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【第32話】
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「なんだよ、ここからがいいところなんだぞ。俺の武勇伝を包み隠さず、背びれ尾ひれをつけて聞かせてやろうとしてるのによ」
その話を、高木は聞かせたくてうずうずしていた。
「背びれ尾ひれをつけてどうするんですか。というか、イジメられてた話なのに、どうして武勇伝なんです?」
信夫が言うのももっともだった。
「だからな、俺が悪ガキのふたりをどうやってコテンパテンにしたかって話しに、これからなっていくんじゃねえかよ」
「コテンパテン?……。とにかく、長くなるのは確かですね」
「なんだよ、聞きたくないのか? 聞きたいだろ?」
「いえ、まったく」
「あー、そうかよ。あとで聞きたくなっても、ぜったい話してやらねえからな」
「はい、そうしてください」
「フン、いけずなやつだ。ま、それはいいとしてだ。それにしてもよ。まさかおまえが、ゆかりの担任だったとはな」
高木は感慨深げである。
「そうですよね。僕も驚きです。あ、でも、僕のクラスの高木ゆかりが、高木さんの娘さんかどうかはまだわかりませよ。同姓同名ってこともあるわけですから」
「いいや、おまえのクラスの高木ゆかりは、俺の娘だよ」
「そんな断定しちゃっていいんですか? もし違ったら、がっかりしますよ」
「俺にはわかるんだよ。そうだ、ってな」
「幽霊なだけに、まさに霊的に感じるってやつですか」
「このやろう、茶化すんじゃねえ。だったら訊くが、その子は両親と暮らしてるのか?」
「いえ、保護者は祖父母にあたる方です」
「その祖父母の姓は、なんだ」
「えっと、確か『野中』だと思います」
「ビンゴ! やっぱりな。野中は義父母の姓だ。住所は忘れちまったけどよ、姓までは忘れたりしねえさ」
「なるほど……。じゃあ、僕のクラスの高木ゆかりは、ほんとに高木さんの娘さんというわけですか」
「そういうことだ」
「そんなことってあるんですね」
今度は信夫が感慨深げに腕組みをした。
「世の中には、そういうことが間々あるもんだ」
「うん……。だけど、なんかできすぎって気もするんですよね」
とたんに信夫は訝(いぶか)る。
「できすぎって、なにがだよ」
「僕にはなんだか、あまりにも容易に事が運びすぎてると思えるんですよ。だって、そうでしょ? 高木さんは娘のゆかりさんに会いたくて、そこへ偶然に出会った僕が、そのゆかりさんの担任だったなんて、流れ的にもできすぎじゃないですか」
確かに信夫が言うことはもっともである。
「そういうもんなのさ」
だが、高木はにべもない。
「そうですかね」
「そうだって」
根拠もへったくれもなくそう言い切られてしまうと、信夫はそれ以上何も言えなくなった。
だがどうにも腑に落ちない。
何事も納得がいかないと気がすまないのが信夫の性格である。
それだけに、あーでもないこーでもないと考えをめぐらしてみる。
が、説明のつく答えは見つかりそうもなかった。
「で、どうなんだ」
唐突に高木が訊く。
「どうって、なにがです?」
「俺の娘は、いい生徒なのかってことだよ」
「あ、ええ。それはとてもいい生徒です。明朗活発で聡明だし、他の生徒にもたいへん好かれてます」
「おー、そうかそうか。うんうん」
高木はことのほかご満悦だった。
と、
「あ、そういえば……」
信夫が何かを思い出した。
「なに? 総入れ歯? おまえ、入れ歯なのか」
「違いますよ。そうじゃなくて、ゆかりさんが今日は欠席だったことを思い出したんです」
「欠席? なんだ、ゆかりは病気か?」
高木は思いきり心配になった。
「いえ、病気じゃなくて、なにやらどうしても連れていかなければならないところがあるとかで、おばあさん――あ、いや、野中さんから連絡がありました。詳細はなにも言っていませんでしたけど」
そう聞いて、高木はすぐに思いあたった。
「そうか……」
「行き先に心あたりでも?」
「俺に会いに行ったのさ」
「俺にって、高木さんはここに――あ、そうか」
信夫もすぐに思いあたった。
「病院ですね」
「あァ。俺は事故で死んだから、警察から連絡があったんだろうよ」
「これはどうも、お悔やみ申し上げます」
天然といえる信夫は、しんみりと言った。
「お悔やみ申し上げますって、こら。だから、死んだのは俺だっての。本人にお悔やみ申し上げてどうすんだよ!」
そくざに高木がツッコむ。
「はいはい、そうでした」
そこで信夫は、ふいに顔を曇らせ、
「でも、ゆかりさんのことを思うと辛いですね。やっとお父さんに会えるっていうのに、高木さんは――」
