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38、初陣(1)

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 グルルと喉を鳴らして、翼を持つ虎が香箱を組む。

「乗れって、こと?」

 確認すると、彼は大きな顔を私の頬に擦り付けた。……サイズが変わっても、セリニはセリニだ。
 私は白い肩に手をかけて、一息に窮奇に飛び乗った。うわっ、もっふもふ! 広い背中は人が三~四人乗せても平気そうな頑丈さだ。さすが、魔獣。
 おっかなびっくり座り心地を確かめている私の背後に、今度はスノーが勝手に乗ってくる。

「さあ、行こう!」

 陽気な魔法使いに、どうやって? と訊く前に、セリニがすっくと立ち上がった!

「わ! ひぇっ」

 私は慌ててセリニの首筋にしがみつく。鞍も手綱もないから、どこに掴まっていいのか解らない。
 しかし、そんな飼い主わたしの困惑をお構いなしに、窮奇は猛禽の翼を広げた。ばさりと大きく羽を動かすと、辺りに砂煙が上がる。
 何度か翼を羽ばたかせ、風を蓄えたセリニの足が地上を離れる。
 重力から解き放たれる感覚。
 得も言われぬ浮遊感に、私が息を呑んだ……その時。

「エレノア!」

 呼ばれると同時に、地上から何かが投げられた。反射的に手を伸ばして受け取ってみると、それは丈夫そうな伸縮素材で作られた、革紐のついた胴輪だった。これ、騎獣用の手綱だ。

「がんばって!」

 見下ろすと、敬礼をするユニの姿が。
 見送りしてもらえるのって、嬉しいね。

「ありがとう!」

 私も敬礼を返して、セリニと(あと謎の同乗者と)共に、夜空へと飛び立った。
 宙に浮いた状態のまま四苦八苦しながら虎の前足に胴輪を通して、手綱を握る。うん、安定感がぐんと上がったぞ。帰ったら専用の鞍も作ってもらわなきゃ。
 しかし、出発前にもたついたお陰で、先に出発したフィルアート達の姿はもうどこにも見当たらない。
 馬は余裕で追い越したけど、目的地が分からないんじゃ意味がない。

「西門ってどっち?」

「さあ? あっちじゃない?」

 顔だけ振り返る私に、スノーは気のない風に適当に指を差す。

「それより、遊覧飛行を楽しもうよ。夜空のお散歩なんて乙じゃない?」

 呑気な年下にイライラしてしまう。

「あなた、騎士団の一員でしょ?」

「うん。でも、なりたくてなったわけじゃないし。王子様達は結構強いから、なんとかなるんじゃない? 僕ほどじゃないけど」

 ……なんだ、それ?

「スノーが第七隊の中で一番強いっていうの?」

「多分、この国で一番かな」

 すごい自信だ。

「だったら、真っ先に駆けつけなきゃじゃない」

「どうして?」

 首を傾げる自称最強魔導士を私は睨みつける。

「責任を押し付ける気はないけど。でも、もし取り返しのつかない事態になった時、『自分がそこにいたら状況は変わってたかも』って後悔しない?」

 スノーは上目遣いに考えて、

「僕、他人の命なんか気にしないタイプだから」

 ……左様ですか。
 でも私は……そのタイプじゃない。

 ドォン!

 左手の方角に赤い閃光がはしる。あれは騎竜ルラキのドラゴンブレスだ。

「私は私が後悔しないために、スノーと現場に向かうの!」

 手綱を引いてセレニの首を巡らす私の後ろで、白い魔法使いはやれやれとため息をついた。
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