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黄金の一刺し
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「これは」
アッガスさんたちと合流した私は言葉を失う。
エルフ族が閉じ込められているとされた檻……そこにはエルフ族はおらず。
エルフ族の形をとった石像が置いてあるだけであったからだ。
巨大な檻に押し込められるように保存されたその石像は、死に直面した人間の絶望の一ページを切り取ったかのように歪んでおり、その誰もが助けを求めるように手を伸ばしている。
当然これは彫刻ではなくエルフ族であったもの。
明らかに魔法により姿を変えられてしまっていた。
「石化……か」
「あぁ、一部が硬直する下位魔法じゃない。本物の石になっちまう第三番魔法【恒久なる石の彫刻】魔獣ゴルゴーンの使う状態異常と同じだ」
「お母さん、お父さん! ロブおじさん……アニムスお姉ちゃん!」
泣きじゃくりながら、ミアちゃんは石になった人々の名前を呼びかける。
当然石は返答を返すわけはなく、その事実に絶望しながらもミアちゃんはあきらめずに物言わぬ石に声をかけ続けている。
「ひどい。手は出してないって言ってたのに」
現状、石化を解く魔法やアイテムはこの世界に存在をしない。
伝説でも、エリクサーでも石化を解くことはできないとされており、私とアッガスさんは言葉を失いながらその石 像をただただ見つめることしかできないでいた。
と。
「みんなを、みんなを出してあげて。こんなところで、これ以上閉じ込められているのは可哀そうよ」
ミアちゃんは泣きじゃくりながらも、私に懇願するようにそうすがり懇願をする。
彼女は助けてとは言わなかった。
出してあげて……。
その言葉が意味することを確認する必要はない。
魔法に長けた子だからこそ、分かってしまったのだろう。
理解してしまったのだろう。
もはや目前の家族は助からないことを。
そして、それが分かっていながらも彼女は家族の、そして友達の名前を呼びかけずにはいられなかったのだ。
私はこみ上げるものを抑え鍵を取り出す。
石化してしまっているなら、この場所の制圧をしてから運び出すほうが効率的だ。
そんな冷酷で嫌になるほど残酷な言葉が脳裏をよぎったが。
私は唇をかんで振り払い、鍵の束の中から鍵を探すと。。
「カギの形からしてこれだな……」
横から顔をのぞかせたナイトさんは、鍵束の中から一つの鍵を抜き取る。
「ナイトさん?」
その表情はこの惨劇を見ても眉一つ動いておらず、淡々と牢屋の前に行くと南京錠を鍵で外して扉を開け、中に入る。
「ふむ、良く固まってるな」
「ナイトさん……その人たちは」
その言葉は、よくできた彫像をほめるようなそんな軽い感覚であり、私は一瞬ナイトさんがこの中にいる人々がも
ともとは人間であったことが分からないのかと疑うが。
彼はふと一番近くにいた石像に手を触れると。
「ふむ、なるほどな。こうしておけば下手に抵抗されて傷つけることもないということか……合理的だが、気に食わんやり方だな」
そう呟き、同時にその手のひらから膨大な魔力が放出される。
「ナイト君……いったい何を?」
私はナイトさんがしようとしていることを問いただすが、それにナイトさんは答えることなく。
「其は冷たき眠りから目覚めさせる一つの針……痛みはない、ただ目覚めの喜びとともにぬくもりを思いだせ。柔
らかき目覚めを貴方に……【黄金の一刺し】」
聞いたこともない詠唱と共に、膨大な魔力を檻の中に満たさせる。
すると、満たされた檻の中に金色の針のようなものが降り注ぎ、石化したエルフ族のみんなのもとに優しく突き刺さる。
と。
「うそ……」
「信じられない……」
金の針のようなものが突き刺さった先から石化が解除されたのか灰色の肌は元の白い美しい色に戻り、来ていた衣
服も柔らかさを取り戻していく。
「えほっ……えほっ」
やがて、ずっと息を止めていたからだろう。石化が解かれたエルフ族たちは全員一斉にむせこみ始め、思い出すように呼吸を始める。
