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来訪者
穏便に策を練る
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全 思風は蓮王閣の正門へと向かった。
そこには鬼霊封殺の八卦鏡によって、動きを封じられた妖怪がいる。全 温狼もいて、彼らは身動きが取れない状態となっていた。
「──無様な姿ですね。父亲」
彼はのんびりと近づく。その手には、気を失った黄 沐阳がいた。男をズルズルと引き摺り、雑にその場へ放り投げる。
「はは。そう思うのなら、俺を助けてくれないかい?」
結果のようなものが張られていた。捕らわれている彼らはそれに触ることはおろか、破壊することも困難なよう。
全 思風はため息をついた。腰にかけてある剣の塚に触れ、すっと抜く。刃を気絶している男へと振り下ろした。
誰もが、彼が人間を殺す。そう感じながら見守っていた。けれど彼の行動は予想外なものとなる。刃先で男をつつき、半ば無理やり起こさせたのだ。
「おい、起きろ。起きて、私と小猫のために働け」
刃先を男の後ろ襟へと突っこむ。そのまま片手で剣ごと持ち上げ、ぶらぶらと揺らした。
男を見上げる瞳には優しさなど微塵もない。恨み辛みだけを、怒りをぶつけるだけだった。
挙句の果てには勢いよく地へと叩きつける。
「ぐえっ!?」
強制的に起こされた男は、体をよろけさせた。
「…………」
「ひっ!」
彼は、ただ男を睨む。
全 思風に一本の指だけで倒された男──黄 沐阳──は、顔を青ざめながら後退りした。
「ようやく起きたか。お前の仲間……人間たちのせいで、私の可愛い小猫が苦しんでいる。おまけに、父亲たちもこの有り様だ」
結界のせいで身動きが取れない彼らを助けろと、冷めた視線だけで物語る。
「私では、あれの解き方がわからない。わかったとしても、解けはしないだろうな」
「……た、確かにあれは、俺たち人間だけが解除できる術だけど……ひっ!」
尻もちをついている黄 沐阳へ、再び刃を向けた。首をくいっとし、解除しろと無言で訴える。
黄 沐阳は半泣き状態で鬼霊封殺の八卦鏡を解除していった。数分後、男のおかげで妖怪たちは無事、結界から外へと出れた。
同時に、全 温狼は妖怪たちに壊れた部屋の片付けなどを命令。全 思風も王らしく、妖怪たちに指示をだしていった。
しばらくすると、一通りの後片付けが終わる。捕まっていた妖怪たちは一旦医者に見せたのち、解散させた。
残されたのは王家のふたり、羊のような角を持つ老人、そして人間の黄 沐阳だけとなる。
「……そう、か。そのようなことが」
誰よりも冷静に状況を把握したのは全 温狼だった。彼は手持ちの扇子を広げ、口を隠す。近くにある朱い四阿の下に行き、中心にある机を前に椅子へ腰かけた。
向かい側に全 思風が座る。左側には羊のような角を持つ老人を座らせた。
黄 沐阳だけは地べたに正座をし、彼らに怯えながら俯いている。
「それで? お前はどうするつもりだい?」
数名の侍女が持ってきた茶杯に烏龍茶をわけていく。
ふたりはそれをちょっとだけ飲み、お互いに視線を交わした。
「一応言っておくが、お前は王だ。人間たちの元に殴りこみなどしようものなら、ふたつの種族による全面戦争になろう」
「……だからこそ、私は父亲に頼みたいのです」
「……?」
何を頼むと言うのか。全 温狼だけでなく、羊のような角を持つ老人までもが小首を傾げた。
全 思風は表情を変えないまま、茶器を置く。美しい顔立ちに悪巧みの笑みを加え、無言で父亲を凝視した。
「……ははぁん? さてはお前……」
扇子で口を隠して身を乗り出し、彼の耳元で何かを囁く。
全 思風は両目を見開き、くっくっと笑った。
しばらくの間、ふたりは笑い合う。やがて席へと戻り、ふたりしてふっと微笑した。
「いいだろう。その案、乗った! 俺も、ここまでこけにされて腸が煮え繰り返っていたところだ。思う存分、暴れてくるがいい!」
冥界のことは俺に任せろと、胸をはる。
