31 / 63
1章
147話
しおりを挟む
ある日の昼下がり、俺は庭に出ると空を見上げた。
風もなく、雲もない晴天。
「今日もいい天気だね」
ポツリと呟くとしゅるりと竜神が現れた。
「テト、何があったのじゃ?」
水色の艶やかに染まる裾を翻し、降り立った竜神は俺の顔を覗き込んできた。
「こんにちは竜神様......何が......とは?どうかされましたか?」
「わからぬのか......お主、体調が悪かろう?」
そう言われて首を傾げた。
体調が悪い?ここ最近は体調を崩した事が無いのだけれど。
「いえ、俺は元気ですよ?大丈夫です」
自分の顔をペタペタと触ってみるも、特に熱がある訳でもない。
「そうか?まぁ良い......無理はせぬ事じゃ。双子も姫にべったりだしの?」
「えぇ、仲良く三人でおりますよ。こちらのお茶とお菓子をどうぞ、食べている間に祈りを捧げますので」
そう言いながら、絶妙なタイミングでお茶を出してくれたアスミタに目を伏せることで礼をする。
「無理はするでないが、祈りが無ければ我の力も行き届かぬ故......すまぬな」
竜神の言葉に手を振ると、俺は芝生の上を歩く。
靴は脱いで裸足で歩くと軟らかな芝生が擽ったくもある。
アスミタが小さな鈴を持ってきたが、それを断り俺はゆっくりと言の葉を音に乗せる。
今まで一番多く歌ってきた歌だ。
自然と身体が動く。
言の葉を紡ぎながら、ふと雨粒が落ちて来ないのに気付く。
竜神様が言うように体調が悪いのだろうか。
歌を止めようとした瞬間、ぽつりぽつりと雨粒が落ちて乾いた大地を濡らしていく。
降り始めの遅さに少し驚きながらも一曲歌い上げると、チクリと胸が痛んだ。
一瞬の痛みだったため、気のせいかもしれないと思いながら、そっと胸に触れてみる。
すると、既に痛みは無かった。
「ふう......」
歌い終えると穏やかな雨が降っていた。
「テト、毎日祈ってくれるが無理はするでないぞ?伴侶が心配するゆえ......な?」
「カイルがですか?カイルの心配したがりは今始まった訳ではありませんから」
俺達が何をするにもまずカイルは心配をする。
俺はともかく、ミリシャは失敗をするのも勉強なのだと言うのに。
「そうよの......我も心配じゃが、仕方ない......ほれ、その伴侶が来たからな、我は戻ろうかの?テト、また来る」
用意したお茶もお菓子も綺麗に食べた竜神がチュッと俺の額にキスをしてから、パチンと水泡が弾けるように姿を消した。
「テト、竜神は帰られたのか?」
「うん、カイルは休憩?」
「あぁ......双子に聞いたらテトが此処だと」
自然な流れで唇にキスをする。
ふわりと抱き締められて俺はカイルを見上げた。
「うん。そうだ、ミリシャの行脚の件で話をしなきゃと思って。今夜にでも時間貰える?」
「あぁ、構わない」
カイルはミリシャの事だと言うと、心配そうに眉を潜めた。
風もなく、雲もない晴天。
「今日もいい天気だね」
ポツリと呟くとしゅるりと竜神が現れた。
「テト、何があったのじゃ?」
水色の艶やかに染まる裾を翻し、降り立った竜神は俺の顔を覗き込んできた。
「こんにちは竜神様......何が......とは?どうかされましたか?」
「わからぬのか......お主、体調が悪かろう?」
そう言われて首を傾げた。
体調が悪い?ここ最近は体調を崩した事が無いのだけれど。
「いえ、俺は元気ですよ?大丈夫です」
自分の顔をペタペタと触ってみるも、特に熱がある訳でもない。
「そうか?まぁ良い......無理はせぬ事じゃ。双子も姫にべったりだしの?」
「えぇ、仲良く三人でおりますよ。こちらのお茶とお菓子をどうぞ、食べている間に祈りを捧げますので」
そう言いながら、絶妙なタイミングでお茶を出してくれたアスミタに目を伏せることで礼をする。
「無理はするでないが、祈りが無ければ我の力も行き届かぬ故......すまぬな」
竜神の言葉に手を振ると、俺は芝生の上を歩く。
靴は脱いで裸足で歩くと軟らかな芝生が擽ったくもある。
アスミタが小さな鈴を持ってきたが、それを断り俺はゆっくりと言の葉を音に乗せる。
今まで一番多く歌ってきた歌だ。
自然と身体が動く。
言の葉を紡ぎながら、ふと雨粒が落ちて来ないのに気付く。
竜神様が言うように体調が悪いのだろうか。
歌を止めようとした瞬間、ぽつりぽつりと雨粒が落ちて乾いた大地を濡らしていく。
