破滅確定の悪役貴族、【絶対快眠】スキルで最強魔法使いになったので、学園スローライフを満喫する

1章

第51話 アークの魔力――まさかの平均値

　アークは壇上で、得意げに胸を張って測定器に手をかざす。
　
「フン……見てろよ。僕の力を――」

　だが、次の瞬間。

　測定器がぽうっと光り、淡々と数値を示す。

　その数値は……「53」
　
　ざわつく会場。周囲の生徒が「あれ？　低くはないけど……普通じゃね？」「期待してたほどじゃないな……」と囁き合う。

　教師が機械のパネルを覗き込み、苦笑交じりに結果をアナウンスする。

「53……評価はB、ですね。まあ、平均より少し上くらいでしょうか」

　アークは目を剥いて測定器を二度見する。

　信じられないといった表情だ。
　
「ば、馬鹿な……！　こんなの壊れてるに決まってる！　もう一度やらせろよ！」

　しかし、教師が首を横に振る。
　
「何度やっても同じ結果が出るはずです。精密に作られているので誤差はほとんどありません。あなたの魔力は53、B評価……以上です」

「ふざけるなぁ！　僕は次期勇者なんだぞ！？　スキルは剣聖、世界最強のはずだ……何が平均値だって……！」

　アークは顔を真っ赤にして喚き散らす。

　周囲の生徒たちが困惑と失笑が入り混じった表情で見守る。

　教師陣も困り果てたように呆れた声を出す。

「――彼を連れ出しなさい。テストの進行に支障が出る」
　
「くっ、離せ！　僕は勇者なんだぞ！　こんなの間違いに決まってる……！」

　騎士のような風貌の学院スタッフがアークを羽交い締めにして、壇上から引っ張り下ろす。

　アークはわめき続けるが、誰も聞いていない。

　最終的に会場の外へつまみ出される形になる。
　
　あまりに壮絶な“ざまぁ”シーンに、会場は一瞬の静寂のあとクスクスとした笑いが広がった。

「うわあ……マジであれが勇者？」
「スキルが剣聖でも、魔力は普通だったんだ……」
「過剰に自信を持ってた割にはショボいな」

　俺は列の後ろからその光景を見て、内心で苦笑する。
　
「まあ、魔力とスキルの強さは別問題なのかもしれないけど、あそこまで大騒ぎするとは呆れるな」

　フローラは少し気の毒そうに眉を寄せる。
　
「……アーク、こんな感じなのね。剣聖だからって魔力が高いとは限らないのかな？　剣聖スキルで近接戦闘は強いのかもしれないけど……」

「むしろ魔力に恵まれてなくても“剣聖”なら充分戦えるんだろうな。本来なら堂々としてりゃいいのに、自分が魔力も最強って思い込んでたからプライドが壊れたんだろう」

　何にせよ、アークが大恥をかいて退場したことで、会場の雰囲気は若干ゆるんだ。

　教師が咳払いしてテストを再開させる。
　
「次の方、壇上へ。手をかざしてください」

　こうして魔力判定テストは淡々と進むが、アークの騒動が尾を引いて、最初ほどの緊張感は薄れている。

　★

　数分後、遂にフローラの名前が呼ばれる。
　
　彼女は「行ってくるね」と一言残して壇上へ向かう。

　ピンク髪を揺らしながら測定器の前に立つ姿は、会場から見ても際立って美しい。

　教師が書類を確認しつつ、「フローラ……スキルは“剣華（けんか）”ですか。剣士系の特殊スキルですね。では手をかざしてください」と指示を出す。
　
　フローラが落ち着いた様子で両手を測定器に触れると、光の柱がぶわりと沸き上がった。

「わ……？」
　
　会場がどよめく。測定器のパネルが弾き出した数字は「80」
　
　一気に周囲が騒がしくなり、教師も目を見開いて声を張り上げる。

「なっ……80……！　Sに近いレベルの数値だ……！」

　評価は暫定的に「S」に近い「A＋」らしい。

　瞬く間に場内がざわつき始め、あちこちから歓声や驚きの声が上がる。

「すごい……」
「まさかあの子、あんなに魔力が高いの？」

　フローラ本人は驚きつつも、恐縮気味にペコリと頭を下げ、壇上を降りてくる。

　周囲は拍手を送る生徒さえいる。

　彼女がそれだけの注目を浴びるのも頷ける。
　
　俺はそっとフローラに駆け寄り、「すげえじゃん」と声を掛ける。

　すると彼女は頬を染めて恥ずかしそうに笑う。

「ありがとう……私もこんな数値が出るとは思わなかった。剣士系スキルでも魔力があるのかな……自分でも意外だったよ」
　
「うん、まさに剣士＋魔力両刀って感じじゃないか？　今後ますます強くなりそうだな」

　フローラは恐縮しつつも嬉しそうだ。

　それにしても、「80」というのは並外れた数字。

　教師たちも「これは今期トップクラスかもしれん」と話し合っているらしい。