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最終章 華の想い、暗き闇に光差して
人間界
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冥界で全 温狼たちが語っていた頃、全 思風は人間たちの住む世界へと訪れていた。
冥界と違い、自然に溢れている。太陽もあれば、海のように広い空もあった。野うさぎや野良猫などの野生動物もいて、争いとは無縁なよう。
野道には馬車が走り、人々は畑でのんびりと作業をしていた。
「久しぶりの人間界だ。さて……」
──黄 沐阳が言うには、小猫たちがいるのは枌洋の町というところらしい。ここから、そう遠くはないって話だ。
ならばと、右手の人差し指に黒い渦を巻く。空中に放り投げ、漆黒の階段を造り上げた。それを登っていき、頂上に着いたら縦断へと作り替える。
「……待ってて小猫、すぐに君をこの手に取り戻すから!」
意を決意した瞳で、縦断の上を走っていった。
□ □ □ ■ ■ ■
空中を疾走すること数分。全 思風はひとつの大きな町の上空へと到着していた。
そこは水に囲まれた町で、いくつかの小舟が橋渡しをしている。人々にも活気があり、町全体がとても賑やかだった。餃子や小籠包などの食べ物も豊富で、なかには焼き魚も売られている。
油の匂いをはじめ、焼いた魚の香ばしさも漂ってきた。
「……食いしん坊な小猫がここの香りを嗅げば、お腹の虫鳴らすかな?」
本来ならばずっと隣にいて、彼の心の拠り所となる存在だった少年。華 閻李を想いながら、ゆっくりと降りていく。
彼か降り立った場所は、ひと気のない裏路地だ。先ほど空から垣間見た華やかさはない。どちらかというと質素で、貧困民が暮らすところのようだった。
「この町のどこに小猫がいるのか。気配を探ってみても、微かにしか感じない」
苦虫を噛み潰したように唇をきつくしめる。
瞬間、彼の背後に何者かが立った。全 思風は驚く様子もなく、ため息だけをつく。振り向くことなく何か用かと、毅然とした態度を保った。
「……私の前に、よく顔を出せたものだ。面の皮が厚いんだね?」
腰にかけてある剣を抜く。地を蹴り、迅速に剣で横一閃した。次の瞬間、金属同士がぶるかる音が響く。目にも止まらぬ速さで何本もの閃光が飛び散った。
やがて彼が動きをとめる。相手側もとまり、彼らは剣を持つ腕を下ろした。
「──答えてくれないかな? どうしてこんなことしたんだい?」
瞳が朱く染まる。怒りやあきれを滲ませながら振り向いた。
相手の、青く、爽やかな色の漢服が揺れる。
視線を服から顔へと移せば、そこにいたのは整った顔立ちの中年男性だった。威厳のある表情を崩すことなく、その場に立つ男……
爛 春犂だった。
冥界と違い、自然に溢れている。太陽もあれば、海のように広い空もあった。野うさぎや野良猫などの野生動物もいて、争いとは無縁なよう。
野道には馬車が走り、人々は畑でのんびりと作業をしていた。
「久しぶりの人間界だ。さて……」
──黄 沐阳が言うには、小猫たちがいるのは枌洋の町というところらしい。ここから、そう遠くはないって話だ。
ならばと、右手の人差し指に黒い渦を巻く。空中に放り投げ、漆黒の階段を造り上げた。それを登っていき、頂上に着いたら縦断へと作り替える。
「……待ってて小猫、すぐに君をこの手に取り戻すから!」
意を決意した瞳で、縦断の上を走っていった。
□ □ □ ■ ■ ■
空中を疾走すること数分。全 思風はひとつの大きな町の上空へと到着していた。
そこは水に囲まれた町で、いくつかの小舟が橋渡しをしている。人々にも活気があり、町全体がとても賑やかだった。餃子や小籠包などの食べ物も豊富で、なかには焼き魚も売られている。
油の匂いをはじめ、焼いた魚の香ばしさも漂ってきた。
「……食いしん坊な小猫がここの香りを嗅げば、お腹の虫鳴らすかな?」
本来ならばずっと隣にいて、彼の心の拠り所となる存在だった少年。華 閻李を想いながら、ゆっくりと降りていく。
彼か降り立った場所は、ひと気のない裏路地だ。先ほど空から垣間見た華やかさはない。どちらかというと質素で、貧困民が暮らすところのようだった。
「この町のどこに小猫がいるのか。気配を探ってみても、微かにしか感じない」
苦虫を噛み潰したように唇をきつくしめる。
瞬間、彼の背後に何者かが立った。全 思風は驚く様子もなく、ため息だけをつく。振り向くことなく何か用かと、毅然とした態度を保った。
「……私の前に、よく顔を出せたものだ。面の皮が厚いんだね?」
腰にかけてある剣を抜く。地を蹴り、迅速に剣で横一閃した。次の瞬間、金属同士がぶるかる音が響く。目にも止まらぬ速さで何本もの閃光が飛び散った。
やがて彼が動きをとめる。相手側もとまり、彼らは剣を持つ腕を下ろした。
「──答えてくれないかな? どうしてこんなことしたんだい?」
瞳が朱く染まる。怒りやあきれを滲ませながら振り向いた。
相手の、青く、爽やかな色の漢服が揺れる。
視線を服から顔へと移せば、そこにいたのは整った顔立ちの中年男性だった。威厳のある表情を崩すことなく、その場に立つ男……
爛 春犂だった。
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