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シーズン2 Ready Freddie?-愛という名の欲望-
12 腐っていた過去、そして今
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「あー……」
酔っ払ってこちらが見えていないパーラとメントを尻目に、キズナはなんとなく昔を思い出す。思い出す必要性なんてないのだが、ここまでヘトヘトになっていると嫌でも思い浮かべてしまうものだ。
自殺する前、少年だったキズナはいじめられっ子でもあった。ほとんどのいじめに理由なんてないかもしれないが、キズナの場合は違う。元々正義感の強い少年であったキズナは、しばしば嫌がらせや殴打に苦しむ同級生たちを助けるために、それを行う者を咎め、あるいは教師に報告していた。
しかし、いじめを行うような連中にとって、キズナは目障りな存在以外の何者でもなかった。
文句を言われたらムカつく。先生にチクられたら面倒な説教を受ける羽目になる。
それが故、連中は標的をキズナへと切り替えたのであった。
それまで、いじめという概念がなくならないことを知っていても、それでもなお閉塞的な学校という舞台装置で抗い続けたキズナだった。だが、その矛先が自分に向けられたとき、まだ中学生になったばかりの少年は奈落の底へ落下していった。
まず、“ムカつく”という理由で殴打された。口の中が切れ、しばらく飯を食べるのにも苦労した。そしてその暴行は、連中とすれ違う度に行われた。アームロックをかけられ、プロレスごっこと称して顔を地面に叩きつけられ、いよいよ顔や身体にもあざができるようになった。
そんなキズナを親も教師も助けなかった。親に相談すれば、「やり返してこい」とだけ。先生に相談すれば、「遊びの範囲内だろ?」。中学生には耐え難い状況なのに、無責任な大人たちによって、中学内でのキズナへのいじめはもはや学校公認となりつつあった。
暴力だけでは終わらなかった。連中は心がへし折れつつあったキズナに、万引きを強要してきた。「アイスで良いからパクってこい。そうしないと、歯へし折るぞ?」という脅しとともに。
恐怖に支配されたキズナは、コンビニでアイスなどを万引きした。連中はそれをビデオで録画し、なんと学校に提出した。
次の日、キズナは学校から呼び出しを食らう。「これはなんだ?」と万引きの動画を見せられ、ガタガタ震えているキズナを見て、教師たちはこの窃盗はキズナがやったと断定。親へも通達され、コンビニへ謝罪しに行くことになった。
帰宅後、キズナは親からも殴られた。「館浜家の恥晒しめ。やり返すこともできなければ、万引きにまで手を染めやがって。オマエ、更生施設入るか?」と。
そこでキズナはすべてを諦めた。その日のうちに祖母の家へ逃げ込み、いままであったことをすべて吐露した。祖父母はキズナを抱きしめ、もう学校へも家にも帰らなくて良いと、優しく語りかけてくれた。
その後、キズナはいじめの元凶だった中学から転校し、別の中学で保健室登校をしていた。しかし、もうすべてが遅きに失していたのである。
「はあ」
あんな世界から離れられたのならば、それで良いじゃないか。親も同級生も腐ったヤツらばかりだったときに比べれば、パーラやメントがいるこの家は楽園のように居心地が良いのだから。
それでも、過去のトラウマはそうかんたんに解決しない。時間が心を癒やしてくれるのを待つしかない。
「あれ、キズナ寝てるよ」
「ホントだ。毛布かけてあげないと」
パーラが毛布を持ってきた。目を瞑っているキズナを見て、寝落ちしたと思ったのだろう。
ただ、まだ意識は落ちていない。日本での一連の騒動の所為で、キズナは不眠症気味だ。睡眠薬がないと寝付くことができない程度には。
「って、涙目になってるよ。キズナちゃん」
「なんか嫌なことでも思いだしたのかね」
「んー、なんか昔のこと思い出して泣いてるような気がする」
「そういや、キズナって転生前の話をしたがらねえよな」
