フィジーメール王国物語

イチイ アキラ

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いつか国のお外にほっぽりだされる、というのなら…。

01

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 国外追放。
 国のお外にほっぽりだすぞ、な刑。


「ディアーナ! お前との婚約を破棄する!」
 目の前には美しい顔を怒りに歪めた王太子ヒューバート。金の髪に青い瞳の美形だ。さすが王家。代々美男美女を娶った集大成。
 彼がその腕の中に抱きしめている淡い赤髪にオレンジ混じりの赤い瞳の少女もまた美しい。いや、可愛らしい、だろうか正しくは。彼女の血が混じるとどうなるのだろうか。なんせ彼女は男爵家。しかも母は平民で、彼女もまた父親に引き取られるまで平民暮らし。彼女は美しいがその前々はどうであろうか。

 そんなことを考えてしまうディアーナもまた美しい少女だ。青みある黒髪に銀灰色の瞳をしているから、月の女神のようだと讃えられ。
 彼女はアルテール公爵家の娘。
 様々な理由により幼少期から王太子ヒューバートと婚約させられていた。
 そう、させられていた。
 何度となく公爵家が辞退しても、最後には王が頭を下げてまで頼まれて。
 そこまでされたら国に仕える臣下として断れない。
 アルテール公爵家は本当に泣く泣く、王太子の婚約者を引き受けた。

 ――が。
 王太子にしてみたら親に勝手に決められた婚約者だと、ご不満である。

 彼の父母は、父が城を抜け出している時に出会った。それはもう運命的な出会いだったとか。
 そして恋をし、愛を抱いて結ばれた。
 この国では有名な劇にもなっている。
 出会いは多少脚色されて、さらに運命的にされている。まさかただ、道でぶつかったのが出会いだとは今では誰もが信じまい。
 幸い、今は王妃となった少女は、そのもともとの身分は伯爵令嬢で。ぎりぎりだが王家に嫁ぐ資格もあり。
 低い身分の平民の成り上がり物語ではなく。父が高位の身分のご令嬢と婚約破棄したとかそうした波乱もないが。

 ただ母が、父親の再婚相手の血の繋がらない義母や義姉たちに虐められていたのを救い出した、超絶美談ではある。

 ……だだ、その頃うっすらと持ち上がっていた近隣諸国の姫たちとの婚約話しは無しになった。
 誰が呼んだか舞踏会で飛び入りで現れたその娘とばかり楽しげに踊る時の王太子をみて――その美しい娘をみて――見合い相手の姫たちは、負けたとすごすごとお国に帰ると、物語は締めくくられて。

 ――近隣諸国の姫たちに喧嘩を売って。

 そうした理由で、ディアーナに婚約してほしいと相成ったわけだ。
 なんだかんだとばっちりである。
 ヒューバートもディアーナも。

 ディアーナの祖母は隣国の王妹である。アルテール公爵家に嫁いだのだ。
 ……今では王家に嫁がなくて良かったとほっとする王女だが、孫にとばっちりは腹立たしい。
 この国との政略で婚姻話が出たとき、時の王太子はすでに自国の貴族令嬢と婚姻していて良かった。
 そして国の高位の貴族より、年の近いアルテール公爵家子息が選ばれて。
 若きアルテール公爵が隣国に留学していて互いに人となりも見知っていたこともあり。そして王家よりもアルテール公爵家の領地が隣国に接していたからだ。

 隣国はこの国より流通の行路も良くあり、あれこれと大きい。国力も戦力も、あれこれと。
 そうした国とまた仲良くなりたくて。
 王太子が親の意や現状の国勢がわかっていたら。
 親のやらかしを。
 王は自分が王位についた頃にようやく。この国が他国からそれとなーく、ハブられ――仲間外れにされていることに。
 あの舞踏会で招待客の姫たちと一度でもきちんと踊って、誠意をみせてお断りの詫びを述べていたら。
 自分のやらかしたあんぽんたんなことをしっかりと息子に白状していたら。

 しかし彼は、ヒューバートは幼い頃よりずっと身近にある物語が大好きだった。

 大好きな母が主人公の物語。
 いつか自分も父のように愛するひとをみつけたい――助け出したい。

 そう思っていたというのに。

 自分には勝手に婚約者をつけられた。
 婚約者は国随一の公爵家の娘で。裕福で、幸せで、三人の兄にも護られていて。
 自分が手を出さなくてもはじめから。
 それなら、自分を必要としているか弱く――そして美しく愛らしい娘を、自分だって選んでも良いだろう。そんな幸せなディアーナなら、婚約破棄しても傷つかないだろう。そうだ自分と同じように、親に勝手に決められたんだし。別れてやる方が喜ぶかも。お互いの為かも。
 
 だから。薄々とそんな気持ちでずっといたから。
 彼は学園で出会ったソレイユに恋をした。
 曲がり角でぶつかった、まさに運命――自分だけが知る、 父母の真実の出会いのように!

 聞けばソレイユは男爵家の娘で、妾の子で……正妻やその姉に虐められていると言う。
 若き頃に男爵とソレイユの母は恋仲であったが、金にモノを言わせた正妻にその恋は引き裂かれたとかなんとか。
 やがて母が貧しい暮らしで儚くなくなって、ソレイユは父親の家に引き取られたという。

 嗚呼、なんと憐れなことか。まるで母のようだ。
 嗚呼、まさに運命。自分が助け出すべき愛。

 その愛がわからぬのかソレイユをかばう自分に対して、恵まれた婚約者は何かと煩わしいことを。

 婚約者でないものに対しての距離だとか。男爵家の正妻や娘がしているのは虐めではなく躾だとか。引き裂いたのではなく、金にこまった男爵家が正妻の家に泣きついて、正妻こそが泣く泣く男爵家に嫁いだ。それなのに男爵はソレイユの母と別れていなかった……など。
 
 なんて酷いことを言うのだ! この婚約者は!
 やはり恵まれた立場の人間は心が冷たいのだ。他者を思いやる、弱きに寄り添う心がないのだ。
 むしろ誰より恵まれた立場にいる王太子はそう思った。

 ……思ってしまった。

 だからディアーナもソレイユを虐めるのだ。

 ソレイユからもディアーナに虐められていると打ち明けられ。
 ヒューバートはそんな非情なディアーナを王家に迎えることはできないと。
 そしてヒューバートはソレイユから聞いたディアーナの罪を、友人である側近たちと挙げて突きつけた。

 そしてその罪にあう罰を告げたのだ。

「お前を国外追放とする!」

「……かしこまりました」
 静かに美しく礼をする公爵令嬢が、何の反論もなく涙も流さないことには少しばかり驚き。そしてやはり冷たい女だと彼らは笑い。

 国の果て。
 砂漠に彼女を追放した。

 
「……やっぱり国外追放」
 砂漠にドレス姿のままぽつんとたたずむ彼女が、小さくつぶやいたことも知らないで。


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