黒猫クエスト

ギア

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17.朝影と共に

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「…ふぅ…」


登り始めた朝焼けが、まだ残る霧を赤く染め出した頃。
静かに流れる清流のそばで、か細い息が茂みに溶ける。

喉を通る冷水に、目覚めたばかりの脳が次第にその機能を取り戻していく。


開拓村に住み始めてから、早くも1週間が過ぎた。

あれから特に大した事も起きること無く、俺は猫としての生活を享受している。

おかげで所々禿げていた毛並みは綺麗に生え揃い、やせ細っていた身体は、健康的な肉付きへと変わっていた。


『それで…ご主人はこれから・・・・どうするの?』

(ん?)


ぶら下げた革製の鞘の中から、ラウルが声をかける。

ちなみにこの鞘は、捨ててあった草刈り鎌用の鞘を、木のツタなどで修理&改良したものだ。
少し不恰好には見えるものの、『引奪の灯火プロトス』で直接体にくっつけておくより、だいぶ動きやすい。


しかし、これから・・・・か…。


思えば猫になってからのこの数日間、俺はずっと命の危機に晒されていた。

森を跋扈する猛獣達に、体を蝕む病魔、骨が浮き出るほどの飢餓、夜も眠れぬ精神的苦痛の数々…上げ始めたらキリがない。

今までは“生きる”ことに必死で、あまり先の事は考えられなかったが…

確かに、これからも猫として生きていく上で、大まかな目標は決めておいた方がいいか。


正直このまま猫として、この村で過ごすのも悪くはない、が…


俺にはまだ、前世で“未練やり残したこと”がある。


『?』


それは…


ゲーム会社「SiRoNeKo」の新作RPGを、プレイできていないこと…!


思えばそうだ。
黒猫に転生したあの日は、ちょうどその新作のリリース日!

何ヶ月も待ち望んでいたというのに、一瞬もプレイできないなんて…
これでは死んでも死にきれない!!!


何としてでも人間へと戻り、そして前の世界へと帰る!
そして新作RPGをプレイすること!!


それが、俺の今の“目標”だ。


『は、はぁ…』


まぁ、既に猫として転生してしまっている以上、元の身体に戻るというのはかなり難しいだろう。

だが、ここは悪魔も魔術も実在する世界。
探せばきっと、元の世界へと帰る方法も見つかるはず…!


(だからまずは情報集めに、ココが言っていた近くの“街”に行って…

…ん?)


そんなことを話していると、村の方で何やら騒がしい声がする。


こんな朝早くから、一体何事だ?

息を潜めつつも、小屋の裏にある茂みの中から喧騒の方を向く。


「~~~、~~~~~!」
「ーーーー!ーー、ーーー!」


井戸のそばにある開けた場所に、何人かの大人たちが集まっているのが見える。

その中で一際目立つ、見覚えのない若い3人。
3人とも、年齢はおそらく18、19前後。


1人はくせっ毛に金髪の青年。

迷彩模様の外套に、日に焼けた茶黒い革鎧。
下には白い朝服を纏い、腰にはいくつかの小物入れと小瓶、そして1m前後はあろうナタに似た剣をぶら下げてた。
かなり使い込んでいるようで、剣の鞘にはところどころ補修したような跡が残っている。


もう1人は赤髪に褐色肌の女性。

赤銅色の胸当てに、丈の短いホットパンツ。
かなりの筋肉質で、露出の多い服からは鍛え上げられた肉体が覗く。
一見すると武器のようなものは見当たらず、代わりに拳には手甲を、脚にはすね当てのようなものを装備している。
その出で立ちはさらながら、ボクサーやムエタイ選手にも似ている。


そしてもう1人は青い長髪の女性。

赤髪の女性とは反対に、丈の長い小綺麗な衣装に身を包み、肌の露出はほぼ無い。
頭にはザ・魔法使いというような、つばの広い三角帽子を被り、手には身の丈近くもある大きな木製の杖を握る。
装飾は少ないものの、その杖は香木にも似た、高級感のある雰囲気を漂わせている。


3人とも、かなり大きめの荷物を背負い、足元は泥で汚れている。
おそらく、村の外から来た人間だ。


(あれは…“冒険者シーカー”…か?)


この世界には“冒険者シーカー”と呼ばれる人々がいる。


彼らは己の特技や能力を活かし、様々な依頼をこなして生活している。

その仕事内容は多岐にわたり、害虫や害獣の駆除、馬車の護衛、行方不明者の捜索、素材採取、要人警護、危険地帯の探索、郵便配達など様々。

その中には危険な依頼も少なくはなく、時には命を落とす事だってあるらしい。


元々は未探索地域の調査を行う集団だったが、時代とともにそれが変化。

今では職にあぶれた者たちが、その身を削って日銭を稼ぐ。いわばフリーの傭兵稼業のようなものへと変化していったという。

冒険者シーカーという名もその名残らしい。


ココの兄も冒険者シーカーをしているらしく、近くの街を拠点に活動しているという。

俺がこの前出会った、四ツ目月輪熊ヨツメツキノワグマに襲われていた彼女らも、おそらく冒険者シーカーなのだろう。


その風体から見るに、彼らもおそらく冒険者シーカーだ。

現に、その首元には冒険者シーカーであることを表す、金属製のドッグタグのようなものをぶら下げている。

依頼かなにかで立ち寄ったのか?
それとも…


『おーい、ご主人ー?そろそろ…』

(…あっ…!)


っと、今はそんなことを考えている場合じゃなかった。


そろそろ、ココが朝食を済ませて出てくる時間だ。
早く戻らないと、今日の朝食を逃してしまう…!


登り始めた朝日に焦りながら、鳥たちの声を背に茂みの中を駆ける。


やがて森に再び静寂が戻った頃、


ガサガサッ


先程とは違う、いくつかの影が薮を間を走る。


不規則でまばら。
しかし何故か妙に連帯感のあるその足音は、まるで人の気配を避けるかのように森を進む。


踏み締められた後ろ土には、

五本の指の足跡が、深く刻み込まれていた。
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