散華へのモラトリアム

一華

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第六章

華は風を追って 2

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同時に奇妙な程。 
瑞華には忙しい日程が組まれた。 
なんて、言い方は悪いけど。 

殆ど毎日の様に、弥生さんのレッスンが入っている。 
なんでも月頭は仕事が楽になるらしく、そこに集中した日程だと説明をうけた。
大学が終わればすぐに迎えが来て、九条家に招かれる。 
それに加えて、空いている日には雪乃からのお誘い。 

正確には、九条月人からの花火の日のお詫びにと、オペラやら日舞やらのチケットが贈られてくるため、九条家の令嬢である雪乃と見に行っているのである。 

『妹の息抜きを兼ねて、是非』と言われれば、断りようもない。 

それに嬉しそうに無邪気に喜ぶ少女を見れば、癒され、穏やかな気持ちになるのだから、瑞華にとっても嬉しいことだった。 
あながち狙いは間違ってはいない。 

だから本当に連日、大学、もしくは弥生の授業。もしくは雪乃とのお出かけ。
さもなくば九条月人直々に接待まで頂き、九条家づくしだった。 
贅沢すぎるほどに。瑞華が調べようと思っていた、華屋の取引先やテナントのことを調べる時間すらない程、贅沢に並べられた予定の数々。


そして一番の気がかりは、九条風人が姿を見せないこと。 
それだけ、だ。 

ふとある日、そのことを寂しい気がしてしまい。

だから。
段々と不思議になってしまった。 
仮にも九条家に出入りをしているのに、風人と会わないことを。
会いたいから、そう思うのだろうか? 

そこに行き着くて考えると、心がざわつくことへの、口惜しさ。 
会うことが当たり前の人ではなかったのに、どうしてこんなに甘えたことを考えているのだろう。
首元の痕が消えた後、鷹羽の誘いは奇妙な程なかったため、気持ちが緩んでいるのかもしれない。
そんな言い訳と、言葉にはしないが、いい加減自分の気持ちくらいは分かってしまっていて、瑞華を焦がした。



その日は大学の講義が終われば、既に日課になりつつあった九条家訪問の予定。
荷物を纏めていると、携帯に弥生からの着信があった。 

『ごっめーん。今日のデートキャンセル!仕事入っちゃった!』 
「誰と誰のデートですか!」 

呆れて返答するが、それでめげる相手ではない。 
『瑞華ちゃんと私、でしょ?』
含み笑いで言われれば、何と言うか、この人は。 
――絶句。 


「・・・分かりました。じゃあ、九条家に連絡いれましょうか?」 
『あ、ならさっき、月人さんの携帯に留守電しといたわ。なんなら雪乃ちゃんとデートしたら?』 

軽く言われる。 
いや、しかし。流石に約束していないので気がひける。 
行けば喜んでくれるかもしれないが・・・ 

曖昧に返事をして電話を切った。 
久しぶりに予定が空いてしまったのだ。二週間ぶりだろうか? 
何をしよう? 
戸惑う気持ちになり、思案して――

ふと、九条風人に会いたくなっていた。 
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