幽霊になっても、俺は娘に逢いにゆく

星 陽月

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「第39話」

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 雲ひとつない蒼穹に、天高く陽が昇っている。
 その空を、高木は恨めしそうに見上げた。

「なんだ、もう昼時かよ」

 高木は住宅地の中にいた。

「それにしても雨が降らねえなァ」

 魂となった高木に、昼時であろうが天気がどうであろうが関係のないことなのだが、そんなことでも思っていないとやっていられなかった。
 なぜなら、
 早い話しが道に迷った。
 自分が悪霊になってしまったと思いこみ、どん底まで打ち沈んだ高木は、知らず知らずのうちに信夫の部屋を漂い出ていた。
 うなだれたまま橋を渡り、田園に挟まれた舗道を浮遊しながら進み行き、気づいたときにはこの住宅地にいたのである。
 ただやみくもに浮遊してきたわけではない。
 この住宅地には娘の暮らす祖父母の家があり、娘の姿が一刻も早く見たくて、高木はやってきたのだった。
 どうして道に迷ったかといえば、信夫の描いた地図を手に持つことができないので頭に叩きこんだことが要因だった。
 頭の中の地図をたよりに丁目まではなんとかたどり着いたが、どうしても野中家のある番地にたどりつくことができず、そうしているうちにどこを歩いているのか、さっぱりわからなくなってしまったというわけだ。

 さて、どうしたもんかな……。

 などと呑気なことを考えている場合ではないが、いかんせん、信夫のアパートへのもどりかたもすっかりわからなくなっていた。
 にっちもさっちもどうにもいかないその状況の中で、高木は途方に暮れるしかなかった。
 眩しいはずもない陽の光に眼を細めて顔を下ろす。
 と、
 いつの間にか、眼の前に少年が立っていた。

「うわッ!」

 高木は思わずうしろへ飛び退いた。

「なんだ、驚かすなよ」

 といって聴こえるわけがないか、と思っていると、

「おじさん、だれ?」

 無垢な瞳で少年はそう訊いてきた。

「なんだおまえ。俺の声が聴こえるのか」
「あたり前じゃないか。姿だって見えるよ」

 少年は不思議そうに高木を見上げた。
 恐くないのか? そう訊こうとし、その言葉を喉元で止めた。
 少年の身体が、路上からわずかに浮いていたのである。
 しっかりと少年を凝視してみれば、身体が透けていて背景が見える。
 おまえも幽霊なのか、とはとても訊けず、といってどう話しかけたらいいのかもわからずに高木は微笑みかけようとし、だが、その表情はゆがんだだけだった。

「ボクをお迎えに来たの?」

 少年はどうやら自分のいまの現状を理解しているらしかった。
 ならば、その問いには答えてやらなければならない。

「いや、そうじゃないんだ。おじさんは高木っていうただのおじさんさ。君のお迎えは――」

 そこで言葉がつまってしまう。
 この少年にはいったいどんなお迎えが来るのだろう。
 自分のときのように、やはり天使なのだろうか。

「きっと、君のいちばん会いたい人が、お迎えにきてくれるよ」

 考えあぐねて、いちばん妥当なところを答えた。

「そう。じゃあ、おじさんも違うんだね」

 少年はとたんに落胆し、その顔は悲しみに翳った。
 高木はいたたまらなくなった。
 といって慰めの言葉も見つからない。
 この少年にいったい何があったというのか。
 どうしてこの幼さで死ななければならなかったのだろうか。
 青春も恋愛も謳歌することなく、この少年には死が訪れ、そして天国からのお迎えを独り待っている。
 それにしても、少年が言った言葉が気にかかる。

「おまえ、あ、いや、君はいま『おじさんも違うんだね』って言ったけど、それってどういう意味だい? いままでも、おじさんのような人と会ったということなのかな」

 高木は疑問を口にした。
 少年は真っ直ぐな眼を向けてくる。

「うん。おじさん以外の人にも何人か会ったよ。でもみんな、ボクのお迎えじゃなかったんだ」

 それはどういうことなのだろう。
この少年はお迎えが来ぬまま、この世を彷徨っているということなのであろうか。
だとすれと、少年はあの天使が言っていた浮浪魂ということになる。

「だけどおじさん。『おじさんのような人』っていう言い方はおかしいよ。ボクもおじさんとおなじで、死んじゃっているんだから」
「え? あ、まァ、確かにそうだね」

 高木は思わず苦笑いを浮かべた。
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