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いつか国のお外にほっぽりだされる、というのなら…。
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しおりを挟む国外追放。
すなわち国のお外にほっぽりだされる。
自分がいずれそれを受ける悪役令嬢だと思い出したのは、ディアーナが七歳の頃。
「あ、これ何か、こう……小説だったような……あら?」
うっすらとではあるが、自分と同じ名前の女性が国の外に追放される末路を迎えるお話し……であったような、と。記憶の中の女性も表紙絵だったか挿絵だったか、己と同じ青みある黒髪に銀灰色の瞳だった。まるで夜の月のようだとかなんとか、お話しのなかにもそんな紹介があったような。
そうして己の状況を七歳児な視点で確認を。
ディアーナ。
アルテール公爵家に産まれた待望の女児。
待望の、とあるが。
別に政略のための駒として、嫁がせる女児が欲しいと言うわけではなく。
父は叔父たちとの三人男兄弟。祖父は双子の弟と。そのまた前もまた男兄弟ばかり。
そしてディアーナの前も男ばかり三人も産まれ――そりゃあ、女の子欲しくなります。
代々嫁いできた女たちの「娘が生まれたら引き継がせたい」と持ってきた由緒正しい宝石や家財もたまる一方。
公爵家に嫁いでくるならば、相手もそれなりに家格高い相手。国への貢献力高い相手。
祖母などは隣国の王妹である。もともと仲良い兄妹な彼らは今でも何かしら互いに気にかけ。兄嫁の王妃も、嫁ぐ前から祖母の親友とあってそちら経由も。
母は国内だけならず、祖母の生まれ故郷な国にも手広く店舗を広げる大商会を持つ伯爵家の生まれ。
そんな偉い人でも、子の性別ばかりは何ともならず。
よって、何世代目にか産まれた女の子、ディアーナは――そりゃあもう、上にも下にも置かない大事大事な宝物にされていた。
だから。
「王太子の婚約者、いやです」
そのわがままは通ると思ったし、家族も「ディアーナが嫌なら」とお断りをしてくれていたのだけれども。
自分のやらかしたことをようやく察した王に土下座される勢いで頼まれてしまい。
結局、ディアーナは婚約者になってしまった。
他国に縁があるアルテール家の娘しか王太子の婚約者には、と……確かに国のことを考えたら。
まさか王太子、そいつが一番考えてなかったとは思いもよらず。きちんと話しなさいよ王様よ。
「……これが、強制力?」
そうとは知らないから。
あまり詳しく覚えていないながらも、お話しの道を変えるべくディアーナも頑張った。
けれどもヒューバートはディアーナには壁があるし、その側近となる国のそれなりに力のある貴族の子息たちも同じく。
そしてヒューバートはソレイユと出会ってしまった。
強制力には勝てないかー。
ディアーナはそんな予感はしていた。
七歳で婚約をお断りしたときから。
だから、彼女は考えた。
国外追放とされるなら。
そこに居場所を、住処を、安全なのを先にご用意しておいたら良いんじゃあないかしら、と?
国外追放。
「修道院行きならもっと簡単だったのに……」
そう思ってしまった。そこにあらかじめ金を積んで話を通せば済むだけだったから。
他の物語にあるよう、修道院はこの世界にないからそうなるのだろう。
神殿はあるが、そこに住まうのは選ばれた神官たちだけであるし。そんな聖なる場所に罪人を押し付けることはできないと。
宗教によりけりなのねと、そこはうなずいて。
だからこの国の国外追放とは――まず、砂漠に追放と意味する。
そこは今や誰の国でもなく。
近隣諸国も触らず――いや、触る事ができない砂漠地帯。ある種、無国籍地帯。
というのも国の西方にはかつて滅んだ王朝があり。
砂漠化したそこにはその末裔のわずかな人々が、過酷な世界でありながらも……とある。
彼らにしてみたら、自分ちを勝手に流刑地にするな、なのだが。
しかし人間は水がなければ三日で……というように。
運よく彼らに助けられもしなければ。
だが、彼らも貴重な水を罪人に分け与えるかというかと……。
――死に等しい刑だ。
自分たちの手も汚さない。
死体は勝手に砂にかわる。
そんな刑が自分を待っている。
ディアーナが婚約を嫌がり、あれこれ考えるのは仕方なく、そして当たり前だろう。
……そこで。ディアーナはまた、気が付いて、しまった。
「……いや私、普通にただのどこにでもいる高校生でしたけども?」
こういうのはあれだ、前世チートとか、なんかあれこれ知識や技術もったひとがなるものじゃないの!?
――と。
「えぇと、簿記は多少できるけど授業でならった程度だし、習字は段持ってるけどこの世界はそもそも文字違うし……音楽はー……リコーダーあるのかしらこの世界。ピアノはピアニカしかやってない……」
……積んだ。
「なんで私、高校生までの知識しかないの? せめて社会人なら大人の経験的なあれこれ会社勤め社会人スキルは? え、どうして? 小説……あ、図書館で、ノブちゃんにおすすめされたやつ?」
そうして自分が大学受験の日に雪に滑って頭を打って亡くなったのを思い出してしまった。
虚し……いや、哀しい。
先立った不幸に、かつての家族や親戚をも思い出して。
ああ、前世のお正月の集まりで、昔、海外で青年ボランティアとかなんだかで井戸掘ってきたて話していたおじさんのお話し、もっと真面目に聞いておくんだった。だってお正月ですもん、皆めでてぇと酒盛り、酔っ払いなぐだぐだ語りやったんですもん!
砂漠に追放ならめっちゃんこありがたいお話しでしたー!
前世チート、逃したわー……!
……。
……ふと。
それなら……現世のチートな方々に助けてもらえばいいんじゃあないかしら、と。
ピコーンとレトロな電気がつきました。あ、砂漠に明かりも引かなきゃ。
考えた。
祖母は大きな隣国の王女さま。
母の実家は大商会。
そしてそもそもアルテール公爵家である。
父はもちろん兄たちも。叔父さんたちも大叔父さんも、またその他の皆さまも。なかなかの御立場にいらっしゃる。
……すごくない? いやふつーにすごくない?
だから王家から婚約者に頼まれたわけだし。
「なんでそんな私を追放しようとするのかしら?」
それも強制力かしらとディアーナは首を傾げるしかなかったわけで。
――ディアーナは首を傾げながら、待っていた。砂漠の中でぽつんと。
王都から馬車でまる三日。
移送中の騎士たちは申し訳なさそうにしていたけど。まあ、何かと道中は気を使ってくれてはいたから、彼らは許す。国に帰ったら大変だろうし。
そんな彼女にすごい速さで近づくものが。先の騎士たちの馬車など比べるのが失礼なほど。
それはフードを被った少年が操る不思議な形の馬車だった。しかし引くのは馬ではなく――
「ディアーナさま!」
自分を呼ぶ少年にディアーナも手を振ってこたえた。
「トゥールさま!」
少年は見事な手綱さばきでディアーナに馬車寄せした。
しかし引くのは白砂イルカと呼ばれるこの砂漠の生き物である。
馬より早く、この砂漠を泳ぐのだ。
「お迎えにあがりました」
フードをあげトゥールは美しい銀色の髪をなびかせる。ディアーナの無事を喜び細められた瞳は宝石のような緑色。
褐色の肌に輝く銀の髪。
それはかつて滅んだ砂漠の王朝の末裔――。
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