公爵令嬢の男子校生活

白雪の雫

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⑤恋人の日-4-

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 自分の部屋に入るだけなのに、何故こうも緊張をしないといけないのだろうか?

 「ご免なさい・・・ヴィクトワール・・・」

 「ミスリル?!」

 深呼吸をした後、扉をノックして部屋に足を踏み入れたのだが、ベッドの上で腰を下ろしているミスリルが自分の名前を口にしながら謝罪しているものだから何かあったのだろうか?と思ってしまったヴィクトワールは泣いている彼女を自分の元に抱き寄せると優しく問い質す。

 「ヴィクトワール・・・」

 口ではどう言い繕っていても自分のようなゴリラ女ではなく、どこからどう見ても可愛らしい女の子にしか見えない男の方が好きなのだと勝手に思い込んだ挙句、嫉妬で八つ当たりしてしまったのだと、ミスリルが数日前の調理室で目にしてしまった事を打ち明ける。

 「ミスリル・・・」

 想い人の名前を口にしたヴィクトワールはミスリルを押し倒すと、涙を流している彼女に口付ける。

 「んっ、んぅ・・・」

 歯列をなぞり侵入してきたヴィクトワールの舌に、自身もまた目の前の男が欲しいと言わんばかりに舌を絡ませる。

 聞こえてくる唾液の音が、口腔を犯す舌が、首筋に這う男の舌と口唇が、息遣いと時折強く吸われている感覚が、そして立てられる歯で噛まれている感触が少女に快楽を齎すだけではなく甘さを含んだ声を上げさせる。

 「ミスリル・・・」

 満足するまで少女を堪能したヴィクトワールがミスリルから離れると、二人の間に銀糸が伝う。

 「君に悲しい思いをさせて済まなかった・・・。だが、これだけは言わせてくれないか?」

 俺にとってミスリルが唯一の女だ

 泣いているミスリルの右手を取ったヴィクトワールが、今日の為に用意した指輪を彼女の薬指に嵌める。

 「ヴィクト、ワール・・・これは?」

 ヴィクトワールにとって自分という人間は、単なるクラスメイトや男友達のようなものでしかなかったはず

 右手の薬指に指輪を嵌める事が何を意味しているのかを知っているミスリルは、戸惑いの表情を浮かべながら自分に覆い被さっている男の顔を見上げる。

 「王都の高級レストランで庭園を眺めながら、温室の花に囲まれながら、雰囲気が盛り上がる場所で告白してからチョコレートと一緒にアクセサリーを渡すというのが女にとって憧れのシチュエーションでなくて悪いけど・・・・・・」

 クリスのアドバイスも台無しになってしまったな

 「告白?チョコレート?・・・・・・えっ?今日は恋人の日、なの?」

 「もしかして・・・気が付いていなかった、のか?」

 「そういうものに縁がなかったから」

 恋人の日になれば、王都の市場が盛り上がりを見せている事は話に聞いて知っていても貴族令嬢だから・・・というより、そんじょそこらの男より怪力で強かったが故に親が決めた婚約者すらいなかったミスリルには、義理や義務で夫となる人物と絆を深めようという行為すら経験がなかったのだ。

 「ヴィクトワール。私は普通の貴族令嬢と違って怪力で、子供の頃は『ゴリラ女』と呼ばれていたのよ?」

 今でも男に敬遠されている私なんかに指輪を送ってもいいの?

 ミスリルは自分が怪力である事を事実として受け入れているし、今でこそ幼い頃の綽名を軽く受け流せるようになっているが、年頃の女性にとってやはりそれは傷つくものだったりする。

 「ミスリル、俺は自分の審美眼に自信がある」

 「?」

 「お前は俺を惹きつけて止まない最高にいい女だ」

 「!?」

 「お前は自分に対して自信を持てばいい。だから、そうやって自分を卑下するのは止めてくれないか・・・?」

 それは俺が惚れている女を貶める事へと繋がる行為なんだ

 見え透いたお世辞で『美人』とか『綺麗』と言われた事はあるが、真摯で懇願するような態度でそのように言われたのは初めてなのか、ミスリルの顔が赤く染まる。

 「ヴィクトワール・・・」

 力強さの中に優しさを感じさせてくれる男の腕に抱き締められているミスリルは、ヴィクトワールの背中に腕を回す。

 「ヴィクトワール、貴方という存在を私に感じさせて・・・」

 「姫君の仰せのままに・・・」





 今の一言でスイッチが入ってしまったのか、男は女を食らい始める──・・・。








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