同意を得られたことにより、全 思風はほくそ笑んだ。漢服の袖に両手を入れ、頭を下げる。
そして腰をあげ、この場を後にした。
そこには鬼霊封殺の八卦鏡によって、動きを封じられた妖怪がいる。全 温狼もいて、彼らは身動きが取れない状態となっていた。
「──無様な姿ですね。父亲」
彼はのんびりと近づく。その手には、気を失った黄 沐阳がいた。男をズルズルと引き摺り、雑にその場へ放り投げる。
「はは。そう思うのなら、俺を助けてくれないかい?」
結果のようなものが張られていた。捕らわれている彼らはそれに触ることはおろか、破壊することも困難なよう。
全 思風はため息をついた。腰にかけてある剣の塚に触れ、すっと抜く。刃を気絶している男へと振り下ろした。
誰もが、彼が人間を殺す。そう感じながら見守っていた。けれど彼の行動は予想外なものとなる。刃先で男をつつき、半ば無理やり起こさせたのだ。
「おい、起きろ。起きて、私と小猫のために働け」
刃先を男の後ろ襟へと突っこむ。そのまま片手で剣ごと持ち上げ、ぶらぶらと揺らした。
男を見上げる瞳には優しさなど微塵もない。恨み辛みだけを、怒りをぶつけるだけだった。
挙句の果てには勢いよく地へと叩きつける。
「ぐえっ!?」
強制的に起こされた男は、体をよろけさせた。
「…………」
「ひっ!」
彼は、ただ男を睨む。
全 思風に一本の指だけで倒された男──黄 沐阳──は、顔を青ざめながら後退りした。
「ようやく起きたか。お前の仲間……人間たちのせいで、私の可愛い小猫が苦しんでいる。おまけに、父亲たちもこの有り様だ」
結界のせいで身動きが取れない彼らを助けろと、冷めた視線だけで物語る。
「私では、あれの解き方がわからない。わかったとしても、解けはしないだろうな」
「……た、確かにあれは、俺たち人間だけが解除できる術だけど……ひっ!」
尻もちをついている黄 沐阳へ、再び刃を向けた。首をくいっとし、解除しろと無言で訴える。
黄 沐阳は半泣き状態で鬼霊封殺の八卦鏡を解除していった。数分後、男のおかげで妖怪たちは無事、結界から外へと出れた。
同時に、全 温狼は妖怪たちに壊れた部屋の片付けなどを命令。全 思風も王らしく、妖怪たちに指示をだしていった。
しばらくすると、一通りの後片付けが終わる。捕まっていた妖怪たちは一旦医者に見せたのち、解散させた。
残されたのは王家のふたり、羊のような角を持つ老人、そして人間の黄 沐阳だけとなる。
「……そう、か。そのようなことが」
誰よりも冷静に状況を把握したのは全 温狼だった。彼は手持ちの扇子を広げ、口を隠す。近くにある朱い四阿の下に行き、中心にある机を前に椅子へ腰かけた。
向かい側に全 思風が座る。左側には羊のような角を持つ老人を座らせた。
黄 沐阳だけは地べたに正座をし、彼らに怯えながら俯いている。
「それで? お前はどうするつもりだい?」
数名の侍女が持ってきた茶杯に烏龍茶をわけていく。
ふたりはそれをちょっとだけ飲み、お互いに視線を交わした。
「一応言っておくが、お前は王だ。人間たちの元に殴りこみなどしようものなら、ふたつの種族による全面戦争になろう」
「……だからこそ、私は父亲に頼みたいのです」
「……?」
何を頼むと言うのか。全 温狼だけでなく、羊のような角を持つ老人までもが小首を傾げた。
全 思風は表情を変えないまま、茶器を置く。美しい顔立ちに悪巧みの笑みを加え、無言で父亲を凝視した。
「……ははぁん? さてはお前……」
扇子で口を隠して身を乗り出し、彼の耳元で何かを囁く。
全 思風は両目を見開き、くっくっと笑った。
しばらくの間、ふたりは笑い合う。やがて席へと戻り、ふたりしてふっと微笑した。
「いいだろう。その案、乗った! 俺も、ここまでこけにされて腸が煮え繰り返っていたところだ。思う存分、暴れてくるがいい!」
冥界のことは俺に任せろと、胸をはる。
同意を得られたことにより、全 思風はほくそ笑んだ。漢服の袖に両手を入れ、頭を下げる。
そして腰をあげ、この場を後にした。
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