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シーズン2 Ready Freddie?-愛という名の欲望-
13 いたずらっぽい笑顔を交え
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登校時間まで4時間。キズナはロスト・エンジェルスの言語を理解するため、本を開くのだった。
*
「おはよ! って、深夜に目覚めちゃったの?」
「うん、パーラさん」
普段はメントのほうが早起きなのだが、きょうはパーラが先に下へ降りてきた。
キズナは本を閉じ、時刻が8時を回っていることを知り、学生服へと着替え始めた。
「心配だな~。キズナちゃんの体調」
「昔からあんまり寝ることに関心なかったから、気にしなくて良いよ」
「そう? 睡眠ってめちゃ大事だけどね」
「そうなんだけども、眠れないものは仕方ないさ」
「まあ良いや、朝ご飯つくるね~」
案外流してくれるほうが気楽だったりする。
パーラは台所に行き、なにかをつくり始める。朝飯なんてフレンチトーストだけで良いような気もするが、かれこれ1ヶ月以上多量の朝食を摂っているので、そろそろ胃袋が広くなった気もする。
そんなわけで、本日はフランス式の甘いパンやオレンジジュースを飲み、キズナはアーテルとの待ち合わせ場所へ向かっていく。
(ん? 誰かといっしょだな)
バス停の前で、アーテルは誰かと談笑していた。きのうの怯えきった表情から一転し、きょうのアーテルは随分顔色が良い。その理由はおそらく、隣にいる青髪の女性のおかげだろう。
「おはようございます」
「あ。お、お、おはようございます。あの、えーと、この方は、ホープ先生です」
「名前だけ訊いても分からないでしょうに」青いボブヘアのホープはにこやかに、「はじめまして。KOM学園のスクールカウンセラーのインターンをしてるホープです。まあ、インターンって言っても、もうほとんどKOM学園に就職してるようなものだけどね」
ホープ。きのう、狸寝入りしているとき訊いた名前だ。パーラやメントの友だちで、同じ高校に通っていたらしい。
「それで、貴方はキズナさんだよね? サングラス、似合ってるよ」
「あ、どうも」
サングラスをかけながら現れたキズナへも、ホープは優しげな表情を浮かべるだけだった。
そしてバスが到着する。キズナたちはそれに乗り、学校まで揺られていく。
「ホープ先生とアーテルさんって、どんな関係なんですか?」
「先生って言われると照れちゃうな~。悪い気はしないけどさ」
「ホ、ホープ先生は私の悩み相談に乗ってくれる方で、あの、その、すっごくお優しい方です」
「アーテルちゃん、たぶんキズナさんは素の性格でも受け入れてくれると思うよ」
「え、そうなんですか?」
「素がどんな感じか分かりませんけど、アーテルさん、というか先輩? が接しやすい態度で良いですよ。貴方が悪感情を持ってるとも思えませんし」
「あ、え、じゃ……ごほん。もう敬語使うのはやめます……やめるよ。キズナちゃん」
「うん、アーテル先輩」
バスは何事もなく、キズナたちをKOM学園校舎前まで送り届けた。
「じゃ、うちは他の子も見なきゃだからさ。特にイブちゃんのことをね~」
そう言い、バス内でアーテルの悩み相談に丁寧に答えていたホープは去っていった。
場にはキズナとアーテルが残され、彼女たちは中等部と高等部に分かれている校舎までともに歩いていく。
「ねえ、アーテル先輩」
「なんですか……じゃなくて、なに?」
「あの白い髪の先輩がイブってヒトなんでしょ? きのう散々もめてたけど、なにかあったの?」
「……、昔は仲良かったんだけどね」
なにやら触れてはならない雰囲気だ。キズナは、「そうなんだ」とだけ返事し、場はまたもや静まり返る。
そんなキズナとアーテル・デビルの分かれ道、そこにはイブがいた。
彼女は白いボブヘアの美人であり、きのう自己防衛のために“チャーム”をかけた相手でもある。
「あ……」
