7 / 8
「どちらの国の王様になられるのですか?」
03
しおりを挟むフィジーメール王国。
それは砂漠の王国。
かつては一度滅びかけた王国であった。
けれど月の女神がその一族を憐れに思い――その身を地上に降ろし、慈悲をくだされた。
女神を慕う者たちにより、一族は救われた。知恵と技術を与えられた。
未だ尽きない清らかな水源。
豊かな鉱物資源と砂漠でも育つ稀有な草花。
それらだけでも、国として価値があるが。
近隣諸国との交易の要を。
フィジーメール王国は、今や交易路の中心。どの国も繋ぎを結びたいと願う国となった。
歴史の中では武力をもってフィジーメール王国を治めようとした国もあったようだが――砂漠の暑さと寒さ。そして砂地に住まう巨獣に、まずやられて。
それらを乗り越えたとしても、その巨獣すら単騎で倒すフィジーメールの騎士たちに。
――敵うはずがない。
そんなフィジーメール王国だが、この国は他国とは違う伝統があった。
女王制なのだ。
女神を崇める国であるから、ともあるが。
現在、王位を継いで長く統治している王は男性だから、他の男性優位な国には忘れがられがちではあった。
それはルーナの伯父にあたる方。
しかし、その前は女王に統治された時代であり。
ルーナの祖母であり。
ルーナの祖母の女王には三人の子があった。
しかし全員、男であった。
この国の王族の不思議なところでもあるが、何故か王位を欲しがらない。むしろ兄弟に「どうぞどうぞ」と押し付けあう気風がある。他国では王座をめぐって兄弟で血なまぐさい争いもあるというのに。
女王も兄弟がいたが、全員が唯一の女の子であった彼女に押し付けた。いや、それは少しばかり言い方が悪い。
女王の統治のもと、皆がそれぞれの好きなことで女王の助けになろうとなさる道を選ばれると言うべきであろうか。
まぁ、奔放な野郎どもに国は任せられないと、代々の女王となった女性らはため息をつくらしい。
女神を崇める国だからというのは、少しばかり他国への建前だった。
まぁ、平和で善哉。
そうした現代だが――先代女王には王子しか産まれず。
仕方なしに長兄が継いだ。
それがルーナにとっては伯父にあたる方。
しかし彼も二人の子をもうけたが――また、男子。
けれども!
兄が継いでくれたから好きなだけ研究職につけると、嬉々としてその道の大家であった伯爵家に婿入りした年の離れた末っ子の弟に。
女の子――ルーナの誕生である!
王より、先に産まれていた王太子の喜びの方がすごかった。
「やった! これで王様にならなくてもすむぞ!」
何とも。
そうしてルーナは、伯爵家産まれながらにして女王の孫であり、王の姪であり――次の女王となる定めとなってしまった。
ちなみに女王の三人の息子の真ん中、ルーナのもうひとりの伯父も早々に王位を放棄していて。国の騎士として今日も元気に砂漠で巨獣狩りをしている。大剣をぶん回して。
この国の王家の野郎どもは極振りがひどいのか、そうした冒険に行きたがる者と、突き詰めて調べたがる研究者なものが多い。
建国当時からだそうだから、これは国色なのだろうか。
ルーナの容姿は青みがある黒髪に銀灰色の瞳。そして肌も砂漠の民にしてたら白い。だからジェラルドは自国の伯爵家と勘違いしたのかしらと後からルーナは首を傾げたのだが。
フィジーメール王国は確かに銀髪で褐色の肌の王族が有名であった。
しかし、何代も血を重ねてはいるのだ。
ルーナの容姿はその国の建国にも関わりがあるという、月の女神と讃えられた女性と同じなのだ。
そのことから、なおさらに女王へと国中より支持の声が。
確かに血筋的に王家にはその方の血も入っているから、先祖返りとも。もしもルーナが産まれなければ王になるはずだった従兄弟も彼の家族の中で唯一黒髪である。
彼はルーナが王位に就くまでは、王太子のスペアとして王国にいるから、と。だから今のうちに、むしろ自由になる今のうちに世界を見ておいでよと言ってくれたのだ。自分だって旅をしたいのを我慢して。彼とて、従姉妹に押しつけるのは申し訳ないとは思っていて。
だから婚約者の選定をかねて、ルーナは今、この国にいて。
――余談だが、王太子は研究職よりで、暇があれば城内に作らせた彼専用の温室で植物を研究していた。王位を逃れられたら、他国に珍しい植物探しの旅に出たいとそわそわしているとか。今はキノコがマイブームだとか。
ちなみにもうひとりいる従兄弟王子は、幼い頃より海が好きで。というより船が好きで。
早々に兄に王位を押しつけて、船造りとなっていた。
まぁフィジーメールにある港街の総督を引き受けるかわりに、でもあるが。
しかし彼の設計した船の活躍により、新たな航路も発見できている。
