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【第30話】
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「高木さんの娘さんは、ゆかりって名前じゃないですか?」
信夫はいきなり確信をつくように訊いた。
「あー、確かにそうだ! 俺の娘はゆかりだよ! 正解。すごいなおまえ。よくわかったじゃないか! 賞品はペアでハワイ5日間の旅!!!」
高木は感極まった。
「やっぱり、そうでしたか」
「ん? だが、待てよ」
高木はそこでふいに、眉根を寄せた。
「ノブ、おまえどうして俺の娘の名前を知ってるんだ? っていうか、ゆかりのことを知ってるんだな! どうしておまえが知ってるんだよ。まさかてめえ、このやろう!」
高木は実体のない身体で信夫に組みつき、首を絞めた。
「あががッ!」
「俺の娘はまだ8歳だぞ、この変態やろう! てめえ、それでも教師か! ブチ殺す! いや、シメ殺す!」
「ぢょ、ぐる、じい……。やめで、ぐだ……、ばい……」
信夫は必死にもがき、高木の腕をふり解こうとするが、その腕が掴めない。
「うぶ、ぼんどに、じぬ、じぬ……」
「娘のためだ。死ね!」
と、そのとき、ふいに高木の手が、信夫の首をすり抜けた。
「がはッ!」
信夫は顔を真っ赤にして咳きこむ。
「な、なにをするんですか、いきなり。ほんとに死ぬところだったじゃないですか」
「いや、死ね。世の中のためにも、おまえこそ、成仏しろ!」
高木はもう一度信夫の首をしめようとし、だがやはり、その手はすり抜けてしまった。
「おかしいな。どういうことだ。首を絞められない」
なんど試みても、やはり無駄であった。
「ちょっと待った。落ち着いてくださいよ、高木さん」
「これが落ち着いていられるか。娘の危機だってのに」
「だから、違うんです。高木さんは、なにか誤解してますよ」
信夫もさらなる危機を感じ、両手を広げて防御の体制をとった。
「ごかいだと? 5階も6階もあるか。だったらおまえ、どうしてゆかりのことを知ってるんだ」
「僕は教師ですよ」
「それがどうした」
「あーもう鈍いな。人のことを鈍感って言いながら、自分だって鈍感じゃないですか」
「なに!」
「いや、高木さん。怒らずに聞いてください。いいですか。高木さんの娘であるゆかりさんは、僕のクラスの生徒なんですよ」
「なに? なにが生徒だ、このやろう。てめえ、冥土に送ってやるから覚悟しやがれ――って、あ? おまえ、いまなんて言った?」
「だから、ゆかりさんは、僕のクラスの生徒だって」
「それって……」
ようやく高木は、誤解であることに気づいた。
「そうですよ。あなたの娘さんは、僕の生徒なんです」
「なんだ、そうかよ。それならそれで、早く言えよ」
「言おうとしたら、高木さんがいきなり首を絞めてきたんじゃないですか。あー、苦しかった」
信夫はホッとして息を吐き、首をさすった。
その首筋には、手のあとが赤くくっきりと残っていた。
「いや、すまん。おまえが変態やろうだと思ったもんだからよ」
「失礼ですね。僕はいたって健全なノーマルですよ。だいたいが、ちょっと考えてみればわかるものじゃないですか。僕は教師だって話をしたばかりなんですから」
「教師だからこそ、危ねえんだろうが。教師には変態が多いからよ」
「それは偏見ですよ。確かに、そういう教師も中にはいるかもしれませんけど、僕は神に誓って健全です」
「いや、ほんとにすまない。娘のこととなると、ついカッとなっちまって。お詫びにハグさせてくれ」
信夫を抱きしめようとしたが、高木の腕は宙を切るようにすり抜けてしまった。
「あれ? なんでだ? ハグできねえぞ」
自分の手を見つめる。
「当然じゃないですか。高木さんは肉体がないんですから」
「じゃ、どうしておまえの首を絞めることができたんだよ」
そう訊かれ、信夫は言葉につまった。
「それは、どうなんでしょうか……」
「おまえ、それでも教師か?」
「高木さん。教師ならなんでもわかってると思ってないですか?」
呆れたというように、信夫はため息をついた。
「違うのか?」
「違います」
信夫はきっぱりと否定した。
信夫はいきなり確信をつくように訊いた。
「あー、確かにそうだ! 俺の娘はゆかりだよ! 正解。すごいなおまえ。よくわかったじゃないか! 賞品はペアでハワイ5日間の旅!!!」
高木は感極まった。
「やっぱり、そうでしたか」
「ん? だが、待てよ」
高木はそこでふいに、眉根を寄せた。
「ノブ、おまえどうして俺の娘の名前を知ってるんだ? っていうか、ゆかりのことを知ってるんだな! どうしておまえが知ってるんだよ。まさかてめえ、このやろう!」
高木は実体のない身体で信夫に組みつき、首を絞めた。
「あががッ!」
「俺の娘はまだ8歳だぞ、この変態やろう! てめえ、それでも教師か! ブチ殺す! いや、シメ殺す!」
「ぢょ、ぐる、じい……。やめで、ぐだ……、ばい……」
信夫は必死にもがき、高木の腕をふり解こうとするが、その腕が掴めない。
「うぶ、ぼんどに、じぬ、じぬ……」
「娘のためだ。死ね!」
と、そのとき、ふいに高木の手が、信夫の首をすり抜けた。
「がはッ!」
信夫は顔を真っ赤にして咳きこむ。
「な、なにをするんですか、いきなり。ほんとに死ぬところだったじゃないですか」
「いや、死ね。世の中のためにも、おまえこそ、成仏しろ!」
高木はもう一度信夫の首をしめようとし、だがやはり、その手はすり抜けてしまった。
「おかしいな。どういうことだ。首を絞められない」
なんど試みても、やはり無駄であった。
「ちょっと待った。落ち着いてくださいよ、高木さん」
「これが落ち着いていられるか。娘の危機だってのに」
「だから、違うんです。高木さんは、なにか誤解してますよ」
信夫もさらなる危機を感じ、両手を広げて防御の体制をとった。
「ごかいだと? 5階も6階もあるか。だったらおまえ、どうしてゆかりのことを知ってるんだ」
「僕は教師ですよ」
「それがどうした」
「あーもう鈍いな。人のことを鈍感って言いながら、自分だって鈍感じゃないですか」
「なに!」
「いや、高木さん。怒らずに聞いてください。いいですか。高木さんの娘であるゆかりさんは、僕のクラスの生徒なんですよ」
「なに? なにが生徒だ、このやろう。てめえ、冥土に送ってやるから覚悟しやがれ――って、あ? おまえ、いまなんて言った?」
「だから、ゆかりさんは、僕のクラスの生徒だって」
「それって……」
ようやく高木は、誤解であることに気づいた。
「そうですよ。あなたの娘さんは、僕の生徒なんです」
「なんだ、そうかよ。それならそれで、早く言えよ」
「言おうとしたら、高木さんがいきなり首を絞めてきたんじゃないですか。あー、苦しかった」
信夫はホッとして息を吐き、首をさすった。
その首筋には、手のあとが赤くくっきりと残っていた。
「いや、すまん。おまえが変態やろうだと思ったもんだからよ」
「失礼ですね。僕はいたって健全なノーマルですよ。だいたいが、ちょっと考えてみればわかるものじゃないですか。僕は教師だって話をしたばかりなんですから」
「教師だからこそ、危ねえんだろうが。教師には変態が多いからよ」
「それは偏見ですよ。確かに、そういう教師も中にはいるかもしれませんけど、僕は神に誓って健全です」
「いや、ほんとにすまない。娘のこととなると、ついカッとなっちまって。お詫びにハグさせてくれ」
信夫を抱きしめようとしたが、高木の腕は宙を切るようにすり抜けてしまった。
「あれ? なんでだ? ハグできねえぞ」
自分の手を見つめる。
「当然じゃないですか。高木さんは肉体がないんですから」
「じゃ、どうしておまえの首を絞めることができたんだよ」
そう訊かれ、信夫は言葉につまった。
「それは、どうなんでしょうか……」
「おまえ、それでも教師か?」
「高木さん。教師ならなんでもわかってると思ってないですか?」
呆れたというように、信夫はため息をついた。
「違うのか?」
「違います」
信夫はきっぱりと否定した。
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