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16.とある冒険者達のお話
しおりを挟む「…たく、なんで私達がこんなことしないといけないんだよ…」
「まぁまぁ、そう言わずに…」
薄らと立ち上る夕霧の中、静寂の中から何人かの影がぼんやりと姿を写す。
苛立ちながら草木をかき分ける褐色肌の女性に対し、くせっ毛の青年が宥めるように声をかける。
「仕方ないじゃないか。
ここら辺には開拓村もあるし、“街”にもかなり近い。危険区域ではないから商人さん達もよく通るし、新人さんも多い。
そんな場所でまだ四ツ目月輪熊が彷徨いてるとなれば、いずれ大きな被害が出てしまうかもしれないだろ?
それなら僕らのような、慣れた人達が安全を確認しないと……て、ちょっと!?まだ話している途中だって…!」
「長いしうるさい。
それに、そんなこと私にもわかってる」
少しくせっ毛のある金髪の青年を無視して、褐色肌の女性はつまらなそうに歩を進める。
「はは…相変わらずつれないなぁ…。
…っと、おーいクリシラ?大丈夫かい?」
「ぜェ…はァ…、は、はい……」
「とても大丈夫そうには見えないけど…?」
少し遅れて、夕霧の中からゆっくりともうひとつの影が現れる。
クリシラと呼ばれた彼女は荒い息を吐きながら、フラフラと今にも倒れそうな様子で歩く。
青色の長髪は乱れ、額からは脂汗が溢れる。
「ったく…無理はしないようにって、いつも言っているだろ?」
「す、すいま、せん……」
「日も暮れちゃってるし、ここらで切り上げて今日はもう休もうか。
おーい、マレンー?そろそろ…」
「ん?」
くせっ毛の青年の呼び掛けに、先を進む褐色の女性が気だるそうに振り向く。
その時だった。
霧闇の中から突如、手が伸びる。
痩こけたるんだ、緑色の皮膚。
醜く伸び、黄ばんだ爪。
ひと目でわかる、異形の手。
人よりも明らかに小さいその腕が、静かに彼女の首元へと伸びる。
「マレンっ、後ろ!!」
「…っ、!!」
青年が叫ぶ。
手の主が暗闇の中から姿を現す。
大きさは彼らよりも二回り近く小さく、軽く見積っても腰ほどの大きさしかない。
垢に黒ずんだ濃緑色の肌に、肉の無い痩せこけた身体。
長く尖った耳と鼻と、血走る真鍮色の瞳。
剥いた歯は酷く黄ばみ、その先端は肉食獣のように鋭い。
人と獣の、その中間のような“異形”。
それが今まさに、彼女へと飛びかかろうとしていた。
「ふっ…、!!」
ヒュッ
ペきッ
「ぐギゅ…!!?」
刹那、弧を描く足の軌道。
空を割く鋭い蹴りが、正確に小人の側頭部へと放たれる。
何かが折れるような音。
しかし、
ギョロッ
「チッ…!!」
「ぎゅラッ…!!!」
吹っ飛ぶ直前、小人の目がぐるりと彼女の方を向く。
踏み込みが甘いのか、意識を断てていない。
軽く舌打ちした後、全力で足を振り抜ける。
小さな深緑色の身体が捻れ、その勢いのまま闇夜へと消えていく。
「ッ、浅いか…」
「大丈夫か!マレン!?」
「待て、ユウ!!」
「っ…!?」
近寄ろうとするくせっ毛の青年を、彼女はサッと制止する。
「囲まれてる…!」
風が吹き、周囲を隠していた霧が少し晴れる。
照らされる月明かりに、いくつもの真鍮色の瞳が覗く。
「ご、“小鬼”…!?」
「はは…こりゃ十匹ぐらいいるか…?」
驚く青髪の女性を横に、くせっ毛の青年は静かに冷や汗を垂らす。
やがて睨み合う視線の中から、ひとつの巨躯が月光の下へと顔を出す。
風体こそ周囲の小人達と似ているものの、その体躯は小人達の3倍以上。
長く伸びた銀色の髪に、全身を鎧のように覆う筋肉質の肉体。
動物の骨や皮を加工した、野性味溢れる装束を纏い、身体のいたる所に意味ありげな奇妙な刺青を施している。
