元英雄、無職に堕ちて騎士に成る

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1章 波乱の五日間

6話 夜襲

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俺は違和感があり、目を覚ました。
窓の外はまだ暗く、街は静寂に包まれている。出歩く時間ではない。
しかし、宿の前に人の気配を感じる。
ただの客かと思ったが、バドルの話もある。
音を立てずにベットから降りると、隠していた剣を取り出す。
宿の前にいた気配はすでに部屋の前にまで移動していた。
「おい、ここであってるのか。」
「あぁ。さっさと終わらせよう。」
警戒していた通り、俺を殺しにきたようだ。
音を聞く限り、相手はしゃべっていた二人だけ。そして帯剣しているようだ。
ドアがゆっくりと開き始めたため、素早くドアの死角に身を寄せる。
「・・・おい。ベットにいな、っ‼︎」
1人が部屋に入ってきた瞬間、そいつの首を斬った、はずだった。
相手は上半身を大きく逸らし、追撃を避け、後退したのだ。
「まさか気づかれるなんて。さすが英雄ってとこか。」
相手はどこにでもいそうな町人の格好をしていた。しかし2人から感じる気配は違う。
「お前ら、逃げるなら今のうちだぞ。次は仕留める。」
こんなことを言っているが、内心焦っている。
奇襲を避けられた。怪我だけじゃすまないかもしれない。
2人は互いに目配せをすると剣を構え、部屋に入ってきた。
「覚悟はいいか。」
「失敗すりゃ結局死ぬんだからな!」
前方の男は己を鼓舞するように叫んだあと、反撃を気にもせず突っ込んでくる。
俺は男を避けると、窓を割って逃げた。
「は、」
後ろからは男の間抜けた声が聞こえたが、そんなものを無視して駆け出す。
「おい、待て!」
「何してる。追うぞ。」
2人は逃げる可能性を全く考えていなかったようで、慌てて俺を追いかける。
どうやって撒こうか。いや、返り討ちだな。ならあそこに行くか。

カインに逃げられた2人、スティルとカムは追いかけながら次の策を練っていた。
「まさか反撃もせずにげるとは。」
「どうする。とりあえず増援を、」
カムはスティルの提案に横に首を振る。
「他の奴らは騎士団の足止めに出向いている。」
「あぁ、そんな。なんで俺たちはこんなことに・・・」
スティルは最悪の状況に思わず情けない声を漏らす。カムも思わず泣きそうになる。
それも仕方のないことだった。
2人は、いや2人の所属する組織『ヒガン』は今、存続すら危うい崖っぷちにいた。
今回失敗すれば、失敗した者どころか家族も危険に晒すため『ヒガン』はこの暗殺を総力をあげて成功に導こうとしていた。
そして、今の組織でトップレベルの実力を持っていた2人はカインを殺す役割を担っていた。
2人には自分の命だけでなく組織の命運も背負っている。
そんな中、任務が失敗に近づいていたら、誰でも泣きたくなる。
しかし、まだ可能性は残っている。
2人はカインをただただ無心で追いかけた。

宿から逃げ始めて5分ほど経ったが、後ろの2人はまだ追いかけてくる。
騒ぎになるように走り回ったが、街は違和感を感じるほどに静かだった。
しかし騒ぎになっていないとはいえ、巡回の騎士1人も出会わないのはおかしい。
後ろの奴らが何かやったのか、それとも別件か。
まぁ目的地にはついたし、後で考えるとしよう。
「ようやく観念したか。」
立ち止まった俺に追いついた2人は素早く剣を抜く。
そんな2人を見て俺はニヤリと笑う。
「いいや、観念するのはお前らだ。」
俺の目指した目的地、それは『皇城』の門だった。
奴らは何かに気を取られていたのか、俺を追ってここまでついてきてくれた。
ここまできたら、俺の勝ちだ。
「貴様ら、ここで抜刀するとは何事だ。」
気がつけば2人は囲まれていて、すでにクランムが2人に詰め寄っていた。
大体の事情は知っているのか、すでに4人ほどの黒づくめが俺と2人の間に入っていた。
「貴様ら、手に持っているものを地面に置け。大人しく聞けば悪いようにはしない。」
「こんなのないだろう。」
「覚悟を決めろ。玉砕だ。」
クランムは投降を呼びかけているが、2人は聞く気がないらしく、ジリジリとこちらに近づいてくる。
「・・・全員下がれ。カイン、1人は任せる。」
「マジで言ってる?」
「俺とお前だけで十分だ。」
仕方がないので、俺は腹を括り、剣を構える。
「カム、あの門番の足止めを任せる。足止めだ。わかったな。」
「了解。」
カムと呼ばれた男は返事の後、ゆらりとクランムに近づいた。
そしてそのまま、手がぶれたかと思うと、クランムの頬に一筋の傷がついた。
「ちっ。」
奴の動きがあまりに奇妙なためか、反応が遅れてしまっている。
「よそを見ながら相手とは余裕だな。」
「2人ならともかく1人なら油断しない限り負けない。」
相手はよほど追い込まれているのか、剣に余裕がない。これならば今朝の2人の方が手強かった。
俺は単純な剣を見切ると、ニ撃で奴の両腕を切り落とした。
相方があっさりと負けてしまったことに焦りを感じたのか、カムと言う男は先ほどとは違い、積極的な攻撃に変わっていた。
「カム、もういい。逃げろ‼︎」
「クソ、クソ、クッソ‼︎」
もう決着はついたようなものだった。冷静なクランムはすでに剣を見切っているようで、擦りすらしていない。
少しずつ大きくなっていく攻撃の間に入り込み、そのまま首を切り落とした。
「そ、そんな・・・。」
「流石、ここの門番をしてるだけあるな。」
「奴は剣に毒を塗っていた。あと少し遅れていればまずかった。」
クランムはカムから奪った解毒剤を飲み干し、その場に座り込んだ。
さて、残ったこいつをどうすべきか。
放っておいても大量出血で死ぬだろうが、何やらこいつらにも事情がありそうだし。
「おい、なんで俺を襲ったんだ。理由次第で助かるかもしれないぞ?」
「・・・もう意味はないか。わかった、話そう。」
目の前の男は自分のことをスティムと名乗った。
「元々俺たちは南の方で戦線を維持するために雇われてた部隊だった。ただ、終戦とともに居場所がなくなってな。表に出せないような汚い仕事に手を出してたんだよ。」
スティムは泣きながら語った。
「・・・それが間違いだった。家族を殺すと脅されてどんな仕事も断れなくなった。そのおかげで毎日のように仲間が死んでいった。まさに地獄だったよ。でも、もう終わる。ひとつだけ頼んでもいいか。」
「頼みによるが・・言ってみてくれ。」
「雇い主を捕まえてくれ。家族が、仲間が殺される。お願いだ。」
動くこともままらない体で、掴むことができない腕で、俺に縋ってくる。
ここで口を開いたのはクランムだった。
「当たり前だ。頼まれなくとも、捕まえる。」
それを聞くと彼は、微笑んだ。
「ありがとう。」
それがスティムの最後の言葉だった。
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