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4章 南都の戦い
第128話 潰える野望
しおりを挟むカルムタウンが戦火に飲まれた頃、南都北側ウラナス関所では、局面を迎えていた。
南都を防衛していた将兵たちは、改革戦士団に尽くと討ち取られてしまった。そして今も尚、決死の抵抗を見せるのは、南都守護役リッカルドと南都軍大将のオスカーだ。
リッカルドとオスカーは渾身の空想術を繰り出すも、改革戦士団最高幹部のダミアンと四天王の前では無力のようだ。
息を切らし膝を落とすリッカルドたちをダミアンが嘲笑う。
「ハッハッハッ! どうした? もうお終いか? このままじゃ俺たちに南都を奪われちまうぞ!? 所詮、南都守護役も名ばかりの役職だったってことだな。この分だと王都守護役も大したことなさそうだぜ」
ダミアンの言葉にリッカルドが鬼の形相を見せる。
「黙れクソガキ! 貴様らごときでは王都は愚か、この南都も落とすことは叶わんぞ!」
「あぁ?」
「まだ、私の命の灯火は消えていない……この灯火が私の中に宿り続ける限り、貴様らの好き勝手にはさせん! 南都守護役の名に掛けてっ!!」
リッカルドは力強い声を上げながら立ち上がる。その声を聞いていたオスカーも、力を振り絞りながら体を起こすと、リッカルドの隣に並んだ。
「おい、オスカー。無理はするなよ」
「その言葉、そのままお返ししますよ」
「フフッ。そう言うと思ったぞ。ならば、南都戦士の意地、奴らに見せつけてやらねばな!」
「ええ! リッカルド様、どこまでもお供致します!」
リッカルドとオスカーは、互いに顔を見合わせ笑みを浮かべる。
「よしっ! 行くぞっ!」
「ははっ!」
そして、2人は雄叫びを上げながらダミアン目掛けて突っ走っていく。
「ちっ。どいつもこいつも臭い芝居ばかり見せやがって。反吐が出るぜ」
ダミアンは不機嫌そうな表情を浮かべると、迫りくるリッカルドたちに右手を向ける。
「そういう芝居は、あの世でやってくれよな」
「ダミアンっ!! その首、貰ったっ!!」
飛び掛かるリッカルドとオスカー。ダミアンは2人を見つめながら不敵な笑みを浮かべる。
「消えろ……!」
次の瞬間、ダミアンの右手から強烈な光線が放たれた。光線はリッカルドとオスカーに直撃、周囲に閃光が走る。彼らの肉体は見る見るうちに消滅していく。
リッカルドとオスカーが叫ぶ。
「南都と我が魂は不滅なりっ!!」
「南都に……幸あれ……!」
2人の肉体は、絶叫と共に完全に消失。と同時に、南都に張られた最後の防衛戦も完全に消滅した。
ダミアンは右手を下ろすと、声を裏返しながら高笑いを上げる。
「フッハッハッハッ! 何が『魂は不滅なり』『南都に幸あれ』だぁ? 笑わせるな。最後まで寒い連中だったぜ」
呆れた表情を見せるダミアンにジュエルが歩み寄る。
「ダミアン、お疲れ様」
「ああ。本当に疲れたぜ」
「大変だったね。だけどこれで、やっとゆっくりできるよ。ほら見て。南都はもう、私たちのもの………」
ダミアンとジュエルの視界に広がる南都の街明かり。ついに、第二の王都と呼ばれる南都が、改革戦士団とエドガーの手中に収まることとなる。
「ウヘヘッ。ついに、南都が我が手に……! 俺の時代が……俺の時代がやって来る!」
エドガーは興奮した様子で言葉を漏らす。
四天王のソード、サラ、チャールズ、アンディの4人も満足げな表情で南都の街を見つめていた。
「ふわぁ~。さて今日の仕事は終わりだ。今夜は久々にベッドの上でゆっくり寝れそうだぜ」
ダミアンは一仕事終えたと言った具合で欠伸をする。すると、一人の改革戦士団戦闘員が慌てた様子で彼の元に駆け寄ってきた。
「ダミアン様! 一大事ですっ!」
「なんだ?」
「はい。我らのすぐ背後に、リゲル軍の本隊が迫っております!」
「!!」
戦闘員の報告に四天王は険しい表情を見せる。一方のダミアンは薄ら笑いを浮かべる。
「フフッ。ついに来たか、虎のおっさん。思ったより早かったな」
四天王の一角、リーゼント頭のチャールズが相槌を打つ。
「そうだな。こんなに早いとは、最短ルートで兵を進めてきたんだろう」
続いて、同じく四天王である、サングラスと金髪ロングヘアのアンディが推測を口にする。
「そうなると、アルプに送った刺客は撃破されたことになるね。彼らは選りすぐりの戦闘長たちだったけど、流石にタイガー率いる本隊を食い止めることはできなかったね」
