34 / 36
第五章 災厄の日
三 浄
しおりを挟む
一〇〇余年にわたり、諍いから縁遠かった都が血に染まる。
頭には兜、胴には鎧、腰には太刀。
全身に高級な装備を着込んだ禁軍の武士たちは、ある者は首を飛ばされ、ある者は袈裟斬りにされ、あるものは両腕を失い絶叫の後に倒れ伏す。鎧ごと胴を真二つに切断された者の姿を見れば、その装備には何の意味もないことがわかる。
溢れた血は踏み固められた土の道に染み込み、どす黒く色を変える。多くの者は一太刀で命を失うため、地に倒れる者の多さに比べ、呻き声を上げている者の数が少ないのが特徴だった。
都の地に、浄が立っていた。
闇夜に紛れて内部へと忍び込み、警備をしていた武士に誰何されたのが、四半刻程前。浄はすでに、内裏の目前に迫っている。
いつもと変わらぬ濃藍の着物と、腰には無造作にさした刀。もっとも刀は二〇人も斬れば悪くなってくるため、すでに携えてきた刀は鞘に戻している。今浄が手にしているのは、斬りかかってきた武士から掠め取った太刀だ。
一歩足を踏み出すごとに、斬りかかってくる武士を返り討ちにしていく。多すぎてもはや斬った人数を数えることすらできないが、浄の感情を消しきった顔に、疲労の色は見えなかった。
無尽蔵のごとく武士が後から、後から現れるが、浄にとっては、投げられた球を軽く打ち返す遊戯に等しい。武士はそれぞれ太刀を携えてくるので、換えの得物に事欠かないのも、浄の歩みを止められない一因だ。
浄の歩んだ後には無残な死体が転がって、まるで花道のようになっている。その様はまさしく、浄の異名である羅刹そのものだった。
いっぽう、斬りかかってくる武士の勢いは落ちている。
禁軍の総数から言えば被害は少ないものの、目の前に転がる死体の数が増えれば士気は下がる。武士は数多いるが、武士一人ひとりの命は一つしかないのだから当然のことだ。
「単独で挑むな! 敵はたった一人ぞ。背後を取れ、弓兵構え!」
武士が壁となり行く手を阻むその向こうから、激しく指示を飛ばす声が聞こえる。一際立派な鎧を身にまとった禁軍の小隊長だ。
「内裏に足を踏み入れさせるな。禁軍の名にかけて天子様をお守りするのだ!」
小隊長は絶えず声を上げ、兵を指揮し、ともすれば総崩れとなりそうな隊の士気を支えている。
「放て!」
奮闘を続ける小隊長の掛け声に合わせ、ずらりと並んだ弓兵の引き絞った矢が放たれた。
浄目掛けて飛び出した矢の数は一〇。練度の高い弓兵の放った矢は真横一列に並び、逃げ場を封じている。さらに目の前と背後に太刀を構えた武士が一人ずつ。
その全てへ視線を向け、刹那。浄が回転斬りの要領で太刀を薙ぐ。月夜に煌めいた刃は、全ての鏃を捉えて打ち落とし、その勢いのまま前後の武士の首が胴体から転がり落ちる。
「ひぃっ! ば、化け物!」
誰かが上げた、掠れた悲鳴。その言葉は、この場にいた全ての者の心の声を代弁していた。
「馬鹿者、陣を乱すな!」
瞬間、聞こえてきた声に、浄は微かに口角を上げる。大きく足を踏み込み、目の前の五人を瞬く間に斬り伏せる。武士の壁が崩れた中を駆け、総髪を風になびかせながら、軽やかに跳躍。
「陣、を……」
なおも声を上げ続けていた小隊長へと肉薄すると、頭上から大きく太刀を振り下ろす。兜を両断し、刃は小隊長の臍のあたりまで食い込んだ。
ずるりと二つに分裂して崩れていく小隊長の姿に、また周囲から悲鳴が上がる。悲鳴の主は、今度は一人ではない。周囲で様子を見ていた多くの武士が戦意を喪失し、その場に尻もちをついて倒れる。
浄は唇に飛んだ返り血を舐めながら、小隊長の骸から新しい太刀を持ち去った。
襲いかかってこない者には目もくれず、道を駆けると、目の前に立ちはだかった門を斬り破る。浄が刀を抜いてから半刻後には、内裏の中へ足を踏み入れていた。
頭には兜、胴には鎧、腰には太刀。
全身に高級な装備を着込んだ禁軍の武士たちは、ある者は首を飛ばされ、ある者は袈裟斬りにされ、あるものは両腕を失い絶叫の後に倒れ伏す。鎧ごと胴を真二つに切断された者の姿を見れば、その装備には何の意味もないことがわかる。
溢れた血は踏み固められた土の道に染み込み、どす黒く色を変える。多くの者は一太刀で命を失うため、地に倒れる者の多さに比べ、呻き声を上げている者の数が少ないのが特徴だった。
都の地に、浄が立っていた。
闇夜に紛れて内部へと忍び込み、警備をしていた武士に誰何されたのが、四半刻程前。浄はすでに、内裏の目前に迫っている。
いつもと変わらぬ濃藍の着物と、腰には無造作にさした刀。もっとも刀は二〇人も斬れば悪くなってくるため、すでに携えてきた刀は鞘に戻している。今浄が手にしているのは、斬りかかってきた武士から掠め取った太刀だ。
一歩足を踏み出すごとに、斬りかかってくる武士を返り討ちにしていく。多すぎてもはや斬った人数を数えることすらできないが、浄の感情を消しきった顔に、疲労の色は見えなかった。
無尽蔵のごとく武士が後から、後から現れるが、浄にとっては、投げられた球を軽く打ち返す遊戯に等しい。武士はそれぞれ太刀を携えてくるので、換えの得物に事欠かないのも、浄の歩みを止められない一因だ。