「いつか話してくれるかもしれないし、そのまま墓場まで持ってくかもしれないね。ねえ、メントちゃん」
「なんだ?」
「私はキズナちゃんのことを妹みたいに思ってるんだ。普段は落ち着いてて、おしゃべりな私の話もちゃんと聞いてくれるけど、時々歳相応に甘えてくれても良いのになぁって」
誰かに甘えるなんて、できるわけない。キズナは本質的に不器用だ。前世でも、完全に心を許している者なんていなかった。
そんな少年が、半サキュバス少女になったところで、まだ知り合って1ヶ月の彼女たちに甘ったれることはできないのである。
「まあ……甘えることが罪だと思い込んでる節もあるんじゃねえの? 時々いるだろ? 誰かに助けを求めたいのに、どこかで救われちゃいけないと思ってるヤツが」
「そうだ、メントちゃん」
「なんだよ、いきなり」
「キズナちゃんとホープちゃんを会わせてみようよ。ホープちゃん、いまスクールカウンセラーになりたいって言ってたし!」
「そういやそんなこと言ってたな。アイツも一年間くらい学校来てなかったから、他の子どもたちの助けになりたいみたいな話だったはず」
部屋が暖かいからか、それとも満腹だからか、あるいは別の理由か、キズナはすっかり眠気に脳を支配されていた。
「アイツの休日とキズナの休みを合わせて、一回話させてみるか~。なにか突破口になるかもしれない──」
そこでキズナの意識は途切れたようだった。
*
「……、まだ深夜か」
どうにもこうにも寝た気になれない。しかし、時刻は夜中の4時半。キズナはパーラからもらった携帯電話を一応見て、(誰とも連絡先交換をしていないので)特に通知が来ていないことを確認する。
が、メッセージアプリから一件通知があった。キズナはそれを開き、寝ぼけ眼のまま、まず誰のメッセージなのかを視認した。
「え、アーテルさん? 連絡先交換した記憶ないんだけどなぁ」
アーテル・デビルからのメッセージにすこし驚くものの、もしかしたらキャメルに連絡先を訊いたのかもしれない。別に悪意があるわけではないはずなので、キズナはメッセージを翻訳して読む。
『あした、いっしょに登校しませんか?』
キズナはスマートフォンをぶらりと落とすように持ち、フッ、と鼻で笑う。
「生きてる限り、一人ぼっちなんてことはないもんね」
酔っ払ってこちらが見えていないパーラとメントを尻目に、キズナはなんとなく昔を思い出す。思い出す必要性なんてないのだが、ここまでヘトヘトになっていると嫌でも思い浮かべてしまうものだ。
自殺する前、少年だったキズナはいじめられっ子でもあった。ほとんどのいじめに理由なんてないかもしれないが、キズナの場合は違う。元々正義感の強い少年であったキズナは、しばしば嫌がらせや殴打に苦しむ同級生たちを助けるために、それを行う者を咎め、あるいは教師に報告していた。
しかし、いじめを行うような連中にとって、キズナは目障りな存在以外の何者でもなかった。
文句を言われたらムカつく。先生にチクられたら面倒な説教を受ける羽目になる。
それが故、連中は標的をキズナへと切り替えたのであった。
それまで、いじめという概念がなくならないことを知っていても、それでもなお閉塞的な学校という舞台装置で抗い続けたキズナだった。だが、その矛先が自分に向けられたとき、まだ中学生になったばかりの少年は奈落の底へ落下していった。
まず、“ムカつく”という理由で殴打された。口の中が切れ、しばらく飯を食べるのにも苦労した。そしてその暴行は、連中とすれ違う度に行われた。アームロックをかけられ、プロレスごっこと称して顔を地面に叩きつけられ、いよいよ顔や身体にもあざができるようになった。
そんなキズナを親も教師も助けなかった。親に相談すれば、「やり返してこい」とだけ。先生に相談すれば、「遊びの範囲内だろ?」。中学生には耐え難い状況なのに、無責任な大人たちによって、中学内でのキズナへのいじめはもはや学校公認となりつつあった。
暴力だけでは終わらなかった。連中は心がへし折れつつあったキズナに、万引きを強要してきた。「アイスで良いからパクってこい。そうしないと、歯へし折るぞ?」という脅しとともに。
