舞台装置の悪役令息はようやく自由を手に入れます

ゥヵィ

文字の大きさ
5 / 18
本編

4.防御は最大の攻撃たり得るか?

しおりを挟む
「僕に飛び級試験を受験させていただけませんか」

そう言い切れば、彼はぽかんと口を開けてこちらを凝視する。呆気にとられる彼に口を挟まれぬよう、僕は笑みを絶やさず、押し切ることにした。

「遅くても再来週からは2年生のカリキュラムを受けたいのです」
「ふむ...登校したばかりというのに、何故だ?折角、同年代の学友と社交を学ぶチャンスなのに。加えてきみの家は公爵家だ、というか、公爵は把握しているのか?」

ようやっと僕が何を言ったのか理解したのか、ルーヴィッヒは矢継ぎ早に疑問を投げかけてくる。

「公爵は把握していません。何せ、昨日思いついたもので...」

気まずそうに、言葉尻を窄めて言う。
そう、その秘策とは、ルーヴィッヒの協力のもと飛び級試験を受けることだった。僕らのひとつ上の学年、すなわち現2年生には、他と比べて今後エィミーと関わりが深くなる者が少ない。
記憶を探れば、セルドアとエィミーの仲の良さは入学して間を置かずに噂になっていた。一介の貴族同士の話なら彼は気に留めないだろうが、実際は一国の王子の大スキャンダルだ。一に研究二に研究のルーヴィッヒも耳に入っているはずだ。悲し気に目を伏せて、諦めたようなアルカイックスマイルを浮かべる。『早く試験を受けさせろ』という言外の訴えに気付いたであろう彼は、溜息をついた。
この飛び級試験に合格すれば、エィミーにも王子にも顔を合わせずに済み、面と向かって聞きたくもない言葉を掛けられることもなくなるということ。僕が秘密裏に2年生に進級した情報を知らないエィミーは、勝手に僕が1年生の授業を怠けたと勘違いしてくれるはずだ。

「...お父上に一筆書いていただき、それをよこしなさい。試験は休日に公爵家王都邸で魔力測定と共に行う」
「有難うございます。そう言ってくださると思っておりました」
「きみなら問題なく受かるだろう。何せ手ほどきしたのはこのルーヴィッヒだからな。今のうちに2年生の教科書を発注しておこう。文官だろう?」

この学院は、1年生は皆同じ魔法の基礎を教わり、2年生からは文官、騎士、魔術師の3種類のコースに分かれ、最終学年である3年生ではさらに細分化された学問を学ぶため研究室に入る、というのが基本の流れだ。卒業するためには、それぞれのコースの卒業試験に合格する必要がある。
王子の婚姻相手としてこの国を支えるためには、外交や政策を学べる文官が一番適している。
しかしながら、そんな思いは微塵も残っていない。今回もあるであろう卒業パーティーでの婚約破棄は受け入れるつもりだし、なんなら今婚約破棄をしてくれたってかまわない。
ただただ、エィミーから逃げたいのだ。
だから僕は種を蒔くことにした。

「それなのですが...」

僕はちょっとしたお願いをしてみた。面倒なことである自覚はあるが、理由も伝えれば彼は納得してくれた。

===

その後別邸に戻るとすぐに魔法書簡を書く。それを父上に送付すると、図書室で勉強することにした。
しばらくして、夕餉前。
ひろびろとした図書室内に、ノックの音が吸い込まれる。僕は「はい」と言った。
扉が開く。

「ナーシュ、どうしたのかな?魔法書簡を使うなんて」
「父上」

図書室に父上がわざわざ顔を出してくれた。
父上は今、公爵領にて発生した事案に付きっきりで忙しいはずだ。そんな中でも時間を割いてくれたことを意外に思う。

「爺やが教えてくれたんだ。僕の愛する賢くて偉いナーシュは、入学したばかりなのに図書室で勉強をしています、って!飛び級試験でも受けるつもりかい?」

まるで心を呼んだかのような発言に、僕は少したじろいだ。普段はぽんこつなのに、たまに働く勘が途轍もなく鋭い。僕が彼を尊敬し、恐怖する理由。
その動揺を隠すように笑みを深める。
───自らの父親にまで本心を隠すなんて。
心のどこかが僕を叱咤するが、無視を決め込む。

「よくわかりましたね、さすが父上」

そういえば、父上は目を点にした。

夜。折角なら、と、僕は久々に父上と一緒に夕餉を摂った。その間、父上に話した情報を整理する(食事中に適さない話題だったと後悔はしている。実際父上は何度も食事の手を止め、天を見上げ溜息をついていた)。

ひとつめは、婚約者に冷たくされたこと。ふたつめは、その婚約者が男爵令嬢と懇意になっていること。加えてみっつめ、少し感情を込めてその男爵令嬢は礼儀がなっていなかった、と言えば、父上は眉をひそめて思案した。真偽を確認したいなら、セリーヌに確認してください、と念押しするのも忘れずに。
つい先ほど渡された羊皮紙には、父上の筆跡で書かれた『推挙状 ナーシュ・レネヴィーの飛び級試験に関して』という文字と、公爵家の印。それを見て、僕は笑みを浮かべる。

これで、第一関門突破。拍子抜けするくらい簡単に、待ち望んでいた自由が手に入りそうだ。
そう思ってた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

お決まりの悪役令息は物語から消えることにします?