その先の言葉を呑みこんだ。
とたんに、高木は打ち沈ずんだ。
自分の死が改めて思い返えされ、その現実に打ちのめされたのだった。
その話を、高木は聞かせたくてうずうずしていた。
「背びれ尾ひれをつけてどうするんですか。というか、イジメられてた話なのに、どうして武勇伝なんです?」
信夫が言うのももっともだった。
「だからな、俺が悪ガキのふたりをどうやってコテンパテンにしたかって話しに、これからなっていくんじゃねえかよ」
「コテンパテン?……。とにかく、長くなるのは確かですね」
「なんだよ、聞きたくないのか? 聞きたいだろ?」
「いえ、まったく」
「あー、そうかよ。あとで聞きたくなっても、ぜったい話してやらねえからな」
「はい、そうしてください」
「フン、いけずなやつだ。ま、それはいいとしてだ。それにしてもよ。まさかおまえが、ゆかりの担任だったとはな」
高木は感慨深げである。
「そうですよね。僕も驚きです。あ、でも、僕のクラスの高木ゆかりが、高木さんの娘さんかどうかはまだわかりませよ。同姓同名ってこともあるわけですから」
「いいや、おまえのクラスの高木ゆかりは、俺の娘だよ」
「そんな断定しちゃっていいんですか? もし違ったら、がっかりしますよ」
「俺にはわかるんだよ。そうだ、ってな」
「幽霊なだけに、まさに霊的に感じるってやつですか」
「このやろう、茶化すんじゃねえ。だったら訊くが、その子は両親と暮らしてるのか?」
「いえ、保護者は祖父母にあたる方です」
「その祖父母の姓は、なんだ」
「えっと、確か『野中』だと思います」
「ビンゴ! やっぱりな。野中は義父母の姓だ。住所は忘れちまったけどよ、姓までは忘れたりしねえさ」
「なるほど……。じゃあ、僕のクラスの高木ゆかりは、ほんとに高木さんの娘さんというわけですか」
「そういうことだ」
「そんなことってあるんですね」
今度は信夫が感慨深げに腕組みをした。
「世の中には、そういうことが間々あるもんだ」
「うん……。だけど、なんかできすぎって気もするんですよね」
とたんに信夫は訝(いぶか)る。
「できすぎって、なにがだよ」
「僕にはなんだか、あまりにも容易に事が運びすぎてると思えるんですよ。だって、そうでしょ? 高木さんは娘のゆかりさんに会いたくて、そこへ偶然に出会った僕が、そのゆかりさんの担任だったなんて、流れ的にもできすぎじゃないですか」
確かに信夫が言うことはもっともである。
「そういうもんなのさ」
だが、高木はにべもない。
「そうですかね」
「そうだって」
根拠もへったくれもなくそう言い切られてしまうと、信夫はそれ以上何も言えなくなった。
だがどうにも腑に落ちない。
何事も納得がいかないと気がすまないのが信夫の性格である。
それだけに、あーでもないこーでもないと考えをめぐらしてみる。
が、説明のつく答えは見つかりそうもなかった。
「で、どうなんだ」
唐突に高木が訊く。
「どうって、なにがです?」
「俺の娘は、いい生徒なのかってことだよ」
「あ、ええ。それはとてもいい生徒です。明朗活発で聡明だし、他の生徒にもたいへん好かれてます」
「おー、そうかそうか。うんうん」
高木はことのほかご満悦だった。
と、
「あ、そういえば……」
信夫が何かを思い出した。
「なに? 総入れ歯? おまえ、入れ歯なのか」
「違いますよ。そうじゃなくて、ゆかりさんが今日は欠席だったことを思い出したんです」
「欠席? なんだ、ゆかりは病気か?」
高木は思いきり心配になった。
「いえ、病気じゃなくて、なにやらどうしても連れていかなければならないところがあるとかで、おばあさん――あ、いや、野中さんから連絡がありました。詳細はなにも言っていませんでしたけど」
そう聞いて、高木はすぐに思いあたった。
「そうか……」
「行き先に心あたりでも?」
「俺に会いに行ったのさ」
「俺にって、高木さんはここに――あ、そうか」
信夫もすぐに思いあたった。
「病院ですね」
「あァ。俺は事故で死んだから、警察から連絡があったんだろうよ」
「これはどうも、お悔やみ申し上げます」
天然といえる信夫は、しんみりと言った。
「お悔やみ申し上げますって、こら。だから、死んだのは俺だっての。本人にお悔やみ申し上げてどうすんだよ!」
そくざに高木がツッコむ。
「はいはい、そうでした」
そこで信夫は、ふいに顔を曇らせ、
「でも、ゆかりさんのことを思うと辛いですね。やっとお父さんに会えるっていうのに、高木さんは――」
その先の言葉を呑みこんだ。
とたんに、高木は打ち沈ずんだ。
自分の死が改めて思い返えされ、その現実に打ちのめされたのだった。
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