悪役貴族に転生した俺、前世のスキルが残っているため、勇者よりも強くなってしまう

空月そらら

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1章

第43話 内部の情報

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「まず、あなた方にお礼を。今回のような依頼を受けて下さり、ありがとうございます」

 目の前で丁寧に頭を下げたのは、この領地を治めるベルド伯爵だった。

 その姿に、俺たち一同は一瞬、驚いてしまう。

 思わず立ちすくむユキが、頭を下げるのをやめようとしたが、伯爵は話を続けた。

「実は、我が娘が誕生日にどうしても魔法杖が欲しいと言いましてね。しかもただの杖ではなく、上位の杖を所望するというのです。そこで、上質な杖を作るための素材として、ヤギンの角が必要になり、今回の依頼を出したのです」

 そう語る伯爵の言葉には、娘への愛情が垣間見えた。

 貴族という身分を超えて、ただ一人の父親としての気持ちがそこにあった。

 俺はそれを心の中で感じ取り、ベルド伯爵への印象が少しずつ変わり始める。

「そうだったんですね、ですが安心してください。ヤギンの角はこちらにあります」

 ユキはにこやかに微笑みながら、持っていた袋からヤギンの角を取り出し、伯爵に差し出した。

 その角は漆黒の光沢を放っており、見る者に迫力を与える。

 どうやらこの角は、強力な魔法杖に合成することができるらしい。

 俺たちが命をかけて手に入れた代物だけあって、ただの角とは思えない異様な存在感がある。

「本当にありがとうございます! これで、ようやくあの子の望む魔法杖を作ることができます!」

 伯爵は満面の笑みを浮かべ、角を大切そうに両手で抱きかかえた。

 その喜びの表情に、俺たちも思わず安堵の息をつく。

 俺たちがしたことは、ただ依頼をこなしたに過ぎないが、その結果がこうして目の前で喜ばれると、何とも言えない達成感が胸に広がる。

「では、こちらの報酬金を受け取ってください」

 伯爵がそっと差し出してきた袋には、金貨が5枚も入っているのがちらりと見えた。

 金貨5枚ともなれば、相当な額だ。

 俺も思わず目を見開き、隣に立つユキも驚いたように袋を見つめる。

「え、こんなに!?」

 ユキが思わず声を上げるが、伯爵はそれを気にすることなく微笑みを浮かべている。

 その金貨が、ただの感謝の証以上の意味を持っていることは、ベルド伯爵の表情からも察せられた。

 彼がこうして手厚い報酬をくれたのも、娘を想う父親としての心の現れなのだろう。

「今回の依頼は極めて危険だったと思います。本当に感謝しかありません」

 伯爵の言葉に、一同は静かにうなずく。

 確かに、ヤギンの角を手に入れるための道程は過酷だった。

 あの森での戦闘のことを思い出すと、今でも胸がざわつく。

「確かに危険だったけど~、成長はできたよね~」

 ルンが明るく笑顔を浮かべながら言った。

 その表情は、まるであの死地を潜り抜けたことさえ誇らしいかのようだ。

 どこか達観した様子で、俺も思わずその言葉に同意する。

 あの戦いを乗り越えた今、俺たちには新たな自信が生まれている気がする。

 ふと、会話が一区切りついたタイミングで、俺は以前から気になっていたことを思い切って切り出してみることにした。

「ベルド伯爵、貴方から王国内部について、聞きたい情報があるのですが、宜しいですか?」

 俺の言葉に、伯爵は一瞬だけ考え込んだようだった。

 ベルド伯爵の表情がわずかに険しくなり、何か決意を固めるかのように小さくうなずくと、近くにいたメイドに目を向けて指示を出した。

「良いでしょう、メイド達よ、この部屋から一旦出てもらえるか」

「承知いたしました」

 その言葉とともに、メイドたちは迅速に部屋を後にし、扉が閉まると、俺たちとベルド伯爵だけが残された。

 広々とした部屋に漂う緊張感が、会話の重みを増す。

 伯爵の瞳がじっと俺たちを見据え、その奥に秘められた意志の強さが、次第に感じ取れるようになってくる。

「それで、話というのは何でしょうか」

「ええ、最近、貴族内で派閥が起きていたりしませんか?」

 俺が尋ねると、伯爵は静かにうなずく。

 彼の視線が少し鋭くなり、口を引き結ぶようにして言葉を選びながら話し始めた。

「派閥ですか……確かに、近年、貴族たちの間にはいくつかの派閥が生まれています。政治的な意見の相違から始まり、今では次第に勢力争いの様相を呈してきているのです」

 伯爵の語り口は慎重で、どこかに危機感が含まれているようだった。

 俺たちは静かに耳を傾け、その言葉を聞き逃すまいと集中する。

 彼の話の背後にあるのは、ただの権力争い以上のものかもしれない、そんな気がしてならなかった。

「その内容、詳しく聞かせてもらえませんか? 私たちは今冒険者として活動していますが、よくない噂を耳にするのですよ」

 伯爵の表情がさらに険しくなる。

 俺が口にしたのは、ただの噂ではなく、確信めいた情報だった。

 そしてその内容は、この国の未来に大きな影響を及ぼしかねないものだ。

「噂?」

「はい、例えば……神を蘇らせるとか」

 俺の言葉を聞いた瞬間、伯爵の顔色が変わった。

 額に汗が浮かび、明らかに動揺しているのがわかる。

 その反応は予想していた以上のもので、俺たちは一瞬だけ目を見交わした。

 この話題が、ただの噂以上の危険なものだという確信が深まる。

「あなた方は……どこまで知っているのですか?」

 伯爵の声には、隠しきれない震えが混じっていた。
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