舞台装置の悪役令息はようやく自由を手に入れます

ゥヵィ

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本編

4.防御は最大の攻撃たり得るか?

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「僕に飛び級試験を受験させていただけませんか」

そう言い切れば、彼はぽかんと口を開けてこちらを凝視する。呆気にとられる彼に口を挟まれぬよう、僕は笑みを絶やさず、押し切ることにした。

「遅くても再来週からは2年生のカリキュラムを受けたいのです」
「ふむ...登校したばかりというのに、何故だ?折角、同年代の学友と社交を学ぶチャンスなのに。加えてきみの家は公爵家だ、というか、公爵は把握しているのか?」

ようやっと僕が何を言ったのか理解したのか、ルーヴィッヒは矢継ぎ早に疑問を投げかけてくる。

「公爵は把握していません。何せ、昨日思いついたもので...」

気まずそうに、言葉尻を窄めて言う。
そう、その秘策とは、ルーヴィッヒの協力のもと飛び級試験を受けることだった。僕らのひとつ上の学年、すなわち現2年生には、他と比べて今後エィミーと関わりが深くなる者が少ない。
記憶を探れば、セルドアとエィミーの仲の良さは入学して間を置かずに噂になっていた。一介の貴族同士の話なら彼は気に留めないだろうが、実際は一国の王子の大スキャンダルだ。一に研究二に研究のルーヴィッヒも耳に入っているはずだ。悲し気に目を伏せて、諦めたようなアルカイックスマイルを浮かべる。『早く試験を受けさせろ』という言外の訴えに気付いたであろう彼は、溜息をついた。
この飛び級試験に合格すれば、エィミーにも王子にも顔を合わせずに済み、面と向かって聞きたくもない言葉を掛けられることもなくなるということ。僕が秘密裏に2年生に進級した情報を知らないエィミーは、勝手に僕が1年生の授業を怠けたと勘違いしてくれるはずだ。

「...お父上に一筆書いていただき、それをよこしなさい。試験は休日に公爵家王都邸で魔力測定と共に行う」
「有難うございます。そう言ってくださると思っておりました」
「きみなら問題なく受かるだろう。何せ手ほどきしたのはこのルーヴィッヒだからな。今のうちに2年生の教科書を発注しておこう。文官だろう?」

この学院は、1年生は皆同じ魔法の基礎を教わり、2年生からは文官、騎士、魔術師の3種類のコースに分かれ、最終学年である3年生ではさらに細分化された学問を学ぶため研究室に入る、というのが基本の流れだ。卒業するためには、それぞれのコースの卒業試験に合格する必要がある。
王子の婚姻相手としてこの国を支えるためには、外交や政策を学べる文官が一番適している。
しかしながら、そんな思いは微塵も残っていない。今回もあるであろう卒業パーティーでの婚約破棄は受け入れるつもりだし、なんなら今婚約破棄をしてくれたってかまわない。
ただただ、エィミーから逃げたいのだ。
だから僕は種を蒔くことにした。

「それなのですが...」

僕はちょっとしたお願いをしてみた。面倒なことである自覚はあるが、理由も伝えれば彼は納得してくれた。

===

その後別邸に戻るとすぐに魔法書簡を書く。それを父上に送付すると、図書室で勉強することにした。
しばらくして、夕餉前。
ひろびろとした図書室内に、ノックの音が吸い込まれる。僕は「はい」と言った。
扉が開く。

「ナーシュ、どうしたのかな?魔法書簡を使うなんて」
「父上」

図書室に父上がわざわざ顔を出してくれた。
父上は今、公爵領にて発生した事案に付きっきりで忙しいはずだ。そんな中でも時間を割いてくれたことを意外に思う。

「爺やが教えてくれたんだ。僕の愛する賢くて偉いナーシュは、入学したばかりなのに図書室で勉強をしています、って!飛び級試験でも受けるつもりかい?」

まるで心を呼んだかのような発言に、僕は少したじろいだ。普段はぽんこつなのに、たまに働く勘が途轍もなく鋭い。僕が彼を尊敬し、恐怖する理由。
その動揺を隠すように笑みを深める。
───自らの父親にまで本心を隠すなんて。
心のどこかが僕を叱咤するが、無視を決め込む。

「よくわかりましたね、さすが父上」

そういえば、父上は目を点にした。

夜。折角なら、と、僕は久々に父上と一緒に夕餉を摂った。その間、父上に話した情報を整理する(食事中に適さない話題だったと後悔はしている。実際父上は何度も食事の手を止め、天を見上げ溜息をついていた)。

ひとつめは、婚約者に冷たくされたこと。ふたつめは、その婚約者が男爵令嬢と懇意になっていること。加えてみっつめ、少し感情を込めてその男爵令嬢は礼儀がなっていなかった、と言えば、父上は眉をひそめて思案した。真偽を確認したいなら、セリーヌに確認してください、と念押しするのも忘れずに。
つい先ほど渡された羊皮紙には、父上の筆跡で書かれた『推挙状 ナーシュ・レネヴィーの飛び級試験に関して』という文字と、公爵家の印。それを見て、僕は笑みを浮かべる。

これで、第一関門突破。拍子抜けするくらい簡単に、待ち望んでいた自由が手に入りそうだ。
そう思ってた。
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