フィジーメール王国物語

イチイ アキラ

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「どちらの国の王様になられるのですか?」

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 フィジーメール王国。

 それは砂漠の王国。
 かつては一度滅びかけた王国であった。
 けれど月の女神がその一族を憐れに思い――その身を地上に降ろし、慈悲をくだされた。
 女神を慕う者たちにより、一族は救われた。知恵と技術を与えられた。

 未だ尽きない清らかな水源。
 豊かな鉱物資源と砂漠でも育つ稀有な草花。
 それらだけでも、国として価値があるが。

 近隣諸国との交易の要を。
 
 フィジーメール王国は、今や交易路の中心。どの国も繋ぎを結びたいと願う国となった。
 歴史の中では武力をもってフィジーメール王国を治めようとした国もあったようだが――砂漠の暑さと寒さ。そして砂地に住まう巨獣に、まずやられて。
 それらを乗り越えたとしても、その巨獣すら単騎で倒すフィジーメールの騎士たちに。
 ――敵うはずがない。


 そんなフィジーメール王国だが、この国は他国とは違う伝統があった。

 女王制なのだ。

 女神を崇める国であるから、ともあるが。
 現在、王位を継いで長く統治している王は男性だから、他の男性優位な国には忘れがられがちではあった。
 それはルーナの伯父にあたる方。
 しかし、その前は女王に統治された時代であり。
 ルーナの祖母であり。

 ルーナの祖母の女王には三人の子があった。
 しかし全員、男であった。
 この国の王族の不思議なところでもあるが、何故か王位を欲しがらない。むしろ兄弟に「どうぞどうぞ」と押し付けあう気風がある。他国では王座をめぐって兄弟で血なまぐさい争いもあるというのに。
 女王も兄弟がいたが、全員が唯一の女の子であった彼女に押し付けた。いや、それは少しばかり言い方が悪い。
 女王の統治のもと、皆がそれぞれの好きなことで女王の助けになろうとなさる道を選ばれると言うべきであろうか。
 まぁ、奔放な野郎どもに国は任せられないと、代々の女王となった女性らはため息をつくらしい。
 女神を崇める国だからというのは、少しばかり他国への建前だった。
 まぁ、平和で善哉。
 そうした現代だが――先代女王には王子しか産まれず。
 仕方なしに長兄が継いだ。
 それがルーナにとっては伯父にあたる方。
 しかし彼も二人の子をもうけたが――また、男子。
 けれども!
 兄が継いでくれたから好きなだけ研究職につけると、嬉々としてその道の大家であった伯爵家に婿入りした年の離れた末っ子の弟に。

 女の子――ルーナの誕生である!

 王より、先に産まれていた王太子の喜びの方がすごかった。
「やった! これで王様にならなくてもすむぞ!」
 何とも。
 そうしてルーナは、伯爵家産まれながらにして女王の孫であり、王の姪であり――次の女王となる定めとなってしまった。

 ちなみに女王の三人の息子の真ん中、ルーナのもうひとりの伯父も早々に王位を放棄していて。国の騎士として今日も元気に砂漠で巨獣狩りをしている。大剣をぶん回して。

 この国の王家の野郎どもは極振りがひどいのか、そうした冒険に行きたがる者と、突き詰めて調べたがる研究者なものが多い。
 建国当時からだそうだから、これは国色なのだろうか。


 ルーナの容姿は青みがある黒髪に銀灰色の瞳。そして肌も砂漠の民にしてたら白い。だからジェラルドは自国の伯爵家と勘違いしたのかしらと後からルーナは首を傾げたのだが。
 フィジーメール王国は確かに銀髪で褐色の肌の王族が有名であった。
 しかし、何代も血を重ねてはいるのだ。
 ルーナの容姿はその国の建国にも関わりがあるという、月の女神と讃えられた女性と同じなのだ。
 そのことから、なおさらに女王へと国中より支持の声が。
 確かに血筋的に王家にはその方の血も入っているから、先祖返りとも。もしもルーナが産まれなければ王になるはずだった従兄弟も彼の家族の中で唯一黒髪である。
 彼はルーナが王位に就くまでは、王太子のスペアとして王国にいるから、と。だから今のうちに、むしろ自由になる今のうちに世界を見ておいでよと言ってくれたのだ。自分だって旅をしたいのを我慢して。彼とて、従姉妹に押しつけるのは申し訳ないとは思っていて。

 だから婚約者の選定をかねて、ルーナは今、この国ここにいて。

 ――余談だが、王太子は研究職よりで、暇があれば城内に作らせた彼専用の温室で植物を研究していた。王位を逃れられたら、他国に珍しい植物探しの旅に出たいとそわそわしているとか。今はキノコがマイブームだとか。

 ちなみにもうひとりいる従兄弟王子は、幼い頃より海が好きで。というより船が好きで。
 早々に兄に王位を押しつけて、船造りとなっていた。
 まぁフィジーメールにある港街の総督を引き受けるかわりに、でもあるが。
 しかし彼の設計した船の活躍により、新たな航路も発見できている。

 そしてそんな彼らの父の現王は。
「ルーナちゃんが女王になってくれたら、おじさん……遊びに行ってもいーい?」
 と、そわそわしながら愛剣を研いでいる。
「兄ちゃん一狩りあーそーぼ」
 そう弟にも誘われている王様は、若いころは同じく巨獣狩りをする騎士でもあったとか。弓矢もなかなかの腕前だとか。弟も今から兄と狩りができることをワクワクしているとか。
 ちなみにルーナの父の研究はその狩られた巨獣たちの生態や、それから採集される諸々であるとか。
 まったくこの野郎どもがよぅ。

 
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