

 格好つけたつもりで言ったのだが、マリーに思いっきり素で意味不明だという顔をされ、俺は一人、赤面して俯かせていた。
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