手には青年達の身の丈程もある、巨大な棍棒を握り、ゆっくりゆっくりと彼らへと近づいていく。
「ギルるュ…」
「でっかいな…“変異”か。
装備品を見るに、お前さんが大将か?」
現れた巨躯を前に、くせっ毛の青年は軽く目を向ける。
自身たちよりも倍近く大きい相手にも関わらず、青年は全く臆せずに立ち上がる。
「マレン、クリシラを見といてくれ。
クリシラ、2人分の援護よろしく」
「…あぁ」
「は、はい…!」
青年は彼女たちに指示した後、腰にある長物へと手をかける。
吹き荒ぶ夜風に髪が揺れ、2つの視線が交錯する。
「ギルルるァ…!!」
「…さ、来なよ!」
まるで会話でもするかのように、2つの声が森に響く。
それを月は、ただ静かに見守っていた。
― ― ― ― ― ―
虫の音も、聞こえなくなるほどの激しい鼓動。
無情なほど静かに輝く、白い三日月。
噎せ返るような濃い血の匂いと、辺りに散らばった仲間の亡骸。
抱えた頭部が体温が、どんどんと冷たくなっていく。
命を根こそぎ奪う、四つ目の獣。
それと相対する、短剣を咥えた弱々しくも美しい、黒い獣。
そして恐怖の象徴を、一瞬で肉塊へと変えた、“何か”。
暗闇で輝く幾つもの松明の光を背に、形容し難いその何かは耳元に近寄り、そして…
「…はっ…!?」
窓から差し込む、薄い月明かりに照らされた部屋で、目が覚める。
見覚えのない木の天井、つんとくる薬品の香り、真新しい白い掛け布団。
そのどれもが、全く見覚えがない。
「スー…スー…」
現状に少し混乱していると、隣から規則正しい寝息が聞こえてくる。
見るとそこには10代程の金髪の少女が、ベットに寄りかかり寝息をたてている。
風に揺れる金髪と透き通るような白い肌が、寝息に合わせて微かに揺れる。
泣き疲れて眠ってしまったのだろうか。目元が少し赤くなっている。
「ゥ、ウェル…ちゃ、ん…?」
一体どのくらい眠っていたのだろう。
声を絞り出そうとするが、喉が渇いてうまく発音できない。
しかしそんな掠れた声に、ウェルと呼んだ少女の身体がピクリと動き、薄っすらと碧眼を開く。
青味の強い浅瀬色の瞳が、光弾く金色の睫毛の間からキラキラと輝く。
「んぅ…?」
少し湿った唇から少し間の抜けた声が漏れると、目を擦りながらむくりと起き上がる。
視線がかち合い、しばしの静寂が流れる。
「あ…あぁ…!」
やがて状況を理解したのか、先にウェルが声を漏らす。
歓喜と安堵の混ざり合った、嗚咽と最初の涙が、ゆっくりと頬を流れ落ちる。
一度流れ出すと、それはもう止まらない。
「あああぁぁあぁぁぁああああああ!!」
「えっ、あっ?うぁ」
口を動かすことよりも速く、ウェルは顔を涙で濡らしながら胸に飛び込む。
纏った白い服に、零れた涙が次々と滲む。
(…困ったな…)
これでは、とても話を聞けそうにない。
泣きじゃくるウェルに抱き付かれながら、辺りを見回す。部屋は思いの外広く、周りに幾つか似たような簡素なベットが置いてある。
窓の外は星空が輝き、まだ起きている人々の灯火が、ぽつぽつと漆喰の街並みに光を灯している。
どうやらここは、“街”の診療所らしい。
よく見ると他のベットにも何人か人がおり、ウェルの泣き声で目が覚めたのか、こちらを怪訝そうな顔で見ている。
泣き止まないウェルの背を擦りながら、何かが呟いていた言葉が、頭の中で反芻する。
『黒猫をよろしくね♪』
暫くすると、遠くからバタバタという足音が聞こえてくる。
その時には既に、ウェルは茶髪の女性の腕の中で、再び深い眠りに落ちていた。
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