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2章 栄光の学び舎
第69話 惨事再び
しおりを挟む学院内各所を制圧し、人質の解放に成功したドランカドたちが、空想術屋外練習場のグラウンドに姿を現した。
そしてこの会場は、カーティスやリキヤ率いる軍隊が完全包囲している。グレースたち改革戦士団に逃げ場はない。
改革戦士団がカルム学院を占拠してから、1時間程しか経過していない。一体、この短時間で何があったのか?
チェイスがドランカドに尋ねる。
「お前らが外に居る同胞たちを制圧したというのか?」
ドランカドは自慢げな表情で返事を返す。
「ガッハッハッハッ! そうだぜ、参ったか!? これも、守衛さんたちや街の皆さんのお陰さ!」
「何故だ? 作戦に抜け目は無かったはず……」
腑に落ちない様子のチェイスに、ドランカドが欠点を指摘する。
「確かに、一瞬でこの広い学院を占拠してしまうんだから、あんた達の作戦は完璧に近いだろう。だが、欠点もある」
「欠点だと?」
「そうさ。下っ端戦闘員にとって、あんた達の命令は絶対だ。戦闘長の命令と聞けば、皆素直に応じる。戦闘員に扮した俺たちは、その服従心を利用させてもらった」
「小賢しい真似を……」
ドランカドとチェイスがそんなやり取りをしている中、ヨネシゲは諭すようにグレースに語り掛けていた。
「グレースさん。もう君たちに逃げ場はない。これ以上ここで暴れても無意味だ。大人しく投降してくれ」
グレースはヨネシゲの言葉を聞きながら、険しい表情を見せる。
ここで突然、カミソリ頭領が怒号を上げる。
「おい、オヤジ! 何勝ったつもりでいるんだよ!? 俺の報復はまだ終わっちゃいねえ! それに観客たちが、まだ俺たちの手中にあることを忘れるなよ?」
「くっ……」
ヨネシゲは悔しそうな表情でスタンド席を見渡す。
この会場にはまだ多くの観客が人質として取り残されている。その中には、ヨネシゲの愛妻ソフィアや甥のトム、アトウッド兄弟の姿があった。
「あなた……それにお義姉さん、リタちゃん……無理だけはしないでね……」
スタンド席のソフィアは両手を組みながら、ヨネシゲたちの無事を祈っていた。
その横で、トムとメリッサがヨネシゲたちに声援を送る。
「お母さん! お姉ちゃん! おじちゃんも頑張れ!」
「みんな頑張ってね~!」
2人の声援はグラウンドのヨネシゲたちの耳に届いていた。しかし、声援を貰った筈のヨネシゲとメアリーたちの顔が青ざめる。
(2人共! 静かにしているんだ! 標的にされちまうぞ!)
案の定、カミソリ頭領がスタンド席のトムたちに視線を向けると、怪しげな笑みを浮かべる。
「イヒヒッ! 子供っていうのは、後先の事を考えず、無邪気で可愛いよな……」
頭領はそう言うと、トムたちが声援を送るスタンド席に向かって水晶玉を振りかざす。その途端、チンピラたちの体も水晶玉が向けられた方角へと向きを変える
チンピラたちは泣き叫びながら必死に抵抗するも、体は言うことを聞かず、その口を大きく開く。
ヨネシゲは頭領を制止する。
「やめろっ! 子供たちに何をするつもりだ!? 子供たちに罪はねえ! それにこれ以上、あの若者たちを苦しめるな!」
ヨネシゲの言葉を聞いた頭領が皮肉を口にする。
「戦場では全て思い通りにはいかない……誰かさんの姉貴がそう言ってたぜ」
「畜生っ! こうなったら……!」
「!!」
ヨネシゲが頭領目掛けて突進していく。その様子を目にした頭領の顔が引き攣る。
(この男を止めなくては、ソフィアやトムたちが……!)
ヨネシゲは頭領の顔面に向かって右拳を振り上げる。
「やめろっ!!」
「遅かったな、オヤジ……」
頭領は、ヨネシゲの叫びを嘲笑うようにして、歯をむき出しながら満面の笑みを見せた。
「!!」
次の瞬間、会場全体が白い閃光に包まれる。
チンピラたちの口から放たれた強烈な光線は、ソフィアやトムが居るスタンド席へと真っ直ぐ伸びていく。
「ソフィアっ!!」
ヨネシゲが愛妻の名を叫んだその時だった。
真っ直ぐと伸びていた光線は、突然何かに行く手を阻まれるようにして分散すると、力を失ったように消滅する。
その様子を見ていたチェイスが眉間にシワを寄せる。
「バリア? いや、それは先程破壊したはず……まさか!?」
チェイスは何かを勘付いたように、向かい側のスタンド席に視線を向ける。
そこには優雅に扇子を扇ぐ、マロウータンの姿があった。
チェイスが怒りを滲ませながら、マロウータンに問う。
「このバリア、貴様の仕業だな?」
マロウータンは澄ました表情で返答する。
「ご名答。そのバリアは儂が張ったものじゃ。破られてしまうかと、ハラハラしたぞ」
「クソっ……腹立つ顔だぜ……!」
睨み合うマロウータンとチェイス。
「よそ見してんじゃねえ!」
「!!」
呆気にとられていたカミソリ頭領の顔面をヨネシゲがぶん殴る。
その衝撃で頭領は持っていた水晶玉を落としてしまった。水晶玉は地についたと同時に、粉々に砕け散ってしまった。
「ああっ!! 水晶玉がっ!?」
頭領は情けない声で言葉を漏らすと、ヨネシゲを睨みつける。
「貴様、よくも水晶玉をっ!」
「フン! 落としたのはお前だろうがっ!」
「クソっ! コイツがねえと、奴らを操れねえ……」
「やはり、その怪しげな水晶玉で彼らを操っていたんだな」
薄々気付いていたが、頭領は何らかの仕掛けが施されているであろう水晶玉を使用して、チンピラたちの体を制御していたのだ。
ヨネシゲがチンピラたちに視線を向けると、彼らは歓喜の声を上げていた。
「やったよ、やったよ! 体が言うことを聞く!」
「ああ、良かったよ! これで俺たちはもう……」
チンピラの一人が言葉を続けようとしたその時、彼の体に異変が起こる。突然、口から大量の血を吐き出すと、地面を転がるようにして藻掻き苦しむ。
もう一人のチンピラが心配そうな表情で事情を尋ねる。
「お、おい! どうしたって言うんだよ!?」
「熱い、熱い! 熱いよっ!! 体の中が焼けてる!!」
「や、焼けてるってどういう事だよっ!?」
ヨネシゲの脳裏には、あの惨事が蘇る。それは、内部具現化に体が耐えきれず爆発し、絶命した、キラーの変わり果てた姿だ。
ヨネシゲは介抱しようとするチンピラの首根っこを掴むと、転げ回るチンピラから急いで距離を取る。
そして、ヨネシゲが叫ぶ。
「みんな! 伏せるんだ! 爆発するぞっ!」
次の瞬間、転げ回るチンピラの体が突然発光したと思うと、彼の体は大きな音と共に爆発してしまった。
その様子を見ていたグレースが言葉を漏らす。
「引き際ね……」
つづく……
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