「これは私ですが、そちらは私ではありません」

イチイ アキラ

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 マリア・ローゼン。

 前世を高見沢薔子という、ひとりのエステティシャンであった。
 しかしながら彼女は「女神の指ゴッデスフィンガー」と呼ばれるほど、知る人ぞ知る美容界の伝説となった女性であった。

 はじめは「神の手」と呼ばれかけたが、医療より美容を優先しているから恐れ多いと呼ばれるたびに辞退していたら、いつしか「女神の指」と讃えられるようになった。
 何で「神の指」じゃないんだろうと首を傾げていたら、それは輝いたあとに轟いたりして叫んじゃうからですねと、弟子たちの一部より。彼女は未だに解らず首を傾げるが、それはまた解るひとには解れば良いことらしい。


 彼女の始まりは母子家庭で、夏休みに課題かねて庭でヘチマ水を作ったことより始まる。
 父が事故でなくなってより、苦労をかける母を昔のように美しいひとにしたいという気持ちから。
 高校を卒業してからは働きながら美容学校に通い、エステティシャンの資格をとり――さらに己の美容の技を、知識を高めたいと。
 齢三十にして貯めた稼ぎをつぎ込み医師としても勉学をし受験をし――美容整形外科医としても資格をとり、立った。マッサージのために本格的な整体すらも。実は父親が存命前はご近所にあった道場に通っており、その後も師範だけでなく、先輩や友人たちがなにかしらと気をかけてくださったおかげで柔道は黒帯な彼女であった。縁に感謝。基礎体力も大事。

 彼女は努力とど根性のひとでもあった。
 すべては働く女性のために! 母の
ために!

 そうしてやがて念願叶い、彼女はエステとマッサージを主にした自らのを――《ローゼン》を開いた。

 それは徐々に口コミから……女優、女性起業家、元華族や伝統芸能のお歴歴、など。すごい階層の方々までお相手することになった。薔子は自分の想像以上の実力を身に付けていたのだ。
 そればかりか事故などでおった傷痕を消したいものはここに行け、と……海外からも。美容外科医としての腕も一流であった。やはり神の手でも良いのではと、一部では讃えられた。
 もちろん初心の働く女性のためにを忘れず。お手頃価格の店舗は赤字になっても続けていた。
 マッサージ第一。身体の歪みも直します。
 美容はまず、健康から。

 八十二歳で亡くなったときも、自らも肌年齢驚異の三十代を。これもまた、伝説となった。
 結婚はしなかったが、慕ってくれた弟子や顧客に見送られ――マリア・ローゼンとして産声をあげていた。

 生まれ変わったときに、家名に「これが縁……」と、幼くも何かを悟り。
 
 生前はエステサロンのためにオリジナルオイルなども開発していた経験と知識があった。
 そう、縁があると彼女が思うのは。
 ローゼン男爵家の家業――領地の主な仕事は花卉であった。
 原材料となる花々やハーブをはじめとした生薬を育成する土壌が、技術が、すでにあり。

 ローゼン家の領地は小さいが王都の近くにあり、王宮を飾る花々はローゼン領に発注されるほど。
 かつては小さかった温室も、代を重ねる毎に、大きくなり。規模も花々の種類も。

 大輪の薔薇がやはり一番ご注文が多く。
 五代前の国王陛下がまだ王子時代に。
 ベタ惚れであった婚約者の誕生日に。

 季節はずれだが彼女が好きな薔薇を、どうしても贈りたい……!

 と、なられたとき。同じく学生であったローゼン男爵子息がたまたま通りかかったときに唸り悩む王子のつぶやきを聞いてしまい、「薔薇ならば我が家にございますが?」となったことがご縁だとか。王子は自ら馬車を走らせ当時のローゼン男爵子息を拉致――案内させ、婚約者の好きな薔薇を手に入れた王子より、お褒めの言葉を頂いたという逸話がある。
 そんな小さな歴史があるお家。
 それにより花に関しては王宮という最高級パトロンがついてはいたが、歴史と同じく――やはり家格らは変わらず小さかった。
 やはり、たかが花、であるゆえに。

 しかし、マリアが誕生したことにより、徐々にパトロンたちも増えてきた。


 マリアはまず、家業の副業……と、いうか祖父の暇つぶしであった養蜂――そこに大量にある花から蜜をとっていた――に目をつけた。

 花が。蜂蜜が。蜜蝋が。あるじゃあないか!

 唇や手が荒れてお悩みだった母にリップクリーム、ハンドクリームを作り、その実績をもって家族の信を得た。
 ――後にローヤルゼリーも抽出できたことは僥倖。

 大輪の薔薇を咲かせるには大量の肥料が必要。そういうこともあり、ローゼン家は酪農をしている他領と縁を繋いでいた。
 母の実家は鶏さんを。兄嫁のご実家は牛さんを。まあ、はい――糞。
 しかしマリアの必要なのは卵やミルク、などなど。
 家業にあったものやそれらを生前の知識で上手いこと使い、石鹸や入浴剤、シャンプーやリンスを生み出せば。

 その頃には家族もマリアの製作に、全面的に協力態勢だった。

 そうなれば本星。
 マリアは蒸留に必要な蘭引や、圧搾機などを取り寄せてもらった。遠心分離機がはじめから自宅にあったのはありがたかったなぁ、なんて思いながら。酪農家が身内にいらしたことに感謝を。
 材料もすでに家業にあり。
 そこにある薔薇から見越して予め畑の端を借りて育成していたハーブ各種。
 売り物にならず摘み取る半端な花の使い道も出来たと家族にも喜ばれ。後にハーブはあらたに農園を開墾してくださった。

 そうして本格的にはじまったエッセンシャルオイルやそれら関連の様々な物作り。化粧水に乳液も並行して。

 そしてマリアの小さな手により施されるアロマオイルマッサージ。



 ――甦る女神の指よ! 手技よ!

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