㈲ノーザン・クエスト カスバ市ハンブル区マージー通り196-2

あしき×わろし

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20 愛妻家の豹変

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 出来のよくない手下たちを、

「さっさとにさらせ、アホンダラ!」

 と、尻を蹴りあげて帰らせた五十男が、ゆっくりと振り向いた。
 おお、なかなかの眼光。
 俺はかるく頭を下げておいた。

「ども」
「勘違いしたらあかんで」
「なにをですか」
「ワシら引いたわけと違う、ちゅうことや。いつでも相手したんねん。臨戦態勢やぞ」
「はあ、そうですか」
「そっちがその気なら、やけどな」
「そんな気ないですよ。今日は買い物に来ただけなんですから」
「むー」

 こら業火娘ロレッタ、つまらなそうな顔すんな。

「こないな時間にか」
「この街で言えば、まだ宵の口じゃないですか』
「どこ行くんや」
「ジュリアさんの古道具店に」
「なんやと」

 五十男の顔面に、一瞬、まぎれもない動揺が走った。

「ジュリアさんって、あのジュリアさんかいな」
「あなたの言うジュリアさんが千年魔女のジュリアさんなら、そのジュリアさんでしょうね」
「──知り合いなんか」
「ええ、まあ。俺は魔術士じゃないんで、あんまり来ませんけど」
「あたし、ちょくちょく買い物するよ」

 ロレッタが会話に入ってきた。

冒険クエストの前とかね。アイテム婆ぁのとこなら何でも揃うから便利だし」
「あ、アイテムば──ばあ?」
「ケチだから安くないんだけど、たまーにまけてくれるしね」
「ちょ、ちょう」
「なに? アイテム婆ぁがどうかしたの?」
「ちょう待てや、声でかいねん」
「あ、もしかしてアイテム婆ぁの友だち?」
「声がでかい言うてるやろ! あと話しかけるな」
「なにそれ、わけわかんない」

 五十男の動揺は恐怖にかわって、明らかな撤退モードにはいっていた。スラム街にもいろいろな人間関係があるのだろう。

「せ、せや。ワシ──やなかった、ボク、用事があったんや」
「あの、いろいろとお騒がせしまして」
「何のことや? ボク、嫁はんにお遣い頼まれて通りかかっただけやねん。誰にも会うてへんし何にも見てへんで」

 なかなか愛嬌のある惚け方で平静を装っているが、そわそわと金の鎖をまさぐる仕草に動揺があらわれている。
 俺も小芝居につきあって、ちょっと畳みかけてみることにした。

「せめてお名前を。後日、あらためてお詫びにあがりますので──」
「い、いらん! というかキミタチ、誰やったかいな」
「おじさん、ボケたの? あたしはロレッ──」
「あーそうや! こないなとこで油売っとったら嫁はんに怒られるがな」
「あの、お名前を──」
「通りすがりのおっちゃんや! キミタチももう遅いんやから、早よお家に帰らなあかんよ。ほな、ボクはこれで!」

 言うが早いか脱兎のごとく走りさった。
 素晴らしい瞬足だ。あれなら都市対抗競技会のカスバ市代表になれる。
 でも、住民台帳に載ってないだろうな。
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