元英雄、無職に堕ちて騎士に成る

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1章 波乱の五日間

6.5話 悲しき思い出

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意識が遠のく。私はどこで間違えてしまったのだろう。
そんな問いに答えるかのように走馬灯が流れ始めた。

一年前、人魔大戦が終わった影響で、私たち『ヒガン』が活動していた地域だけでも1万人の失業者が発生した。
『ヒガン』は名が広まっていたため、とある貴族から護衛という仕事をもらえた。
しかしほとんどの失業者たちは野たれ死ぬか、培った武力を利用して国賊となった。
村人たちは盗賊となった彼らを嫌っていたが、彼らがいることで『ヒガン』は護衛の仕事を続けることができていた。
不謹慎であるが、被害が報告されるたび、仕事がなくならないと安心した。
しかし、事態を重く見た帝国軍は終戦から二ヶ月で軍を再編成し討伐作戦が開始。
一時は5万人近くいたとされる国賊たちは統制された軍には敵わず、みるみる数を減らしていき、たった一カ月で、盗賊の被害報告はゼロになってしまった。
するとどうなったか。簡単だ。私たちはまた仕事を失った。
『ヒガン』だけではない。他の雇われていた者も次々とクビになった。
討伐作戦を見たからか、国賊になる者はいなかった。その代わり他の犯罪に手を染める者が増え、私たちも家族がいたため、どうしようもなくなり手を出した。
暗殺、誘拐、拷問、薬物や武器の運搬。
こういった仕事は意外と多く、生活には困らなかった。
初めの方は非人道的な仕事にストレスが溜まったが、やがて慣れた。
これくらいの時期からだろうか。
いつも笑っていた隊長から笑顔が無くなったのは。
いつもふざけていた先輩たちが騒がなくなったのは。
いつもは保護していた孤児を見捨てるようになったのは。
仲間の中には、心が壊れてしまうものも現れた。そういった仲間のケアのためにも私は懸命に働いた。どんな仕事でもやってみせた。

それがいけなかった。

とある令嬢の誘拐。
いわゆる箱入り娘を馬車からさらうだけの簡単な仕事、のはずだった。
その日は雨で目の前に行くまで相手が皇族であることに気付けなかった。
もちろん護衛は超一流。私たちはたった1人になすすべもなく全滅した。
殺されるだけなら良かったのだが、あえて逃がされた仲間から情報が漏れ、私たちは令嬢の奴隷となった。
幸い、家族を養うのに困らなかった。
ただ、想像を絶する危険な仕事に仲間が消えていった。
失敗は一族皆殺しと言われ、どんな犠牲を払ってでも成功させた。
その結果、頼れる隊長は一ヶ月で死んだ。無口な先輩は手紙を残して消えた。仲が良かった同僚は実験体としてどこかに連れて行かれた。
気付けば私が最年長になり、仲間は10人ほどになっていた。
それでも仕事は変わらず、少しずつ弱っていく日々。
まさに地獄。
そんな毎日が今、終わりを迎えようとしている。
家族や仲間が心残りだが、もう疲れた。
ありがとう。
私はそう言い残し、目を閉じた。
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