そしてそんな彼らの父の現王は。
「ルーナちゃんが女王になってくれたら、おじさん……遊びに行ってもいーい?」
と、そわそわしながら愛剣を研いでいる。
「兄ちゃん一狩りあーそーぼ」
そう弟にも誘われている王様は、若いころは同じく巨獣狩りをする騎士でもあったとか。弓矢もなかなかの腕前だとか。弟も今から兄と狩りができることをワクワクしているとか。
ちなみにルーナの父の研究はその狩られた巨獣たちの生態や、それから採集される諸々であるとか。
まったくこの野郎どもがよぅ。
43
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢に相応しいエンディング
無色
恋愛
月の光のように美しく気高い、公爵令嬢ルナティア=ミューラー。
ある日彼女は卒業パーティーで、王子アイベックに国外追放を告げられる。
さらには平民上がりの令嬢ナージャと婚約を宣言した。
ナージャはルナティアの悪い評判をアイベックに吹聴し、彼女を貶めたのだ。
だが彼らは愚かにも知らなかった。
ルナティアには、ミューラー家には、貴族の令嬢たちしか知らない裏の顔があるということを。
そして、待ち受けるエンディングを。
「やはり鍛えることは、大切だな」
イチイ アキラ
恋愛
「こんなブスと結婚なんていやだ!」
その日、一つのお見合いがあった。
ヤロール伯爵家の三男、ライアンと。
クラレンス辺境伯家の跡取り娘、リューゼットの。
そして互いに挨拶を交わすその場にて。
ライアンが開幕早々、ぶちかましたのであった。
けれども……――。
「そうか。私も貴様のような生っ白くてか弱そうな、女みたいな顔の屑はごめんだ。気が合うな」
踏み台(王女)にも事情はある
mios
恋愛
戒律の厳しい修道院に王女が送られた。
聖女ビアンカに魔物をけしかけた罪で投獄され、処刑を免れた結果のことだ。
王女が居なくなって平和になった筈、なのだがそれから何故か原因不明の不調が蔓延し始めて……原因究明の為、王女の元婚約者が調査に乗り出した。
とある令嬢の婚約破棄
あみにあ
恋愛
とある街で、王子と令嬢が出会いある約束を交わしました。
彼女と王子は仲睦まじく過ごしていましたが・・・
学園に通う事になると、王子は彼女をほって他の女にかかりきりになってしまいました。
その女はなんと彼女の妹でした。
これはそんな彼女が婚約破棄から幸せになるお話です。
私が、全てにおいて完璧な幼なじみの婚約をわざと台無しにした悪女……?そんなこと知りません。ただ、誤解されたくない人がいるだけです
珠宮さくら
恋愛
ルチア・ヴァーリは、勘違いされがちな幼なじみと仲良くしていた。周りが悪く言うような令嬢ではないと心から思っていた。
そんな幼なじみが婚約をしそうだとわかったのは、いいなと思っている子息に巻き込まれてアクセサリーショップで贈り物を選んでほしいと言われた時だった。
それを拒んで、証言者まで確保したというのにルチアが幼なじみの婚約を台無しにわざとした悪女のようにされてしまい、幼なじみに勘違いされたのではないかと思って、心を痛めることになるのだが……。
お姉様のお下がりはもう結構です。
ぽんぽこ@3/28新作発売!!
恋愛
侯爵令嬢であるシャーロットには、双子の姉がいた。
慎ましやかなシャーロットとは違い、姉のアンジェリカは気に入ったモノは手に入れないと気が済まない強欲な性格の持ち主。気に入った男は家に囲い込み、毎日のように遊び呆けていた。
「王子と婚約したし、飼っていた男たちはもう要らないわ。だからシャーロットに譲ってあげる」
ある日シャーロットは、姉が屋敷で囲っていた四人の男たちを預かることになってしまう。
幼い頃から姉のお下がりをばかり受け取っていたシャーロットも、今回ばかりは怒りをあらわにする。
「お姉様、これはあんまりです!」
「これからわたくしは殿下の妻になるのよ? お古相手に構ってなんかいられないわよ」
ただでさえ今の侯爵家は経営難で家計は火の車。当主である父は姉を溺愛していて話を聞かず、シャーロットの味方になってくれる人間はいない。
しかも譲られた男たちの中にはシャーロットが一目惚れした人物もいて……。
「お前には従うが、心まで許すつもりはない」
しかしその人物であるリオンは家族を人質に取られ、侯爵家の一員であるシャーロットに激しい嫌悪感を示す。
だが姉とは正反対に真面目な彼女の生き方を見て、リオンの態度は次第に軟化していき……?
表紙:ノーコピーライトガール様より
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる