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【第27話】
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ほとんど空気の抜けた風船のようになった高木であったが、
「それは、のっぴきならない事情だというんですね」
信夫が経文を唱えるのをやめると、「ポン!」ともとの姿にもどった。
「そ、そうだよ。のっぴきならないのさ。それにしても、なんだいまのは。あーやべえ。死ぬかと思ったぞ」
死んでいることをすっかり忘れてしまう高木であった。
「またまたそんな。とっくに死んでるくせに」
「こら、ヒデ。それは死者に対する冒瀆だぞ」
「あ、これはすみません。死んだ人には敬意を払わなければいけませんね。大変失礼しました。ナンマイダブ、ナンマイダブ」
信夫は手を合わせて拝む。
「だから、拝むのは、やめて……」
またも高木はしぼみ始めた。
「あ、これまたすみません」
合掌を解くと信夫は改まった顔になり、
「ところで高木さん。あなたが成仏できない、のっぴきならない事情というのはなんです?」
正座になって姿勢を正した。
「おう、そうだな」
ともあれ、高木は待ってましたとばかりに、自分が死んでからこれまでの顚末を話して聞かせた。
「――なるほど、そうだったんですか」
信夫は両手を膝の上に置き、瞼を閉じて2、3度うなずくと、
「ということはですよ。高木さんは娘さんに会いたいがために、ここまでやってきたということなんですね」
そう訊いた。
「ずばり、そのとおりだ」
「ということはですよ。高木さんは娘さんに会いたいがために、天使から逃げ出してきたということなんですね」
信夫はまたも訊き返す。
「まさしく、そのとおりだ」
「ということはですよ。高木さんは娘さんに会いたいがために、その浮浪魂(ふろうこん)というものになってまでもこの世に留まったということなんですね」
「まったく、そのとおりだ」
「ということはですよ――」
「あー、だからそのとおりだっつーの。なんども同じ言い回し方はやめろっての!」
「すみません。なにかに身が入ると、つい執拗に確認をしてしまう癖がありまして」
苦笑ぎみに言う信夫は、それも癖なのであろう、天然の無造作ヘアをしきりになでつけた。
「それより、その浮浪魂とはいったいなんですか」
「なんだ、教養があるように見えてそんなことも知らねえのかよ。浮浪魂てのはな、ほらあれだ、浮遊霊や地縛霊のことさ」
自分も知ったばかりだというのに、高木は高飛車に言った。
「なるほど、浮浪者のごとく彷徨う魂で浮浪魂ですか。うまいこといいますね」
信夫は腕組みをして納得した。
「なにもうまくねえよ。それに、浮浪者のごとくってのはなんだ。ホームレスの人間に失礼じゃねえか。ってか、俺はホームレスじゃねえっての」
「とはいっても、もう帰る家はないということなんですから、やっぱり浮浪者と似たようなものじゃないですか」
「おい、いいかげん怒るぞ」
「あ、はい。わかりました。もう言いません。それで、娘さんには会えたんですか?」
「それがな……」
声のトーンが落ちたことで、高木がダークに沈んだことが信夫にもわかった。
「会えなかったんですね」
それに返事はなかったが、高木がこくりとうなずいたように信夫は思えた。
そして促すわけでもなく、高木が自然に話し始めるのを待った。
高木はそんな信夫の姿を見て、その日1日のことを語り始めた。
「それは、のっぴきならない事情だというんですね」
信夫が経文を唱えるのをやめると、「ポン!」ともとの姿にもどった。
「そ、そうだよ。のっぴきならないのさ。それにしても、なんだいまのは。あーやべえ。死ぬかと思ったぞ」
死んでいることをすっかり忘れてしまう高木であった。
「またまたそんな。とっくに死んでるくせに」
「こら、ヒデ。それは死者に対する冒瀆だぞ」
「あ、これはすみません。死んだ人には敬意を払わなければいけませんね。大変失礼しました。ナンマイダブ、ナンマイダブ」
信夫は手を合わせて拝む。
「だから、拝むのは、やめて……」
またも高木はしぼみ始めた。
「あ、これまたすみません」
合掌を解くと信夫は改まった顔になり、
「ところで高木さん。あなたが成仏できない、のっぴきならない事情というのはなんです?」
正座になって姿勢を正した。
「おう、そうだな」
ともあれ、高木は待ってましたとばかりに、自分が死んでからこれまでの顚末を話して聞かせた。
「――なるほど、そうだったんですか」
信夫は両手を膝の上に置き、瞼を閉じて2、3度うなずくと、
「ということはですよ。高木さんは娘さんに会いたいがために、ここまでやってきたということなんですね」
そう訊いた。
「ずばり、そのとおりだ」
「ということはですよ。高木さんは娘さんに会いたいがために、天使から逃げ出してきたということなんですね」
信夫はまたも訊き返す。
「まさしく、そのとおりだ」
「ということはですよ。高木さんは娘さんに会いたいがために、その浮浪魂(ふろうこん)というものになってまでもこの世に留まったということなんですね」
「まったく、そのとおりだ」
「ということはですよ――」
「あー、だからそのとおりだっつーの。なんども同じ言い回し方はやめろっての!」
「すみません。なにかに身が入ると、つい執拗に確認をしてしまう癖がありまして」
苦笑ぎみに言う信夫は、それも癖なのであろう、天然の無造作ヘアをしきりになでつけた。
「それより、その浮浪魂とはいったいなんですか」
「なんだ、教養があるように見えてそんなことも知らねえのかよ。浮浪魂てのはな、ほらあれだ、浮遊霊や地縛霊のことさ」
自分も知ったばかりだというのに、高木は高飛車に言った。
「なるほど、浮浪者のごとく彷徨う魂で浮浪魂ですか。うまいこといいますね」
信夫は腕組みをして納得した。
「なにもうまくねえよ。それに、浮浪者のごとくってのはなんだ。ホームレスの人間に失礼じゃねえか。ってか、俺はホームレスじゃねえっての」
「とはいっても、もう帰る家はないということなんですから、やっぱり浮浪者と似たようなものじゃないですか」
「おい、いいかげん怒るぞ」
「あ、はい。わかりました。もう言いません。それで、娘さんには会えたんですか?」
「それがな……」
声のトーンが落ちたことで、高木がダークに沈んだことが信夫にもわかった。
「会えなかったんですね」
それに返事はなかったが、高木がこくりとうなずいたように信夫は思えた。
そして促すわけでもなく、高木が自然に話し始めるのを待った。
高木はそんな信夫の姿を見て、その日1日のことを語り始めた。
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