アンディの言葉を聞いた戦闘員が、青ざめた表情で追加の報告を行う。
「それが、アンディ様。アルプ南西部から送り込んだ戦闘長たちは、リゲル軍の別働隊によって撃破された模様です。そして、リゲル軍本隊は、別ルートで進軍してきたとのことです……」
「何だって? その別ルートとはどこの事を言っているんだい?」
戦闘員は震えた声でアンディの質問に答える。
「はい。リゲル軍本隊は……グローリ領ヴィンチェロを経由……ヴィンチェロ城を落とし、そのまま南下してきました」
戦闘員の言葉に、グローリ地方領主エドガー・ブライアンの顔が青ざめる。
「じょ、冗談はよせ……我が居城と街が、この短時間で落とされたと言うのか? 城には我が家臣団が大勢残っているのだぞ!?」
「エドガー様……籠城していた家臣の皆様は、全員、討死を遂げられました。ご立派な最期だったそうです……」
エドガーが声を荒げる。
「ふざけるなっ! こんな事があってたまるかっ! そもそも、情報が遅すぎだぞっ!」
「も、申し訳ございません! リゲルの動きを探るため送り込んだ密偵は尽く討ち取られてしまった模様で、一切の情報が遮断されておりました。気付いたら、すぐ背後まで迫っていた次第で……」
四天王リーダー格、仮面男のソードが、銀色の髪を靡かせながら言葉を漏らす。
「タイガー、恐るべしだな……」
エドガーは戦闘員を怒鳴り散らす。
「もうよいっ! お前とは話にならんっ! 下がれっ!」
そして彼は、ダミアンに詰め寄る。
「おいっ! ダミアン! 一体どうなっている!? タイガーをヴィンチェロに近付けるなと言ったはずだぞ! お前が言っていた牽制も意味を成していないではないかっ! お前の言葉を信用していたんだぞ!? どう責任をとってくれる!!」
「いい加減目を覚ませよ、旦那。アンタは俺たちの象徴で居てくれればそれでいい。権力も家臣団も領土も必要ねえ。アンタは黙って俺たちに付いてくればそれでいい」
「俺を嵌めたな……」
「ハッハッハッ! 嵌めたつもりはねえぜ。端からそういう約束だろ? そもそも、俺たちの提案を涎を流しながら受け入れたのは、どこのどいつだ? アンタは何一つ不自由しない生活と「王」という称号が欲しかっただけだろ? それとも俺たちを利用して、簡単に権力を手にすることができると思ったか? 甘いぜ」
「ぐぬぅ……」
腹の中を読まれていた。エドガーは悔しそうにして唇を噛みしめる。そんな彼にダミアンが言葉を続ける。
「今のアンタに味方してくれるのは俺たちくらいだ。逆賊のレッテルを貼られたアンタの周りには、敵しか居ねえ。俺たちと手切れにしたければ止めはしないが、その先の末路は簡単に想像できるよな? もうアンタは俺たちと組むしか無いんだよ。いい加減、腹を括りな」
エドガーは膝を落とすと、地面に拳を叩きつける。
「畜生っ! 畜生っ! この大国の全てを! 我がものにする筈だったのにっ! こんな薄汚い……溝鼠の傀儡に成り下るとは……!」
「フッハッハッハッ! まあ仲良くしようぜ、旦那。悪いようにはしねえからさ」
そこへ、再び戦闘員が駆け寄ってきた。
「ダミアン様!」
「今度は何だ?」
「はい。たった今、南都五大臣アーロンから書状が届きました」
「書状だと?」
ダミアンは早速、アーロンからの書状に目を通す。やがて書状を読み終えたダミアンが眉間にシワを寄せる。そんな彼に四天王の紅一点、三角帽子のサラが尋ねる。
「どうやら、良くない事が書かれてそうね。何が書いてあったのかしら?」
ダミアンは書状を握りしめる。
「ああ。五大臣のクソジジイ共は、どうやら俺たちの言う事が聞けないらしい……」
「要するに?」
「色々と御託が並べられているが、南都大公をブルームに避難させたようだ……」
ダミアンは書状を破り捨てる。
「交渉決裂だ。約束が守れねえ野郎はこの手で始末してやる! だが、その前に……ジジイ共に絶望を与えてやろう。ついでに、虎のおっさんにもな。これ以上悪い気を起こさせない為に……」
「どうするつもり?」
首を傾げるサラに、ダミアンがあることを要求する。
「サラ。またあの水晶玉に、記録してほしい事があるんだ。そいつをクソジジイ共に送り付ける」
「何を記録するの?」
ダミアンは歯を剥き出し、ニヤッと笑う。
「南都の街が、焼け野原になるところをな!」
つづく……
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