フィジーメール王国物語

イチイ アキラ

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いつか国のお外にほっぽりだされる、というのなら…。

03

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 ディアーナが国外追放されて三年後。
 王太子は父親から王位を引き継いでいた。

 ――本当は押し付けられたのだが。

 近隣諸国からこの国の評判が悪いことを、さすがのヒューバートもそろそろ察した。
 父が悪い。父のやらかしたせいで、近隣諸国の今の王妃様方や高位貴族の奥方たちより、毛嫌いされて。
 それを打開するための自分の婚約だったのなら、それをちゃんと話してくれていたら。
「いや話たのだが、お前……すぐに都合の良い物語を信じちゃうし……」
 今更言われても。
「お前が継いだ方が、まだ当たりが優しいかも……」
 ところがもっと酷くなり。

 そして国力も、落ちた。

 まず、アルテール家の離反だ。

 娘を国外追放された恨みで。
 ヒューバートにしてみたら、罪人を出したことを謝ってくるべきだろうと――三年前は思っていた。だからの断罪をして刑を行った。

 しかしディアーナの言ったことは本当だった。
 男爵家は、正妻は。
 虐めではなく、躾。
 断罪後に男爵と正妻は離縁した。正妻にも好きな相手はいて――今はそちらも家庭を作っている。分別ある彼女はそちらに何かしら手出しするでもなく、男爵からの慰謝料で引き取った娘とともに、もはやこの国ではないところに越して行ったとか。
 義理の娘が王妃となる国に住みたくなかったのだろう。

 実のところ、ディアーナに罪を被せたソレイユは――にやりと嫌な笑みを浮かべていたから、察してあまりある。
 ディアーナもその笑みをみていたからこそ、素直に国外追放を受けた。
「あ、もしかしてこのひと……」
 最悪なパターンの冤罪。強制力じゃなくてこのひとにやらかされた、なら。
 なら、ば。
 容赦は――無い。

 そうしてディアーナは大人しく刑を受け――そしてアルテール家の離反理由と、計画の起動となったのだ。

 ヒューバートは何度も思う。
 愛しきソレイユを妻に、王妃にはできた。
 だが。
 彼らが思っていたほど幸せな日々とはならなかった。
 近隣諸国からの扱いが。この国は信用ならぬと、取り引きが止まったのが数多く。
 アルテール公爵夫人の実家の商会がこの国からも撤去しているという。
 まさかあの大商会が夫人の実家であったとは。その商会持つ伯爵家もちゃっかりとアルテール家に併合しているし。本当にいつの間に、だ。

 あの日、父と母が隣国へ挨拶に出かけていなかったらどうしていただろうか。
 慌てて帰ってきたのはディアーナを砂漠に追放して一週間は経っていた。
 その間に入れ違いでアルテール家は離反し、隣国に併合した。

 そもそも、隣国の王女がこの国に嫁いできたのはそうした国の領地の、難しいやりとりの末だったことまで、政略にはあり。
 政略ではあったが公爵と仲の良い夫婦だからこその温情。
 本当はもう少しはやく隣国に切り取られるはずの領地を、王女というつなぎで温情をもらっていただけだったなんて。
 ヒューバートは祖父の代になんとか繋げた紐を切ったことにも、今更に。

 ――隣国の王女の孫を王妃にできていたら。

 本当は王女の子を王家に迎えたかった。父の妻にしたかったと解ったのだが、アルテール家に女が産まれなかったのだから仕方なく。あの舞踏会となり。
 王家こそ、ディアーナの誕生を願っていただなんて。
 
 そんなディアーナをヒューバートが砂漠に、国外追放した。
 アルテール家が離反するのは当たり前すぎた。

 それにより隣国からの交易が難しくなった。
 この国の位置が悪い。
 北は大国。アルテール領を呑み込んでさらに。
 東は山脈。その向こうはほとんど未知の国。東の山脈を迂回するルートを北の国々は持っているらしい。
 南は海。小さな島国が転々と。その島国たちも今やどれも北の大国寄りだ。

 そして西は砂漠。

 砂漠の向こうにはまだ他に国々がある。砂漠を越えて行けたら華やかな……――。

 砂漠。
 そこに、いつしか国ができたとささやかれるように。
 まさか。
 そんなホラ話。
 あそこは人間が住めない。
 だから滅んだのだろう。

 そう鼻で笑っていた。かつてディアーナを断罪した仲間たちと。
 けれども。
「建国? 立国? 祝い? 祭典!?」
 招待状が来た。

 フィジーメール王国より。

 それは歴史に消えた――砂漠の王国では?
 それが復興するという。むしろ新たな国となるという。
 後援は北の隣国。
 この国以外、島国すら立国を認めると……。 
 ――またハブられたとヒューバートはあとから。

 そして招待されたヒューバートは、その見事な国に驚いた。
 確かに砂漠を移動に数日の時間はかかるだろう。
 しかし迎えの砂を泳ぐ不思議な生き物の動かす車輪ではなくソリのついた馬車(イルカ車とも言い辛いと御者も苦笑していた)は速く。砂地故にか揺れも少なく。
 想定していたより快適で。
 着いた国もまた。
「……水が」
 水路を流れる溢れんばかりの。
 それは向かう王城の地下より湧いて、都中に分け隔てなく行き渡っているのだと、案内役に説明された。


「ある方が井戸を掘り、水源を、水をこの国に……そして王家復興を手助けしてくださったのです」



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