降り始めの遅さに少し驚きながらも一曲歌い上げると、チクリと胸が痛んだ。
一瞬の痛みだったため、気のせいかもしれないと思いながら、そっと胸に触れてみる。
すると、既に痛みは無かった。
「ふう......」
歌い終えると穏やかな雨が降っていた。
「テト、毎日祈ってくれるが無理はするでないぞ?伴侶が心配するゆえ......な?」
「カイルがですか?カイルの心配したがりは今始まった訳ではありませんから」
俺達が何をするにもまずカイルは心配をする。
俺はともかく、ミリシャは失敗をするのも勉強なのだと言うのに。
「そうよの......我も心配じゃが、仕方ない......ほれ、その伴侶が来たからな、我は戻ろうかの?テト、また来る」
用意したお茶もお菓子も綺麗に食べた竜神がチュッと俺の額にキスをしてから、パチンと水泡が弾けるように姿を消した。
「テト、竜神は帰られたのか?」
「うん、カイルは休憩?」
「あぁ......双子に聞いたらテトが此処だと」
自然な流れで唇にキスをする。
ふわりと抱き締められて俺はカイルを見上げた。
「うん。そうだ、ミリシャの行脚の件で話をしなきゃと思って。今夜にでも時間貰える?」
「あぁ、構わない」
カイルはミリシャの事だと言うと、心配そうに眉を潜めた。
145
あなたにおすすめの小説
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
〈完結〉【書籍化・取り下げ予定】「他に愛するひとがいる」と言った旦那様が溺愛してくるのですが、そういうのは不要です
ごろごろみかん。
恋愛
「私には、他に愛するひとがいます」
「では、契約結婚といたしましょう」
そうして今の夫と結婚したシドローネ。
夫は、シドローネより四つも年下の若き騎士だ。
彼には愛するひとがいる。
それを理解した上で政略結婚を結んだはずだったのだが、だんだん夫の様子が変わり始めて……?
番解除した僕等の末路【完結済・短編】
藍生らぱん
BL
都市伝説だと思っていた「運命の番」に出逢った。
番になって数日後、「番解除」された事を悟った。
「番解除」されたΩは、二度と他のαと番になることができない。
けれど余命宣告を受けていた僕にとっては都合が良かった。
公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜
上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。
体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。
両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。
せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない?
しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……?
どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに?
偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも?
……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない??
―――
病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。
※別名義で連載していた作品になります。
(名義を統合しこちらに移動することになりました)
殿下に婚約終了と言われたので城を出ようとしたら、何かおかしいんですが!?
krm
BL
「俺達の婚約は今日で終わりにする」
突然の婚約終了宣言。心がぐしゃぐしゃになった僕は、荷物を抱えて城を出る決意をした。
なのに、何故か殿下が追いかけてきて――いやいやいや、どういうこと!?
全力すれ違いラブコメファンタジーBL!
支部の企画投稿用に書いたショートショートです。前後編二話完結です。
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。