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③サクリフィス大陸-3-
しおりを挟む数年前
クリュライムネストラは、血と餌を求めて夜な夜な徘徊しては町の住人や家畜を襲う人狼を倒した。
『聖女様!何故、私の息子を救ってくれなかったのですか?!』
ただ、その人狼は数ヶ月前に、吸血鬼に血を吸われた事で人外の者と化してしまった青年だったのだ。
『私は聖女ではありません。いえ、治癒能力が使えるだけの人間に過ぎないのです』
住人達が喜びの声を上げる中、人狼になってしまった息子を元に戻すどころか肉体ごと消滅させてしまったクリュライムネストラに対して涙ながらに誹謗する母親に対して彼女は抵抗もせず、ただ静かに自分への罵倒と憎悪を受け入れる。
このまま息子を生かしておけば被害が自分の住んでいる町だけではなく周囲にも及んでいた事や、クリュライムネストラの判断が正しかった事も母親は分かっているのだ。
だが、一人息子を失ってしまったという悲しみに襲われている彼女は、行き場のない怒りを聖女や神子姫と呼ばれている目の前の女にぶつける形でしか自我を保てないでいる。
『平民の分際で姫様に対して働いた無礼は万死に値する!』
『姫様が人狼と化してしまった貴様の息子を倒さなければ、被害は大きくなっていたのだ!!』
『大勢を救う為に一人を犠牲にするのはよくある事。ですが、犠牲となった者が我が子であったのなら、この者の嘆きと悲しみ、そして私を責めるのは当然であり、それを責めるのは酷というものです』
護衛として付き添ってくれている二人の修道士を優しい口調で宥める。
『姫様が仰っている事は分かります。ですが、姫様があれを倒さなければ・・・』
『ええ。私は町人達を護る為に、人狼となってしまった青年を倒しました。それは正しい行為だったと思っています。同時に、そうする事でしか救えなかった事実もまた私が背負うべき罪であるとも思っているのです。ですが──・・・』
町を襲っている者の正体が自分の息子と分かった上で匿っていた母親と、我が子を失った母親の嘆きと悲しみを分かった上で彼を亡き者にした私
果たして、どちらが罪深い存在なのでしょうね?
確かに自分は人々から聖女などと呼ばれているが、同時に王族でもある。
時と場合によって非情な判断を下す事もあるが、所詮は無力な一個の人間でしかないのだと、クリュライムネストラは二人に向けてそう答えるしかなかった──・・・。
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