「落ち着け、ゆっくりと息をしろ。命に別状はない」
ナイトさんは、呼吸を思い出せずにむせこむ人の背中をさすり、一人、また一人と石化をしていた人間の機能を取り戻させていく。
その光景は目前で視認したというのに信じられない。だが、エルフ族のみんなは一人の例外なく石化が解かれ、自
由の身となった事実だけが目前に広がっている。
「これは……一体」
まるで奇跡としか言いようがなく、私たちはそんなナイトさんの力に茫然と立ち尽くしていると。
「お父さん! お母さん!!」
ミアちゃんは顔をぐしゃぐしゃにしながらエルフの人たちの間を縫うように走っていき、奥のほうにいたエルフ族の男女二人に飛びつき泣きじゃくる。
どうやら、お父さんとお母さんは無事だったようだ。
「一体、君は何をしたんだい?」
そんな光景を見て、局長はあきれたようにため息を漏らしてナイトさんにそう聞くと、ナイトさんは何でもないと
いったように。
「第五番魔法黄金の一刺しだ。すべての石化効果を打ち消す魔法だ」
「完全石化を治療する魔法なんて聞いたことないです」
「そうか? 俺たちの世界では必須魔法なんだけどな」
「転生者が強いわけだよほんと、知れば知るほど君たち異世界の人間ってやつはでたらめだよねぇ」
局長はあきれたような乾いた声を漏らすと、ナイトさんはミアちゃんの元まで向かう。
「全員無事か?」
「ええ、ナイト叔父様、みんな無事だわ。大きな怪我をしているものはないみたい。まだうまくみんな喋れないみたいだけど」
ミアちゃんの言葉により、エルフの人たちは私たちが助けたということを悟ったのか。
言葉にならない唸り声のような声を上げ、深々と頭を下げてくる。
もちろん、それが感謝の意を表していることは容易にくみ取れる。
「そっちから見て、全員体は動きそうか? 局長さんよ」
しかしそんな光景に謙遜するでも照れるでもなく、アッガスさんは局長にそうエルフの人たちの状態を確認させる。
そう、まだここは敵地のど真ん中。
一秒たりとも気を抜くことなどできないのだ。
私は緩みそうになった頬を一度たたき、気を引き締めなおす。
アッガスさんたちと合流した私は言葉を失う。
エルフ族が閉じ込められているとされた檻……そこにはエルフ族はおらず。
エルフ族の形をとった石像が置いてあるだけであったからだ。
巨大な檻に押し込められるように保存されたその石像は、死に直面した人間の絶望の一ページを切り取ったかのように歪んでおり、その誰もが助けを求めるように手を伸ばしている。
当然これは彫刻ではなくエルフ族であったもの。
明らかに魔法により姿を変えられてしまっていた。
「石化……か」
「あぁ、一部が硬直する下位魔法じゃない。本物の石になっちまう第三番魔法【恒久なる石の彫刻】魔獣ゴルゴーンの使う状態異常と同じだ」
「お母さん、お父さん! ロブおじさん……アニムスお姉ちゃん!」
泣きじゃくりながら、ミアちゃんは石になった人々の名前を呼びかける。
当然石は返答を返すわけはなく、その事実に絶望しながらもミアちゃんはあきらめずに物言わぬ石に声をかけ続けている。
「ひどい。手は出してないって言ってたのに」
現状、石化を解く魔法やアイテムはこの世界に存在をしない。
伝説でも、エリクサーでも石化を解くことはできないとされており、私とアッガスさんは言葉を失いながらその石 像をただただ見つめることしかできないでいた。
と。
「みんなを、みんなを出してあげて。こんなところで、これ以上閉じ込められているのは可哀そうよ」
ミアちゃんは泣きじゃくりながらも、私に懇願するようにそうすがり懇願をする。
彼女は助けてとは言わなかった。
出してあげて……。
その言葉が意味することを確認する必要はない。
魔法に長けた子だからこそ、分かってしまったのだろう。
理解してしまったのだろう。
もはや目前の家族は助からないことを。
そして、それが分かっていながらも彼女は家族の、そして友達の名前を呼びかけずにはいられなかったのだ。
私はこみ上げるものを抑え鍵を取り出す。
石化してしまっているなら、この場所の制圧をしてから運び出すほうが効率的だ。