浄の歩んだ後には無残な死体が転がって、まるで花道のようになっている。その様はまさしく、浄の異名である羅刹そのものだった。
いっぽう、斬りかかってくる武士の勢いは落ちている。
禁軍の総数から言えば被害は少ないものの、目の前に転がる死体の数が増えれば士気は下がる。武士は数多いるが、武士一人ひとりの命は一つしかないのだから当然のことだ。
「単独で挑むな! 敵はたった一人ぞ。背後を取れ、弓兵構え!」
武士が壁となり行く手を阻むその向こうから、激しく指示を飛ばす声が聞こえる。一際立派な鎧を身にまとった禁軍の小隊長だ。
「内裏に足を踏み入れさせるな。禁軍の名にかけて天子様をお守りするのだ!」
小隊長は絶えず声を上げ、兵を指揮し、ともすれば総崩れとなりそうな隊の士気を支えている。
「放て!」
奮闘を続ける小隊長の掛け声に合わせ、ずらりと並んだ弓兵の引き絞った矢が放たれた。
浄目掛けて飛び出した矢の数は一〇。練度の高い弓兵の放った矢は真横一列に並び、逃げ場を封じている。さらに目の前と背後に太刀を構えた武士が一人ずつ。
その全てへ視線を向け、刹那。浄が回転斬りの要領で太刀を薙ぐ。月夜に煌めいた刃は、全ての鏃を捉えて打ち落とし、その勢いのまま前後の武士の首が胴体から転がり落ちる。
「ひぃっ! ば、化け物!」
誰かが上げた、掠れた悲鳴。その言葉は、この場にいた全ての者の心の声を代弁していた。
「馬鹿者、陣を乱すな!」
瞬間、聞こえてきた声に、浄は微かに口角を上げる。大きく足を踏み込み、目の前の五人を瞬く間に斬り伏せる。武士の壁が崩れた中を駆け、総髪を風になびかせながら、軽やかに跳躍。
「陣、を……」
なおも声を上げ続けていた小隊長へと肉薄すると、頭上から大きく太刀を振り下ろす。兜を両断し、刃は小隊長の臍のあたりまで食い込んだ。
ずるりと二つに分裂して崩れていく小隊長の姿に、また周囲から悲鳴が上がる。悲鳴の主は、今度は一人ではない。周囲で様子を見ていた多くの武士が戦意を喪失し、その場に尻もちをついて倒れる。
浄は唇に飛んだ返り血を舐めながら、小隊長の骸から新しい太刀を持ち去った。
襲いかかってこない者には目もくれず、道を駆けると、目の前に立ちはだかった門を斬り破る。浄が刀を抜いてから半刻後には、内裏の中へ足を踏み入れていた。
0
あなたにおすすめの小説
愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない
了承
BL
卒業パーティー。
皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。
青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。
皇子が目を向けた、その瞬間——。
「この瞬間だと思った。」
すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。
IFストーリーあり
誤字あれば報告お願いします!
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
番解除した僕等の末路【完結済・短編】
藍生らぱん
BL
都市伝説だと思っていた「運命の番」に出逢った。
番になって数日後、「番解除」された事を悟った。
「番解除」されたΩは、二度と他のαと番になることができない。
けれど余命宣告を受けていた僕にとっては都合が良かった。
2026/02/14 累計30万P突破御礼バレンタインSS追加しました
2026/02/15 累計いいね♡7777突破御礼SS 19時に公開します。
様々な形での応援ありがとうございます!
逃げた弟のかわりに溺愛アルファに差し出されました。初夜で抱かれたら身代わりがばれてしまいます💦
雪代鞠絵/15分で萌えるBL小説
BL
逃げた弟の身代わりとなり、
隣国の国王である溺愛アルファに嫁いだオメガ。
しかし実は、我儘で結婚から逃げ出した双子の弟の身代わりなのです…
オメガだからと王宮で冷遇されていたので、身代わり結婚にも拒否権が
なかたのでした。
本当の花嫁じゃない。
だから何としても初夜は回避しなければと思うのですが、
だんだん王様に惹かれてしまい、苦しくなる…という
お話です。よろしくお願いします<(_ _)>
番に見つからない街で、子供を育てている
はちも
BL
目を覚ますと、腕の中には赤ん坊がいた。
異世界の青年ロアンとして目覚めた「俺」は、希少な男性オメガであり、子を産んだ母親だった。
現世の記憶は失われているが、
この子を守らなければならない、という想いだけははっきりと残っている。
街の人々に助けられ、魔石への魔力注入で生計を立てながら、
ロアンと息子カイルは、番のいない街で慎ましく暮らしていく。
だが、行方不明の番を探す噂が、静かに近づいていた。
再会は望まない。
今はただ、この子との生活を守りたい。
これは、番から逃げたオメガが、
選び直すまでの物語。
*本編完結しました
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる