散華へのモラトリアム

一華

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第五章

空に咲く華 2

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「気のせいだったら悪いけど、瑞華ちゃんは最初から風人くんにはちょっと意地っ張りね?」 
「それは…」
「少しは素直な態度で話してみたら?風人くんもそうされたら嬉しいんじゃないかしら?」 

そう、だろうか? 
少しだけ胸がざわめいた。
素直に話せば、多少関係は変わるだろうか。
淡く期待を胸に宿せば、強く嫌だとは言えない。躊躇ためらって落とした視線は、どこに向かいたいのか迷子になりそうだ。

瑞華の様子を見て、弥生が不意に携帯を取り出した。  

「あ、もしもし。月人さん?」
その言葉に瑞華が何事かと顔を上げた。
弥生は瑞華ににっこりと笑いかけながら、そのまま話続ける。

「お願いがあるの。…えぇ。 
ちょっと風人クンの時間が欲しいのよ。 …ん?ふふ。 
瑞華ちゃんと本気デートしないかなって思って。ねぇ、お願い出来る?私が頼んでもいいけど。 
そう? …じゃあ、お願いね」 
 
…はい? 
話の内容に瑞華の思考がフリーズした。 
目の前にいる弥生は、どこまでも優しく笑っている。 

「迷うならさ、味見なさい。先入観なしで。食べて見なきゃ分からないでしょ?」 
「食べてって…」
「あ、もちろん物の例えよ?実際に食べたら…ま、それはそれでいいか」
「いや、食べ物じゃないですから!」 
食す、のイメージが頭からバリバリ、の絵しか浮かばない。弥生は楽しそうに笑ってみせるが、その意味を理解するのは瑞華にはなかなか難しい課題と言わざる得なかった。 

「でも、風人さんがデートなんて了承してくれるわけないじゃないですか」
「そこは月人さんが、上手くやるから大丈夫よ」

にっこり笑われて、しかしそれで『本気デート』と言えるのか疑問なのだが、弥生は揺るがずに話を勧める。
「やっぱり花火大会じゃないかしら? 」
「花火大会!?」
「そうそ。夏といえば花火大会。やっぱり季節ものは鉄板よね」

うきうきした声に、一瞬楽しそうだなと思ってしまい、慌てて言い返す言葉を探した。
「う、海だったら、この間行ったじゃないですか。そうですよ、風人さんとも二人きりになりましたし」 
「そこにトキメキはあったの?お互いの意識はあったの?思い出に残るようなストーリーはあったの? あったと言うなら、さっさと教えなさい」 
「……」
切れの良い切り返しに瑞華は反論の言葉が思いつかない。
楽しかったし、瑞華なりにドキドキしてしまう瞬間も確かに、そう認めてしまえば確かにあったけれど、『お互いの意識』があったかと言われれば、きっとなかった。
意識したのは多分、私だけ… 
言い返せない分、心の中に生まれたもやもやが、頭を占領してくれる。
 
「本気デートなんだから、瑞華ちゃん。一番可愛い格好するのよ?いい?浴衣よ? 可愛い髪型にメイクで楽しんでくればいいのよ」 

 思えばどうして、こんな話になってしまったのか分からない。
確かに華屋と瑞華自身の今後を考えていたはずなのに、ひたすら押し切られてしまったことだけは分かる。

九条風人と本気デートって何すればいいの?
大きな困惑で瑞華は立ちくらみを起こしそうだった。

瑞華、恋愛Level0・・・
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