「大丈夫、ぼくがなんとかするよ」
“チャーム”で得た愛情なんて偽物だと考えているが、同時にその術式にはまった者はどうなるのかは知っておきたい。だから、キズナはイブのもとまで一歩ずつ歩みを進めていく。
近づいていくにつれ、イブの顔はりんごのように赤くなっていった。ただ、きのうのように走って逃げようとはしない。
「やあ、イブ先輩」
フランクな挨拶とともに、キズナとイブの距離はひそひそ話ができるくらいまで狭まった。
ただ、イブは返事をしてこない。キズナはすこし訝るような表情になる。
そのときだった。
「あの、名前訊いても良いかしら?」
「あれ、名乗ってなかったっけ。まあ良いや。キズナです」
「あと連絡先も交換しない?」
「ああ、良いですよ」
キズナはすこし笑みを浮かべる。
スマートフォンを取り出し、キズナとイブは携帯を交差し合う。イブの手は露骨なまでに震えていた。
「あと、もうひとつお願いがあるのだけれど、訊いてくれないかしら?」
「なんですか?」
「そ、その、今度学校が休みの日にデートしない?」
「デート?」
「あ、違うわよ? デートっていうのは便宜上の話であって、ただ遊ぶだけだから」
キズナもイブも女性。イブが同性愛者でもない限り、デートなんて単語は使わないはずだ。どうやら“チャーム”の力は本物らしい。
「あの中学生、今度はイブ様にすり寄ってるわね」
「きのうはアーテル様だったのに。そういえば、こんな噂聞かない? 7,000万メニーの“評定金額”をつけられた中学生がいるって」
「まさかあの子が7,000万メニーの子なの?」
「私も分からないけれど、KOM学園の二大巨頭に近寄れるってことは……」
(だから聞こえるくらいの声で陰口叩くなよ。いや、聞かせたいのかな?)
そんな名も知らぬ女子生徒の陰口は、おそらくイブへも届いているはずだ。
「ね、ねえ。キズナ」
「なんですか?」
「貴方が7,000万メニーの中学1年生なのかしら?」
どうせ隠していても発覚することだろうと、キズナはちょっといたずらっぽい笑顔を見せながら言う。
「そうですよ。どうも、ぼくには7,000万メニーの値札がつけられてるらしいです」
イブは驚愕に染まったような、そういう表情になった。
*
「おはよ! って、深夜に目覚めちゃったの?」
「うん、パーラさん」
普段はメントのほうが早起きなのだが、きょうはパーラが先に下へ降りてきた。
キズナは本を閉じ、時刻が8時を回っていることを知り、学生服へと着替え始めた。
「心配だな~。キズナちゃんの体調」
「昔からあんまり寝ることに関心なかったから、気にしなくて良いよ」
「そう? 睡眠ってめちゃ大事だけどね」
「そうなんだけども、眠れないものは仕方ないさ」
「まあ良いや、朝ご飯つくるね~」
案外流してくれるほうが気楽だったりする。
パーラは台所に行き、なにかをつくり始める。朝飯なんてフレンチトーストだけで良いような気もするが、かれこれ1ヶ月以上多量の朝食を摂っているので、そろそろ胃袋が広くなった気もする。
そんなわけで、本日はフランス式の甘いパンやオレンジジュースを飲み、キズナはアーテルとの待ち合わせ場所へ向かっていく。
(ん? 誰かといっしょだな)
バス停の前で、アーテルは誰かと談笑していた。きのうの怯えきった表情から一転し、きょうのアーテルは随分顔色が良い。その理由はおそらく、隣にいる青髪の女性のおかげだろう。
「おはようございます」
「あ。お、お、おはようございます。あの、えーと、この方は、ホープ先生です」
「名前だけ訊いても分からないでしょうに」青いボブヘアのホープはにこやかに、「はじめまして。KOM学園のスクールカウンセラーのインターンをしてるホープです。まあ、インターンって言っても、もうほとんどKOM学園に就職してるようなものだけどね」
ホープ。きのう、狸寝入りしているとき訊いた名前だ。パーラやメントの友だちで、同じ高校に通っていたらしい。
「それで、貴方はキズナさんだよね? サングラス、似合ってるよ」
「あ、どうも」