麻山おもと
BL
愛読していたblファンタジーものの漫画に転生した主人公は、最推しの悪役令息に転生する。今までとは打って変わって、誰にも興味を示さない主人公に周りが関心を向け始め、執着していく話を書くつもりです。

BLゲームの悪役に転生したら攻略対象者が全員ヒロインに洗脳されてた

BL
主人公のレオンは、幼少期に前世の記憶を思い出し、この世界がBLゲームで、自身は断罪される悪役だと気づく。 断罪を回避するため、極力攻略対象者たちと関わらないように生きてきた。 ーーそれなのに。 婚約者に婚約は破棄され、 気づけば断罪寸前の立場に。 しかも理由もわからないまま、 何もしていないはずの攻略対象者達に嫌悪を向けられてーー。 ※最終的にハッピーエンド ※愛され悪役令息

超絶美形な悪役として生まれ変わりました

みるきぃ
BL
転生したのは人気アニメの序盤で消える超絶美形の悪役でした。

転生したようだけど?流れに身を任せていたら悪役令息?として断罪されていた――分からないまま生きる。

星乃シキ
BL
発作の後に目覚めたら、公爵家嫡男の身体だった。 前世の記憶だけを抱えたまま生きるレイは、ある夜、男の聖女への嫌がらせの罪で断罪される。 だが図書室の記録が冤罪を覆す。 そしてレイは知る。 聖女ディーンの本当の名はアキラ。 同じ日本から来た存在だった。 帰りたい聖女と、この身体で生きるレイ。 秘密を共有した二人は、友達になる。 人との関わりを避けてきたレイの人間関係が、少しずつ動き始める。

牙を以て牙を制す

makase
BL
王位継承権すら持てず、孤独に生きてきた王子は、ある日兄の罪を擦り付けられ、異国に貢物として献上されてしまう。ところが受け取りを拒否され、下働きを始めることに。一方、日夜執務に追われていた一人の男はは、夜食を求め食堂へと足を運んでいた――

氷の婚約者様に破談を申し出たら号泣された

楽矢
BL
目が覚めると、レースの牢獄のような天蓋付きベッドの上だった。 何も覚えていない出来損ない下級貴族ミラ。無能だクズだと冷酷な罵詈雑言を浴びせてくる氷の騎士セティアス。 記憶喪失から始まる、2人のファンタジー貴族ラブコメディ。 ---------- ※注) かっこいい攻はいません。 タイトル通りそのうち号泣しますのでご注意! 貴族描写は緩い目で雰囲気だけお読みいただけると幸いです。 ハッピーエンドです。 激重感情をこじらせた攻→受な関係がお好きな同志の方、どうぞよろしくお願いします! 全16話 完結済み/現在毎日更新予定 他サイトにも同作品を投稿しています。 様子を見ながらそのうち統合するかもしれません。 初めての一次創作でまだよく分かっておらず、何かおかしなことをしでかしていたら申し訳ないです!

前世、悪役侍従。二度目の人生で対立騎士から愛を知る

五菜みやみ
BL
 両親の離婚を期に母が去り、地下書斎に軟禁されて育ったロレティカは父に認められたい一心で第一王子バレックに仕えるも、虐げられる日々を送っていた。  唯一優しく接してくれた国王陛下は崩御し、絶望する中、異母兄弟で第ニ王子レイリスとの後継者争いに終止符が打たれると、即位したバレックと王太后による恐怖政治が始まった。  前陛下を亡くした悲しみに囚われていたロレティカは国を崩壊させようと動き、その後、レイリスよる反乱が起こる。  敗れたバレックは家臣と共に投獄され、ロレティカも地下牢へ繋がれる。  そこでレイリスの護衛騎士サルクの優しさに触れ、無償の温もりを注がれて恋を知り……。  処刑寸前に「今度はサルクのために生きたい」と願いながら断罪されたが、目覚めると登城前に時間が巻き戻っていて──!?

悪役令息に転生したので、死亡フラグから逃れます!

伊月乃鏡
BL
超覇権BLゲームに転生したのは──ゲーム本編のシナリオライター!? その場のテンションで酷い死に方をさせていた悪役令息に転生したので、かつての自分を恨みつつ死亡フラグをへし折ることにした主人公。 創造者知識を総動員してどうにか人生を乗り切っていくが、なんだかこれ、ゲーム本編とはズレていってる……? ヤンデレ攻略対象に成長する弟(兄のことがとても嫌い)を健全に、大切に育てることを目下の目標にして見るも、あれ? 様子がおかしいような……? 女好きの第二王子まで構ってくるようになって、どうしろっていうんだよただの悪役に! ──とにかく、死亡フラグを回避して脱・公爵求む追放! 家から出て自由に旅するんだ! ※ 一日三話更新を目指して頑張ります 忙しい時は一話更新になります。ご容赦を……

処理中です...