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「父さんへの言い訳はそれしかないな。でも、クレメントが不用意なことを言い出すとも限らない。さすがに婚約者の父に、娘に持参金を持たせないとは、なんて言わないと信じたいけど…」
「外面だけはいいから、お父様には言わないと思う。でも仲間内には何を言い出すか分からないわ。そっか、持参金を持たないとお父様に恥をかかすかもしれないのね。」
「そうだね。で、考えがあるんだけど、聞く?」

妙に楽しそうにユージンはアリアナに尋ねた。
こくこくと頷いたアリアナにユージンは嬉々として告げた。

「塩の販売ルートを姉さんが引き継げばいい」
「え」

海に面さない王都で塩の販売は、莫大な利益を生む。
ゾーイ商会の取り扱う品は多種多様に渡り、王族に献上する品から平民が手にする品まで多種多様に及ぶ。
しかし、身分の上下に関わらず生活において必需品となる塩は、ゾーイ商会の利益を支える柱の一つだ。

「でも、あなたがゾーイ商会を継ぐ時に、それは困るんじゃ…」
「塩の販売ルートを姉さんに譲ったところで僕は痛くも痒くもないよ。なんなら新しい商品で、塩と同じくらい価値のあるものを見つけてみるのも一興だしね。もちろん、販売は今まで通りしてもらうことになるよ。僕たちの家の都合で、周りに迷惑をかけることは許されないからね。でも、姉さんなら問題ないでしょ」
「それはもちろん、大丈夫だけれど…」

折に触れて、家業に携わってきたアリアナにとって、仕入れ先も販路も確立している塩の扱いなど朝飯前に等しい。

「でも、クレメント様はこれが持参金代わりってちゃんと分かるかしら。」
「姉さん。塩だよ?ほっといても金の卵を産むにわとりだよ。たかだか2000エランの持参金より遥かに価値があるのは誰でも分かる。生粋の馬鹿以外」

最後の一言にどきりとしたアリアナを見てユージンはげんなりした。

「生粋の馬鹿なのか。」
「ごめんなさい」
「どうして姉さんが謝るの」
「そんな馬鹿に恋してしまった過去の自分が居た堪れなくて」
「恋は盲目」

一言評して、ユージンは話を戻す。

「とりあえずクレメントが周りに、持参金の代わりに塩の販売ルートを姉さんが持ってきた、って嘲ったら馬鹿にされるのは奴の方だから気にしなくていい。
父さんには、持参金の辞退の代わりに姉さんの結婚祝いとして塩の販売ルートを譲るように僕からいっておくよ」
「ありがとう」

ハンゼ公爵家のこれからが楽しみだ、と呟いた弟の姿を見て、アリアナは思わず苦笑いをしてしまった。


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