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第9章、 涙色の戦場

赤き戦慄の終わりと始まり(アウェイク)

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 私、アウェイク= アルファインは 弟のアルバートに剣を向けた。

「兄様、 何を......?」
「 私にとって、サブリナの いない世界などどうだっていい」

 私が愛したたった一人の女性。 心許せた唯一の女性。サブリナの 命を奪った憎き敵が目の前にいる。 弟だからといって容赦はしない。
 怒りを込めた一撃。
 つい力が入ってしまったようだ。 アルバートはあっさりと倒れてしまう。

「 楽には殺さない。サブリナが 味わった苦しみを 存分に体験させてやろう!」
「げほっ!」

 私はアルバートの腹に 蹴りを入れる。
 サブリナの苦しみはこんなものじゃないぞ。  
 
「 アルバートから離れろ!」

 さすが 切り込み隊長の エルヴィンだけのことはある。彼は あっという間に 私の懐に入り込んだ。
 しかし、まだまだ甘い。

「 エルヴィン、 誰がお前に剣術を教えたと思っている?」
「アウェイクさんですね。 そのことには感謝しています。が、勇者となった アルバートを殺させるわけにはいかない!」

 エルヴィンの剣の鋭さが増していく。 今までの中で一番いい動きだ。
 ロイドの 援護射撃も、 気を付けなければ致命傷を負いかねない。
 名前は忘れたが、冒険者の 攻撃も厄介だ。 弓の攻撃を避けたかと思ったら、[ マジックボール]が 直撃した。 威力は大したことないが気配が全く感じない。
 アルバートの怪我はいつのまにか、 アンジェリカの妖精魔法によって 治されていた。
 さすが勇者一行だけのことはある。 見事な連携だ。
 
「サブリナさんは、 こんなことは望んでいない!」
「 お前に何がわかる!?」

 私とアルバートの剣がぶつかり合う。
 奥の手の[クロスラッシュ]を使えば、 確実に アルバートの息の根を止めることができる。
 
 ...... できなかった。

 サブリナは 魔族に操られていたから、 アルバートは 彼女を倒すことでしか救うことができなかった。
 本当はわかっていた。
 認めたら、 彼女の優しさまで否定するようで、 事実を受け入れられなかった。
 アルバートはサブリナを殺したことで 苦しんでいる。
 本当に悪いのは魔族だ。
 しかし、 私は魔界に行くことができない。 諸悪の根源の魔王を倒しに行けないんだ。
 ああ、そうか。 私は それを可能なアルバートに嫉妬していただけなんだ。
 全てが腑に落ちた。
 
 魔族の中には人に化けるものや人を操る者がいる。 大切な人の姿になって 陥れようとする者がいるのだ。
 勇者は そういった魔族とも戦わなければならない。 だからアルバート。 私を殺す気でかかってこい!
 ......いや、 私が言っても説得力がないな。サブリナが 魔族になっているとこに 気づいておきながら、 私は彼女に手を下せなかったのだから。
 
 ーー もうすぐ15分が経つ。
 ここまでか......。
 アルバートたちの動きは悪くなかった。 勇者一行そして及第点といったところだろう。

「[ エクセレントブレイブスラッシュ]!!」

 私はわざとアルバートの攻撃を受けて、 絶命した。

 アルバート、サブリナを 不幸のどん底に陥れた 魔王倒さなければ許さないぞ。
 後は......任せ......た......。


 その後世界がどうなったかは知らない。
 私は死んだのだから。
 これでやっと、サブリナの 元に行ける。
 寂しい思いをさせてごめん。
 でも、もう大丈夫だよ。


「 サブリナに、あの世で会うことは出来ない」

 男とも女とも言えない不思議な声がした。
 
「 サブリナに会えないとはどういうことだ!?」
「 彼女はすでに無限ループの輪にもどっているからだ」

 話がさっぱり見えない。
 無限ループとは何だろうか。 それ以前に、声の正体は何者なのだろうか。
 なんにしても 声の主は、 情報を渡すことで 私を利用するつもりなのだろう。いや、 そうでなければ困る。 もしも暇つぶしで情報だけ与えられ、サブリナを 救えない 私の心境を 楽しみたいだけならば、 今の私には絶望しかない。

「...... 私がどうしようもない状況を嘲笑いに来たのか?」
「いや、 貴様はもうすぐ彼女に会える」
「 本当か!?」

 私は藁にもすがる思いで聞いた。
 
「ああ、 本当だとも。 このままでは記憶をなくしてしまうけどな」
「 どういうことだ......?」

 私とサブリナを生き返らせてくれるが、 その代償として記憶を失うということだろうか。
 無限ループという言葉が気になる。
 永遠に繰り返される......。
 過去の自分に戻るというのだろうか。
 理解の範疇を超えている。

「 貴様は無限ループをひらく扉の鍵になるかもしれない。 だから 、記憶付きで 輪の中に戻してあげよう。 そうすれば......」
「 今度こそサブリナを救えるということか!?」
「 そういうことだ」
「 お前が悪魔でも邪神でも構わない。 その話に乗ってやろう」

 私が言うが早いか、 私の体が闇に包まれた。

「 本当に邪悪な存在なのか?」
「 そんな価値観は 人の物でしかない。 私はダクネス。 無限ループの鍵の一つだ」

 声の主の話は最後までわからなかった。
 そんなことはどうでもいい。
 気がついたら私の目の前にサブリナがいた。
 生きている。
 抱きしめたら 温もりが伝わってきた。

「 もう離さないよ、サブリナ」
「アウェイク、 どうなさったの?」

 君は何も分からなくていい。今度こそ私が救ってあげるよ。






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