散華へのモラトリアム

一華

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第六章

風雅公の企み 4

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銀座百貨店、華屋。 

老舗で銀座の顔とも言えるその店構えは、高級百貨店らしく堂々としている。 
シニア向けのデザインは勿論だが、若者向けの本物の質にこだわった品揃えも定評がある。 
名前通りの華やかさに、一倒産の危機が今あるとは誰も知るよしがない。 


元々旧家と商売は無縁である。 
得にこういった細々とした物を売ることをするなんて考えられない。 
だが花宮の四代前の当主は、自分の愛人に商人の娘を迎えいれた。 
本妻は早くに亡くし、立場上、内縁の妻としてしか置けなかったが、花宮では女主として愛されたその女性は、その手腕で華屋を高級百貨店として育て上げた。 

――花宮を引き継いだ、息子は華屋を更にもり立て 

ちょうど時代の変化も追いつき、類を見ない血筋の良い社長が経営する百貨店が出来上がった。 
勿論、当時は妾の始めた商売だの、その成り上がりの息子だのひがみは大きかったらしいが、その当主の権限が強く。
最終的には黙らせた、と聞いてる。 


昔話だ。 
時が流れ今となっては社長は平和ボケしてしまった瑞華の両親。
それでも老舗としての品格は残っていると思う。


九条邸から瑞華は一旦帰宅して洋服を着替えた。
首からデコルテラインがしっかり隠れるようにまだ、残暑厳しい中と言うのに、すっぽりとタートルネックで隠し、更にスカーフを結んで蓋をしている。 

鷹羽一王と約束していたが、これでは仕方ない。
夏バテにやられてしまったと、見え透いた嘘をついて断りを入れる。
この間の件の後で、すぐ約束をキャンセルしてしまうのは気がかりだったが、首元の紅い痕を見られた方が問題なことは間違いない。
今更一度断ったくらいで、華屋がどうこうなどないと願うしかなかった。
後は、銀座か新宿でばったり会う、というのが恐れてしまうパターンだが、今日は近畿からの出張帰りに会いたいとの話だったから、その話が本当でるならば大丈夫なはずである。

家に帰宅した際に、華屋グループ社長たる父に電話をして、店舗本部に連絡をしてもらう。
デートという名の名目で、一体どんな視察を行う気かは知らないが、その準備を整えるのは自分の仕事だろうと、言われてなくてもやる事はやるのだ。
一足先に銀座華屋に到着すると、社員通用口でIDパスを二つ受け取る。
これがなければ、華屋の事務所には入れない。
その後、到着したとの連絡を受け、瑞華は客用入口まで九条風人を迎えにいった。

折しも猛暑日。
室内にいたはずなのに、慌ただしく下準備をしていた瑞華はじわりと汗が浮かんでいて、見苦しくないようにハンカチで汗を抑えた。
それがちょうど風人の姿が見えた所で、瑞華の様子に、くすりと笑った王子はどこまでも甘い視線で毒を放つ。 

「暑いんじゃない?堂々と見せちゃえばいいのに」 
――この悪魔っ。
この暑苦しい惨事へと追いやった張本人に悪びれた様子はなかった。 
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