幽霊になっても、俺は娘に逢いにゆく

星 陽月

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【第31話】

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「なんだよ。教師もたいしたことねえんだな」

 がっかりだよ、と高木は言った。

「教師は万能じゃありません。そういうことは、霊能者にでも訊いてくださいよ」

 信夫は腹を立てたのか、むくれた顔をした。

「霊能者ね。俺はそういう類(たぐい)の人間は信用しねえんだ。って言うかよ。おまえには俺の声が聴こえるんだから、そういう能力があるってことじゃないのか?」
「僕にそんな能力はありませんよ。現に高木さんに会うまでは霊の存在を感じたこともないし、金縛りにだってなったことはありません。もともと霊感てものがないんです。どちらかというと僕は――」
「デカイうえに鈍感」

 高木が勝手に信夫の言葉をつづけた。
 すぐさま秀夫は、高木の声のする宙を睨む。

「あ、いや、もう、決して言わない」

 とたんに高木はちぢかまった。

「それにしても不思議ですよね。肉体がないのに首を絞めることができるなんて。それに、バイクにもぶつかったし」
「そうだよな。まさか、死んでまでバイクに撥ねられるとは思わなかったぞ」
「僕だって、まさか幽霊を撥(は)ねるとは思ってもみませんでしたよ。でも、ほんとに怪我はなかったんですか?」
「だから、死んだ人間が怪我なんかするかっての」
「だけど、痛みを感じたんですよね」
「っていうか、あのときは思わず痛てえなんて言っちまったが、いま思うと衝撃は確かにあったんだが、痛みはというと、あったようななかったようなでよくわからん」
「なるほど……」

 そこで信夫はわずかに考えこんでから、

「たぶんそれって、そう感じただけなんじゃないですかね」

 そう言った。

「それはきっと記憶なんです。なにかにぶつかれば痛いという、感覚の記憶。高木さんのその状態をたとえるなら、夢の中のようなものじゃないですか? ほら、夢の中では肉体がないわけでしょ? けれど感覚の記憶はある。夢を観ているときって、頬をつねっても叩いても痛くないっていいますけど、そんなことはないんですよ。僕はよく、数人の男にからまれて殴られる夢を観ますけど、すごく痛いですからね。それは、感覚の記憶がそう感じさせるってことだと思うんです、きっと」

 黙って話を聞いていた高木はジッと見つめ、

「ノブ、おまえって、強く生きてきたんだな」

 まったく関係のないことを、感じ入るように言った。

「なんですか、藪から棒に」
「おまえ、からまれたこと、ずいぶんあるんだろ?」
「べ、べつに、そんなことは、ないですよ」

 虚をつかれて、信夫は動揺を覚えながらも否定した。

「図星か。だけど、おまえは偉い。どんなに辛い思いをしても、めげずに生きてきたんだからな。自ら痛みを知ってこそ、人の痛みを知る。おまえは教師の鑑だよ」

 その言葉には同情がふくんでいた。

「そんな、勝手に決めつけないでください。僕はほんとに……」
「まァ、いいって。辛いことを口にしたくないのはわかる。俺だって小さいころは、よくイジメられたもんだ」
「え? そうなんですか。そうは見えませんね。って、いや、声の感じでそう思うってことですけど」
「俺はおまえとは逆で、子供のころから身体が小さくてな。つけられたあだ名が、『チョロ』だった。それはまァ、俺がコマネズミのように、ちょこまかしてたところからきてるんだが、父親にまでそう呼ばれたときには、さすがに死にたくなったよ。それでな、うちの近所に安田兄弟っていうのがいたんだ。兄貴は大ヤス、弟は小ヤスって呼ばれていたんだが、こいつらがもう手のつけられない悪ガキでよ。俺はさんざんイジメられたもんさ。パシリはやらされるは小遣いはむしり取られるはで、まァ、とにかく――」
「あの……」

 途中で信夫が、話の腰を折った。

「その話、長くなりますかね」

 高木の過去の話しなど、信夫にははっきり言って興味はなかった。
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