強いられる賭け~脇坂安治軍記~

恩地玖

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子飼い

斥候

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「うむ、殊勝な心掛けである。同輩十騎ほどで見てまいれ。但し、深入りするな。」
 藤吉郎も安治の意図は察したようだ。深入りするなと釘を刺したのも、安治が山岡探しに血眼になることを見越してのことであろう。
 安土山は、決して高くない山である。観音寺城がある繖山(きぬがさやま)と比べても半分ほどの高さしかない。美濃と京の街道を封鎖するには都合がよいが、天然の要害とは程遠い。
 どさくさに紛れてとはまさにこのこと。安治は、そう思った。今の六角家に失地回復を図れるほどの手勢は集められまい。もし六角家に手勢を集められる力量が残っていれば、もっと前から小競り合いを繰り返していたはずである。反織田勢力による包囲網が功を奏し、織田家の勢力が近江から駆逐されることを期待して、かき集めるだけかき集めてきた勢力が今の六角家の手勢であろう。言うなれば、烏合の衆である。それこそ、山岡でもおれば、戦にもなろうが、もし山岡がこの地に居ないようであれば、我が方の勝利は疑いない。
 「皆の衆、僧体の男どもが紛れていないか、よくよく注視されたし。そやつらは、忍びの者である。そやつらがおれば、殿とて油断はできぬ故、速やかに注進せねばならぬ。」
 安治は同輩にそう言い渡し、安土山に向かっていった。
 一刻ばかり山中を探してみたものの。伏兵が潜んでいるとは思えない。山頂近くに急ごしらえの砦が見えるばかりで、こちらを窺っている様子もない。六角の軍勢は、街道の封鎖しか頭に無いようだ。織田軍がここを標的にするなど露ほども考えていないらしい。山岡の姿も見当たらない。もし、山岡がいれば、手勢の忍びを使って妨害してくるであろうが、それもない。
 もしかしたら、山岡は別の場所を守っているのやも知れぬ。安治は、安土山の捜索を続ける内、その思いを強くしていった。そう言えば、山岡は将軍家ともつながりがあると聞いたことがある。将軍家とて、今が正念場である。織田軍を駆逐できなければ、逆に己が駆逐されてしまう。将軍家の危急を救うことで、六角家も救う。であれば、将軍家のためになるような働きを山岡なら行うであろう。ここに山岡が見たらないことにも合点がゆく。
 「皆の衆、なんぞ見つけたか!?」
 安治は、周囲に呼ばわった。
 「僧体の者はおろか、伏兵らしきも見当たらぬ!」
 同輩の一人が返した。
 六角勢は、思ったより手勢もなく、肝心な山岡もここにはいない。これなら一気呵成に安土山に攻め入り、街道の封鎖を解ける。安治は、そう踏んだ。
 「皆の衆、引き上げるぞ!伏兵はおらぬ。戦うなら今と、拙者から殿に言上仕る。」
 安治は、同輩を引き連れ、藤吉郎の待つ和田山に引き揚げていった。
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