恐怖に支配されたキズナは、コンビニでアイスなどを万引きした。連中はそれをビデオで録画し、なんと学校に提出した。
次の日、キズナは学校から呼び出しを食らう。「これはなんだ?」と万引きの動画を見せられ、ガタガタ震えているキズナを見て、教師たちはこの窃盗はキズナがやったと断定。親へも通達され、コンビニへ謝罪しに行くことになった。
帰宅後、キズナは親からも殴られた。「館浜家の恥晒しめ。やり返すこともできなければ、万引きにまで手を染めやがって。オマエ、更生施設入るか?」と。
そこでキズナはすべてを諦めた。その日のうちに祖母の家へ逃げ込み、いままであったことをすべて吐露した。祖父母はキズナを抱きしめ、もう学校へも家にも帰らなくて良いと、優しく語りかけてくれた。
その後、キズナはいじめの元凶だった中学から転校し、別の中学で保健室登校をしていた。しかし、もうすべてが遅きに失していたのである。
「はあ」
あんな世界から離れられたのならば、それで良いじゃないか。親も同級生も腐ったヤツらばかりだったときに比べれば、パーラやメントがいるこの家は楽園のように居心地が良いのだから。
それでも、過去のトラウマはそうかんたんに解決しない。時間が心を癒やしてくれるのを待つしかない。
「あれ、キズナ寝てるよ」
「ホントだ。毛布かけてあげないと」
パーラが毛布を持ってきた。目を瞑っているキズナを見て、寝落ちしたと思ったのだろう。
ただ、まだ意識は落ちていない。日本での一連の騒動の所為で、キズナは不眠症気味だ。睡眠薬がないと寝付くことができない程度には。
「って、涙目になってるよ。キズナちゃん」
「なんか嫌なことでも思いだしたのかね」
「んー、なんか昔のこと思い出して泣いてるような気がする」
「そういや、キズナって転生前の話をしたがらねえよな」
「いつか話してくれるかもしれないし、そのまま墓場まで持ってくかもしれないね。ねえ、メントちゃん」
「なんだ?」
「私はキズナちゃんのことを妹みたいに思ってるんだ。普段は落ち着いてて、おしゃべりな私の話もちゃんと聞いてくれるけど、時々歳相応に甘えてくれても良いのになぁって」
誰かに甘えるなんて、できるわけない。キズナは本質的に不器用だ。前世でも、完全に心を許している者なんていなかった。
そんな少年が、半サキュバス少女になったところで、まだ知り合って1ヶ月の彼女たちに甘ったれることはできないのである。
「まあ……甘えることが罪だと思い込んでる節もあるんじゃねえの? 時々いるだろ? 誰かに助けを求めたいのに、どこかで救われちゃいけないと思ってるヤツが」
「そうだ、メントちゃん」
「なんだよ、いきなり」
「キズナちゃんとホープちゃんを会わせてみようよ。ホープちゃん、いまスクールカウンセラーになりたいって言ってたし!」
「そういやそんなこと言ってたな。アイツも一年間くらい学校来てなかったから、他の子どもたちの助けになりたいみたいな話だったはず」
部屋が暖かいからか、それとも満腹だからか、あるいは別の理由か、キズナはすっかり眠気に脳を支配されていた。
「アイツの休日とキズナの休みを合わせて、一回話させてみるか~。なにか突破口になるかもしれない──」
そこでキズナの意識は途切れたようだった。
*
「……、まだ深夜か」
どうにもこうにも寝た気になれない。しかし、時刻は夜中の4時半。キズナはパーラからもらった携帯電話を一応見て、(誰とも連絡先交換をしていないので)特に通知が来ていないことを確認する。
が、メッセージアプリから一件通知があった。キズナはそれを開き、寝ぼけ眼のまま、まず誰のメッセージなのかを視認した。
「え、アーテルさん? 連絡先交換した記憶ないんだけどなぁ」
アーテル・デビルからのメッセージにすこし驚くものの、もしかしたらキャメルに連絡先を訊いたのかもしれない。別に悪意があるわけではないはずなので、キズナはメッセージを翻訳して読む。
『あした、いっしょに登校しませんか?』
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