私の婚約者はちょろいのか、バカなのか、やさしいのか

れもんぴーる

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気が楽でいいわ~

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「エミリア様の婚約者の方、また昨日カフェでお見掛けいたしましたわ。」
「そうなの?」
「心配ですわ、例の令嬢とご一緒でしたの。」
「そうですか。とっても嬉しいお知らせですわ。で、それが何か?あなたはそれを私に伝えてメリットでもおありになるのかしら?」
 満面の笑顔で問い返すエミリアに、話しかけてきた同級生はバツの悪い顔をして離れて行った。人の不幸を喜ぶ人間はどこにでもいるし、明らかにエミリアを嘲笑うつもりだったのだろう。

 おあいにく様!

 ヨハンよ!その調子で4か月間、幼馴染と逢瀬を楽しんでくれたまえ!
 その間に私は人知れず自由な世界に飛び立つわ!
 夢が広がり、エミリアの心は浮足立っていた。

 それ以来なんの心配もなく登下校が出来るようになった。寮から学園まで敷地の外に出る必要がない。
 休みの日は隣国レイノー国の言葉や文化の復習をし、レイノー国への留学や移住について外務部へ問い合わせたりと忙しい日々を過ごしていた。
 寮あてにヨハンから何通も手紙が届いていたが、残念なことに偶々水に落ちて読めなくなった。内容を知らなければ煩わされることもない。
 父からは休みの日くらい家に戻るように連絡が来た。婚約者に連絡するようにとも書かれていた。
 しかし、忙しい。家に帰る時間があれば、準備に時間を使いたい。寮に暮らすようになってからできた友達とも出かけたいし、ヴィンセントとも会いたいのだから。そうするうちにあちらから婚約解消か破棄を申し出てくるだろう。
最悪、こちら有責にされてもいい。そうならないように、あちら有責で婚約解消できる間に父に相談したのに、聞く耳を持ってくれなかったのだから家の恥になろうと仕方がない。

 今日は街でヴィンセントと兄のユーロと待ち合わせをしている。
「お兄様、お久しぶりですね。」
「全くだ。全然家に戻ってこないでみんな心配しているよ。」
「心配なんかしていないでしょう?心配しているのはバランド家と縁を結べるかどうかだけで私の事なんかどうでもいいのよ。」
「そうじゃないとおもうけどなあ。まあ、父上もあれだけどお前も強情だからね。」
「でも、実際エミリアの婚約者は他の女性と懇意にしているじゃないか。婚約破棄じゃなく、お互い納得の解消がなぜできない?せめて苦情を申し入れるべきだ。エミリアが可哀想だよ。笑われているのはエミリアなんだ、そのことをもっと考えてやるべきだよ。」
 エミリアの代わりにヴィンセントが言ってくれる。

「それはそうだけど・・・父も先方も婚約解消は絶対しないというんだ。幼馴染の女性は男爵令嬢らしく、領地で懇意にしていたらしいよ。それが、王都に出てきて右も左も分からないから色々経験させてあげているらしい。」
「ふん、あちら発信の情報だろ?それが何でいつも顔合わせの日なんだよ、前日に急に断るとかわざとしか思えないね。都会の経験って、カフェに行ったり、買い物に行ったり、腕を組むことをいうのか?お前も、お前の両親も向こうの味方ばかりするのな。残念だ。」
「別に味方をしているわけじゃない、情報を伝えただけじゃないか。」
 ヴィンセントの苦言にユーロも反論する。
「でも確かに、詳細を聞いてなかったからそんなこととは知らなかったんだ。エミリア、すまない。」
「今更どうでもいいです、自分で何とかするつもりだから。」
「どうするつもりなんだ?」
 兄の問いにも不敵な笑みを浮かべ
「さあ、思いきり浮名を流そうかしら。呆れてあちらから婚約破棄を言って来るかも。それともこれからぶくぶく太ってだらしない姿になってもいいし、人の悪口しか言わない嫌な女を目指すもよし!やり方はいくらでもあるわ。」
兄とヴィンセントは目を見開いて
「冗談だろう?自分自身が傷つくことばかりじゃないか。」
「だって他人を傷つけたくないし家族も当てにできないんだから自分で出来ることをするしかないでしょ。」
「・・・エミリア。父上はそこまでこの婚約を嫌がってるとは思ってないと思う。もう一度話をしたらどうかな。」
「何度も何度も相談したわ、話なんか聞いてくれなかった。都合が悪くなればまた殴って黙らせるんだから。あ・・・・。」
 言わないでおくつもりだったのについこぼしてしまった。
「父上が手を挙げたのか?!」
「・・・私も悪かったとは思うけれど。我慢しろというから、私も同じことをしてもいいんですね?みたいな?言ってしまったの。」
「だから・・・寮に。家にも帰ってこないのは・・・そういうことか。すまない、知らなかったんだ。」
 兄は勘違いしているが、寮に入ったのはヨハンに会わないためなのだ。
 ま、勘違いさせておこう。
「はいはい、辛気臭い話はこれでおしまい。お互いに良くなかったと今は反省しています。それに寮生活は快適で今はなんの憂いもなく楽しんでいますから。」
「でも、お前に会いたいと家に来るし、手紙も届く。」
「ばれたから慌てて取り繕うなんて所詮私の事を見下しているのでしょう。両てんびんにかけているのか、うちの財力が必要なのか知らないけど。」
「でもこのままじゃ駄目だろ。婚約を解消するにしても破棄にしても一度は話をしないと。こうなれば当人同士で済む話でもないしな。」
「そうね、やっぱり嫌われるために頑張るしかないのね。」

 もう父と婚約者に労力を割くつもりのないエミリアは卒業と同時に国を出るつもりだが、それは家族にも悟らせるつもりはない。適当なことを言って時間稼ぎしとけばいいくらいに思っている。
 きちんと対応しようとしていた時に、話を聞いてくれなかったのだからもうあきらめた。
「そうよ、そうする。いや~な女になるわ。イライラも解消されるし、嫌われるし一石二鳥ね!」
「いや、そうじゃないだろ・・・」
 ユーロはため息をついた。

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