散華へのモラトリアム

一華

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第六章

華は風を追って 1 

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数日後、父から先日の華屋訪問について話をされた時には、瑞華は絶句した。

「職員どころか、テナントで入ってる会社の社長さんや役職付きの人まで、お前の恋人について聞かれたよ」
「…え」
「先日行くとは聞いていたけど、銀座と新宿だけじゃなくて、他の店舗の人間にも聞かれてねえ。いや、驚いた」

じ、冗談でしょう!?
そこまで話が回っているなんて思いも寄らず、驚いたのは瑞華の方だ。
確かに噂になるかもしれないと思ってはいたが、わざわざ華屋グループ社長である父に直接聞きに行く人間が何人もいるくらいの噂になるなんて、誰が思うだろうか。

父はどこか上機嫌だが、瑞華は思ってもない展開に戸惑いを隠せない。
一体どういうことなのかと部屋に戻ると携帯を取り出した。
九条風人に電話をするためだ。
電話帳からその名前を選んで電話を掛けると、数コール後つながった。
『もしもし』
「…どういうことですか?」
『ん?どうかしたの?』

その返しの言葉はどこか余裕があって、瑞華はこの状況を風人が予測していたのではないかと疑った。
ゆっくりと落ち着いて、正確な言葉を選ぶ。

「どうして華屋グループ中で、風人さんとのことが噂になってるんですか?」
『おやまあ』
愉しそうに、ククッと笑われて、瑞華は不満そうに顔をしかめた。状況が不可解すぎる。
しかし、わざわざ華屋の店舗に行ってまで、風人がこの噂を広めたというならば意味があったはずだ。

『瑞華』
「なんですか?」
『…いや、なんでもない。悪い、出先なんだ。また、今度…と言っても、しばらく忙しくなるけど。連絡つかないと寂しい?』
「そんなこと…ありません」
『なら良かった。じゃあ』

核心に触れることには何も答えず、電話は切れた。
瑞華は携帯を見つめて、自分の返事が間違っていたのか、一人悩むことになった。


明くる日から、宣言通り、九条風人と会わなかった。
夏休みが終わった大学構内でも全く見かけない。
華屋本社にはいるのかもしれないが、たまに訪れる九条邸ではまるで気配がない。
弥生や雪乃にも、最近は家を空けることが多いと聞けば、心配にもなる。
  
少し寂しい気もしたが 
瑞華は気のせいと言うことにした。 


そうっ断じて・・・ 
風人に揺れている心など・・・ 

ありはしない!! 

そう言い聞かせた。
言い聞かせてしまうことが一番楽だった。
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