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1章 空想の世界
第20話 動き出す日常
しおりを挟むヨネシゲが目を覚ますと、カーテンの隙間からは光が漏れ出していた。外からは小鳥のさえずりと、子供たちが遊ぶ声が聞こえてくる。
しばらくの間、ぼんやりと天井を眺めていたヨネシゲだったが、突然何かを思い出したかのように飛び起きる。
「ソフィア、どこだ? ソフィア!」
隣で一緒に寝ていたはずのソフィアの姿が見当たらない。
ヨネシゲは現実世界に戻されっしまったのかと思ったが、部屋の景色を見渡して、自分がまだ空想世界に居ることに気が付く。そしてソフィアが寝ていた場所には、彼女の温もりが残っていた。ヨネシゲはほっと胸を撫で下ろす。
「良かった……まだ俺は空想世界に居るようだ」
現実世界に戻れば、ソフィアとルイスはもう居ない。再び訪れた幸せを失いたくなかった。ヨネシゲは知らぬ間に、空想世界での生活を望んでいた。
しかし、ソフィアとルイスの姿を確認するまでは安心できない。
「よし、2人を探しに行こう!」
ヨネシゲは部屋を飛び出す。ヨネシゲが最初に向かった先はリビングだった。
ヨネシゲはリビングの扉を開けると、朝食をとるルイスの姿が目に入った。それを見たヨネシゲは安堵の表情をみせる。ルイスもヨネシゲの存在に気が付くと笑顔を浮かべる。
「父さん、おはよう!」
「おはよう! ソ、ソフィアは?」
「キッチンに居るよ」
ヨネシゲは急いでキッチンを覗き込むと、物陰に隠れたソフィアの姿を発見する。
「ソフィア、おはよう!」
「あら、あなた。おはよう!」
ソフィアはヨネシゲと挨拶を交わすと、側を離れたことを詫びる。
「ごめんね、本当はあなたが起きるまで側に居てあげたかったんだけど、朝食の準備をしないといけなくて」
「謝らくてもいいよ。寧ろお礼が言いたい。ソフィアが一晩隣に居てくれたお陰で、安心して寝ることができたよ。ありがとな。色々心配かけたけど、もう大丈夫だ!」
ヨネシゲはこの空想世界から現実世界に戻されてしまうことを恐れていた。ヨネシゲがソフィアに胸の内を打ち明けると、彼女は一晩中ヨネシゲに寄り添ってくれた。
お陰でヨネシゲの不安も軽減され、熟睡することもできた。そして目覚めても尚、ソフィアとルイスはヨネシゲの目の前に存在している。
ヨネシゲは確信する。
(やはりこれは夢なんかじゃない。ここはやっぱりソフィアの思い描いた空想世界なんだ! そしてこれは、俺の目の前で起こっている現実なんだ!)
寝ても覚めても、ソフィアとルイスが消えて居なくなることはなかった。決して夢なんかではない。これからヨネシゲの新たな日常が始まろうとしていた。
その後、ヨネシゲは朝食を済ませると、ソフィアと共に学校へ向かうルイスを見送る。
「ルイス、それじゃ部活頑張ってね!」
「ああ、行ってくるよ」
特に問題ない2人のやり取りに見えたが、ヨネシゲが不思議そうに首を傾げる。
「ルイス。部活って、今日は授業はないのか?」
「え? ああ、今日は休日だからね」
「休日? そうか、今日は休日か」
今日は世間全体が休日となっており、学校も授業がないのだ。それにしてもルイスは何の部活に入っているのか? ちなみに現実世界ではサッカー部に所属していた。
(ルイスはサッカー部のエースだったから、きっとここでもそうだろう!)
ヨネシゲは期待に胸膨らませながらルイスに尋ねる。
「ルイスはサッカー部だよな? やっぱりエースだよな!?」
突然のヨネシゲの質問にルイスは目を丸くさせる。
「え? サッカーって何? 父さん、俺は空想術部だよ!」
ルイスの空想術部という言葉にヨネシゲは目を輝かせる。
「空想術部!? そんな部活が……!」
するとルイスはヨネシゲの言葉遮る。
「父さん、もう出発しないと遅刻しちゃうから、帰ったら色々と教えてあげるよ!」
そう言うとルイスは慌ただしく家を後にした。
ヨネシゲは興奮した様子でソフィアに問い掛ける。
「ルイスも空想術を使えるのか!?」
するとソフィアから意外な答えが返ってくる。
「もちろんよ。空想術は学校の授業でも習うから、基本的に誰でも使える筈だよ。まあ、個人差はあるけどね」
「じゃあ、ソフィアも空想術を使えるのか!?」
「ええ、一応ね。そういうあなたも多彩な空想術を操っていたのよ。覚えてない?」
「俺が、空想術を!?」
ヨネシゲの興奮はピークに達していた。ソフィアはヨネシゲが多彩な空想術を操っていたと話す。となればヨネシゲも魔法のような非現実的な技を使えるということになる。
更にヨネシゲがソフィアから空想術について聞き出そうとすると、ソフィアが話題を切り替える。
「私、あまり空想術のこと詳しくないから、ルイスから聞いてちょうだい」
「そうなのか?」
「それよりも、あなた。今日は親方さんの所へ退院の挨拶に行かないとね!」
「お、親方!?」
突然の親方と言う言葉にヨネシゲは目をぱちくりさせる。
つづく……
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