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14 皇后と侍女
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「皇后様、ご指示通り明後日に侍医女官の州芳とお会いいただく予定を入れております。」
奏輝からそう告げられたのはその晩のことであった。仕事の早い侍女は早速侍医女官に話をつけてきたようだ。
「ええ、ありがとう。」
「簡単に要件だけはお伝えしておりますので、州芳も心積りはできているかと思います。なんなりとお聞きください。」
「分かったわ」
とりあえず侍医女官に出会うことで少しでも状況が分かればいいのだけれど、と思いながら蔡怜は明日の予定を考えた。
明日は、黄貴妃との顔合わせが控えている。
黄貴妃様との顔合わせか、めんどくさいな。みんなもう少し私をゆっくりさせてくれてもいいよな。昨日入宮したばかりなのに、今日には陛下に頼み事をされるし…。絶対、陛下の依頼が解決した暁には、のんびり暮らす権利をもらおう。
蔡怜は心に誓う。もとより、人身御供同然で嫁いできた身。大事にされることはないと分かっていたが、うまくいけば誰からも注目されずにひっそり、いや、のんびり暮らせると思っていた。しかし、蓋を開けてみれば、皇后の位を与えられた上に、皇帝から直々に後宮に流れる暗い噂の理由を突き止めよという難題を押し付けられた。
とりあえず、せっかく黄貴妃様と顔合わせがあるのだから、黄貴妃様が知っていることを聞いてみるか。まぁ、黄島は都から離れてるし、どこまで噂が届いているか分からないけど。
若干失礼なことを考えながら蔡怜は眠りに着いた。
「おはようございます、皇后様。本日のお召し物、お色は何にいたしましょう」
「おはよう。なんでもいいけれど。任せるわ。」
「お決めいただけますか」
「なら、水色でお願い」
なんで、朝一番に聞かれる内容が今日着たい服の色なんだ。機嫌伺い、いやせめて、朝食に何を食べたいか、とか他に先に聞くことがあるだろう。
心の中で、ぼやいた蔡怜だったが、奏輝の次の言葉で己の立場を再認識させられることとなった。そして、何より先に服の色を聞かれた理由にも得心がいった。
「黄貴妃様の侍女より、皇后様のお召し物のお色伺いがさきほどございました。顔合わせに間に合わせるために急いでいるようでしたので…ご気分を害されたなら申し訳ございません。」
「いえ、私こそごめんなさい。先に決めてあなたに伝えておけばよかったのに、うっかりしてたわ。ありがとう」
何かの集まりの際に、目下の者が目上の者と同色の服を着ることは非礼にあたる。そのため、身分が下の者は身分が上の者にどんな色の服を着るのかあらかじめ尋ねて、同色の服を避けるのだが、その際、尋ねられた側はすぐ答えられるようにしておくのが一般的だ。しかし実家にいた時は、上下関係を気にするような他の貴族との付き合いがほとんどなかったため、蔡怜はそのことを完全に失念していた。
そうか、よく考えたら、みんな私の服の色とか気にするのか。鬱陶しいな。
服なんてその日の気分で着たいものを着ればいいのに。でも、確かに私も下の立場なら、お色伺いするもんな…はぁ、つくづく邪魔くさい立場だなぁ。
今度は心の中でため息をつきつつ、黄貴妃との顔合わせに向けて、蔡怜は支度を整えた。
奏輝からそう告げられたのはその晩のことであった。仕事の早い侍女は早速侍医女官に話をつけてきたようだ。
「ええ、ありがとう。」
「簡単に要件だけはお伝えしておりますので、州芳も心積りはできているかと思います。なんなりとお聞きください。」
「分かったわ」
とりあえず侍医女官に出会うことで少しでも状況が分かればいいのだけれど、と思いながら蔡怜は明日の予定を考えた。
明日は、黄貴妃との顔合わせが控えている。
黄貴妃様との顔合わせか、めんどくさいな。みんなもう少し私をゆっくりさせてくれてもいいよな。昨日入宮したばかりなのに、今日には陛下に頼み事をされるし…。絶対、陛下の依頼が解決した暁には、のんびり暮らす権利をもらおう。
蔡怜は心に誓う。もとより、人身御供同然で嫁いできた身。大事にされることはないと分かっていたが、うまくいけば誰からも注目されずにひっそり、いや、のんびり暮らせると思っていた。しかし、蓋を開けてみれば、皇后の位を与えられた上に、皇帝から直々に後宮に流れる暗い噂の理由を突き止めよという難題を押し付けられた。
とりあえず、せっかく黄貴妃様と顔合わせがあるのだから、黄貴妃様が知っていることを聞いてみるか。まぁ、黄島は都から離れてるし、どこまで噂が届いているか分からないけど。
若干失礼なことを考えながら蔡怜は眠りに着いた。
「おはようございます、皇后様。本日のお召し物、お色は何にいたしましょう」
「おはよう。なんでもいいけれど。任せるわ。」
「お決めいただけますか」
「なら、水色でお願い」
なんで、朝一番に聞かれる内容が今日着たい服の色なんだ。機嫌伺い、いやせめて、朝食に何を食べたいか、とか他に先に聞くことがあるだろう。
心の中で、ぼやいた蔡怜だったが、奏輝の次の言葉で己の立場を再認識させられることとなった。そして、何より先に服の色を聞かれた理由にも得心がいった。
「黄貴妃様の侍女より、皇后様のお召し物のお色伺いがさきほどございました。顔合わせに間に合わせるために急いでいるようでしたので…ご気分を害されたなら申し訳ございません。」
「いえ、私こそごめんなさい。先に決めてあなたに伝えておけばよかったのに、うっかりしてたわ。ありがとう」
何かの集まりの際に、目下の者が目上の者と同色の服を着ることは非礼にあたる。そのため、身分が下の者は身分が上の者にどんな色の服を着るのかあらかじめ尋ねて、同色の服を避けるのだが、その際、尋ねられた側はすぐ答えられるようにしておくのが一般的だ。しかし実家にいた時は、上下関係を気にするような他の貴族との付き合いがほとんどなかったため、蔡怜はそのことを完全に失念していた。
そうか、よく考えたら、みんな私の服の色とか気にするのか。鬱陶しいな。
服なんてその日の気分で着たいものを着ればいいのに。でも、確かに私も下の立場なら、お色伺いするもんな…はぁ、つくづく邪魔くさい立場だなぁ。
今度は心の中でため息をつきつつ、黄貴妃との顔合わせに向けて、蔡怜は支度を整えた。
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