そんな冷酷で嫌になるほど残酷な言葉が脳裏をよぎったが。
私は唇をかんで振り払い、鍵の束の中から鍵を探すと。。
「カギの形からしてこれだな……」
横から顔をのぞかせたナイトさんは、鍵束の中から一つの鍵を抜き取る。
「ナイトさん?」
その表情はこの惨劇を見ても眉一つ動いておらず、淡々と牢屋の前に行くと南京錠を鍵で外して扉を開け、中に入る。
「ふむ、良く固まってるな」
「ナイトさん……その人たちは」
その言葉は、よくできた彫像をほめるようなそんな軽い感覚であり、私は一瞬ナイトさんがこの中にいる人々がも
ともとは人間であったことが分からないのかと疑うが。
彼はふと一番近くにいた石像に手を触れると。
「ふむ、なるほどな。こうしておけば下手に抵抗されて傷つけることもないということか……合理的だが、気に食わんやり方だな」
そう呟き、同時にその手のひらから膨大な魔力が放出される。
「ナイト君……いったい何を?」
私はナイトさんがしようとしていることを問いただすが、それにナイトさんは答えることなく。
「其は冷たき眠りから目覚めさせる一つの針……痛みはない、ただ目覚めの喜びとともにぬくもりを思いだせ。柔
らかき目覚めを貴方に……【黄金の一刺し】」
聞いたこともない詠唱と共に、膨大な魔力を檻の中に満たさせる。
すると、満たされた檻の中に金色の針のようなものが降り注ぎ、石化したエルフ族のみんなのもとに優しく突き刺さる。
と。
「うそ……」
「信じられない……」
金の針のようなものが突き刺さった先から石化が解除されたのか灰色の肌は元の白い美しい色に戻り、来ていた衣
服も柔らかさを取り戻していく。
「えほっ……えほっ」
やがて、ずっと息を止めていたからだろう。石化が解かれたエルフ族たちは全員一斉にむせこみ始め、思い出すように呼吸を始める。
「落ち着け、ゆっくりと息をしろ。命に別状はない」
ナイトさんは、呼吸を思い出せずにむせこむ人の背中をさすり、一人、また一人と石化をしていた人間の機能を取り戻させていく。
その光景は目前で視認したというのに信じられない。だが、エルフ族のみんなは一人の例外なく石化が解かれ、自
由の身となった事実だけが目前に広がっている。
「これは……一体」
まるで奇跡としか言いようがなく、私たちはそんなナイトさんの力に茫然と立ち尽くしていると。
「お父さん! お母さん!!」
ミアちゃんは顔をぐしゃぐしゃにしながらエルフの人たちの間を縫うように走っていき、奥のほうにいたエルフ族の男女二人に飛びつき泣きじゃくる。
どうやら、お父さんとお母さんは無事だったようだ。
「一体、君は何をしたんだい?」
そんな光景を見て、局長はあきれたようにため息を漏らしてナイトさんにそう聞くと、ナイトさんは何でもないと
いったように。
「第五番魔法黄金の一刺しだ。すべての石化効果を打ち消す魔法だ」
「完全石化を治療する魔法なんて聞いたことないです」
「そうか? 俺たちの世界では必須魔法なんだけどな」
「転生者が強いわけだよほんと、知れば知るほど君たち異世界の人間ってやつはでたらめだよねぇ」
局長はあきれたような乾いた声を漏らすと、ナイトさんはミアちゃんの元まで向かう。
「全員無事か?」
「ええ、ナイト叔父様、みんな無事だわ。大きな怪我をしているものはないみたい。まだうまくみんな喋れないみたいだけど」
ミアちゃんの言葉により、エルフの人たちは私たちが助けたということを悟ったのか。
言葉にならない唸り声のような声を上げ、深々と頭を下げてくる。
もちろん、それが感謝の意を表していることは容易にくみ取れる。
「そっちから見て、全員体は動きそうか? 局長さんよ」
しかしそんな光景に謙遜するでも照れるでもなく、アッガスさんは局長にそうエルフの人たちの状態を確認させる。
そう、まだここは敵地のど真ん中。
一秒たりとも気を抜くことなどできないのだ。
私は緩みそうになった頬を一度たたき、気を引き締めなおす。
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