散華へのモラトリアム

一華

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第二章

月に導かれるなら 4

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「では、新しい外商の方を頼んでくださったのかしら」
「え?」
「お兄様にお願いしておりましたの。嬉しい…今までの方では頼りなくて」

百貨店で外商と言えば、当然外商部のことである。
老舗の百貨店の類にはどこにでも存在していると言われる部署で、特にVIPな上顧客の相手をする販売員が所属している。御用聞きに御宅まで伺うこともあれば、来店の際は付きっきりで面倒を見る特別な部署だ。
対応するお客側も、信頼する販売員相手ならお任せで買い物をお願いすることも多い。
実に百貨店の売り上げの半分以上がこの外商部が売り上げると言われるほどで、当然、九条家程のお屋敷であれば、どこかの外商販売員がしっかり付いているはずだ。
しかし、この言いようでは、何かトラブルでも合ったのだろうか。
この品の良い少女が、はっきりと『頼りない』と口にするのは、正直、異常事態である。

だが九条家が『華屋』の外商に乗り換えようとしているとは思えなかった。
それならば、瑞華ではなく選り抜きのベテランがここにいなくてはおかしい。

外商部とはバブル期に全盛になった部署で、中心メンバーは50代を超える社員ばかり。
最近は新規参入するようなお客様は少なく、しかもそれが九条家などという大お得意になり得る相手ならば、まだ大学生である瑞華が何も聞かされずここにいるはずがないのだ。
また九条月人さんの方でも、瑞華で良いなどと言うはずもない。

だから、残念ながら。
そう、九条家なんてVIPを相手に商売出来るならば、本当に夢のようだが、それは勘違いのはずだ。
これがチャンスと欲を出し、出しゃばる発想なども持つ時ではないだろう。
チャンスは勿論得るべきだが、分をわきまえないのも大きな失敗の元だ。
『九条家がお抱えだった外商から乗り換えようとしている』
この情報だけで、随分な利益なのだから。損得を冷静に考えておく。

さて、まずはこの誤解をどう解くべきかと思案していると。
「ゆき。残念だけど、そちらは新しい外商と言うわけじゃないぜ」

なだめるような、穏やかな優しい声が少女に掛けられた。
その声に、瑞華はハッとして固まった。
自分に向けられた時は、もっと冷たい音色だったが。
聞き間違えるほど、ありふれた声ではない。
振り返らなくても、すぐに分かった。

九条風人。
そういえばこの家は彼の住処でもあったということを、愚かにもようやく瑞華は思い出していた。
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