クラス M

東門 大

文字の大きさ
4 / 17
第一章 かずま

第4話 優香

しおりを挟む
 五分くらい歩くと、優香の家に着いた。家の前には優香と僕の知らない男子がいた。男子は優香の前で土下座させられていた。

「優香!」

 萌絵様の呼びかけに優香は手を振って答えた。僕は優香を見ないように下を向いて歩いた。

「どうしたの? そいつ」

 萌絵様が土下座している優香の付き人を、顎で指した。

「何でもないよ。ちょっと反抗的だったから、お仕置きしてやっただけ」

 男子は青い顔をして、汗をかいていた。

 お仕置きって、何をされたんだろう……。何か恐ろしいことをされたんだろうか。あの優香に……。

 優香と言えば卒業式の後、「このクラスは男子も女子も仲良く助け合える最高の学級でした。こんな経験はもう出来ないのでないかと思うと、本当にこの学級で良かったと思います」なんて言っていた子だった。誰にでも明るく、活発な子。土下座する男子の前に立ち、「そいつ」呼ばわりする女子が、同一人物だとは思えなかった。そんなことを考えていたら、萌絵様は萌絵様で、とんでもないことを言い始めた。

「へえー、そうなんだ。だったら取り替えてもらったら?」

 まるで物みたいな言い草だ。

「うん、ちょっと考えた。でもそれやるとこいつのクラス下がっちゃうんだろ? もう1回チャンスやろうと思ってさ。……それより」

 優香は僕をのぞき込んできた。

「萌絵の付き人ってこいつ?……プッ、ハハハハハハハ」

 優香は大笑いした。僕がちらっと優香を見ると、ますます大声で笑った。小学校の時は、楽しい仲間だった彼女が、今は僕を蔑むいやな女にしか見えなかった。

「ほら、挨拶しなさい」

 萌絵様が僕の頭を押さえてきた。僕は仕方なく「優香、おはよう」とだけ言った。

 それを聞いた萌絵様が僕の左頬を思い切り叩いた。

「どうしようもないやつだね。さっき、呼び方を教えただろ」

「萌絵も大変だねえ。自己アピールもできず、尻叩かれた奴を任されて」

 僕は屈辱に絶えながら「おはようございます。優香様」と挨拶した。

 優香は当然という表情をして、挨拶を返すこともせずに歩き出した。土下座していた男子も立ち上がり、女子二人についていった。


「きみ名前は? どこの小学校?」

 歩きながら、優香の付き人男子に尋ねると、萌絵が僕を叱ってきた。

「おしゃべり禁止! 何でも私の許可なくやったらだめだからね」

 その一言で、僕は名前も聞けなくなってしまったが、男子は鞄の名前をさして、堀 晴奈ハルナと教えてくれた。

 そこからは無言で歩いていると、二人の会話がいやでも聞こえてきた。

「優香は部活決めたの?」

「もちろん。バスケに入るよ」

「そうか、小学校からやってたもんね」

「萌絵は?」

「私、スポーツ嫌いだからさ。入りたいの思いつかなくて」

「あいつ(主馬のこと)サッカーできるよ。サッカー入れたら? 先輩が面白いって言ってたよ。それに部長のヨ・シ・キさんだったかが、かっこいいって」

「サッカーかあ。いいかも、フフ。こいつもプロサッカー選手にでもなれたらクラスBまで上がれるしね。じゃあそうする。ところで優香の付き人はどうするの?」

「バスケやるから、私のマッサージや椅子代わりかな? マッサージ師ってクラスなんだっけ」

 勝手な会話だったが、サッカーをやれそうだと聞いて、僕の中学校生活にもようやく希望の光が見えてきた気がした。でもそれは……
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

完全なる飼育

浅野浩二
恋愛
完全なる飼育です。

まなの秘密日記

到冠
大衆娯楽
胸の大きな〇学生の一日を描いた物語です。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

借金した女(SМ小説です)

浅野浩二
現代文学
ヤミ金融に借金した女のSМ小説です。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

処理中です...