サングラスをかけながら現れたキズナへも、ホープは優しげな表情を浮かべるだけだった。
そしてバスが到着する。キズナたちはそれに乗り、学校まで揺られていく。
「ホープ先生とアーテルさんって、どんな関係なんですか?」
「先生って言われると照れちゃうな~。悪い気はしないけどさ」
「ホ、ホープ先生は私の悩み相談に乗ってくれる方で、あの、その、すっごくお優しい方です」
「アーテルちゃん、たぶんキズナさんは素の性格でも受け入れてくれると思うよ」
「え、そうなんですか?」
「素がどんな感じか分かりませんけど、アーテルさん、というか先輩? が接しやすい態度で良いですよ。貴方が悪感情を持ってるとも思えませんし」
「あ、え、じゃ……ごほん。もう敬語使うのはやめます……やめるよ。キズナちゃん」
「うん、アーテル先輩」
バスは何事もなく、キズナたちをKOM学園校舎前まで送り届けた。
「じゃ、うちは他の子も見なきゃだからさ。特にイブちゃんのことをね~」
そう言い、バス内でアーテルの悩み相談に丁寧に答えていたホープは去っていった。
場にはキズナとアーテルが残され、彼女たちは中等部と高等部に分かれている校舎までともに歩いていく。
「ねえ、アーテル先輩」
「なんですか……じゃなくて、なに?」
「あの白い髪の先輩がイブってヒトなんでしょ? きのう散々もめてたけど、なにかあったの?」
「……、昔は仲良かったんだけどね」
なにやら触れてはならない雰囲気だ。キズナは、「そうなんだ」とだけ返事し、場はまたもや静まり返る。
そんなキズナとアーテル・デビルの分かれ道、そこにはイブがいた。
彼女は白いボブヘアの美人であり、きのう自己防衛のために“チャーム”をかけた相手でもある。
「あ……」
「大丈夫、ぼくがなんとかするよ」
“チャーム”で得た愛情なんて偽物だと考えているが、同時にその術式にはまった者はどうなるのかは知っておきたい。だから、キズナはイブのもとまで一歩ずつ歩みを進めていく。
近づいていくにつれ、イブの顔はりんごのように赤くなっていった。ただ、きのうのように走って逃げようとはしない。
「やあ、イブ先輩」
フランクな挨拶とともに、キズナとイブの距離はひそひそ話ができるくらいまで狭まった。
ただ、イブは返事をしてこない。キズナはすこし訝るような表情になる。
そのときだった。
「あの、名前訊いても良いかしら?」
「あれ、名乗ってなかったっけ。まあ良いや。キズナです」
「あと連絡先も交換しない?」
「ああ、良いですよ」
キズナはすこし笑みを浮かべる。
スマートフォンを取り出し、キズナとイブは携帯を交差し合う。イブの手は露骨なまでに震えていた。
「あと、もうひとつお願いがあるのだけれど、訊いてくれないかしら?」
「なんですか?」
「そ、その、今度学校が休みの日にデートしない?」
「デート?」
「あ、違うわよ? デートっていうのは便宜上の話であって、ただ遊ぶだけだから」
キズナもイブも女性。イブが同性愛者でもない限り、デートなんて単語は使わないはずだ。どうやら“チャーム”の力は本物らしい。
「あの中学生、今度はイブ様にすり寄ってるわね」
「きのうはアーテル様だったのに。そういえば、こんな噂聞かない? 7,000万メニーの“評定金額”をつけられた中学生がいるって」
「まさかあの子が7,000万メニーの子なの?」
「私も分からないけれど、KOM学園の二大巨頭に近寄れるってことは……」
(だから聞こえるくらいの声で陰口叩くなよ。いや、聞かせたいのかな?)
そんな名も知らぬ女子生徒の陰口は、おそらくイブへも届いているはずだ。
「ね、ねえ。キズナ」
「なんですか?」
「貴方が7,000万メニーの中学1年生なのかしら?」
どうせ隠していても発覚することだろうと、キズナはちょっといたずらっぽい笑顔を見せながら言う。
「そうですよ。どうも、ぼくには7,000万メニーの値札がつけられてるらしいです」
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