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【チャプター 24】
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シーツをめくり上げ、妻の死顔を見つめる。
瞼を閉じている妻は眠っているようにも見え、唇に口づけをすれば眼を醒ますのではないかとさえ思えてくる。
その思いに中沢は、妻に顔を寄せると唇を重ねた。
唇はかすかにまだ温もりを残している。
彼はそっと唇を離した。
だがやはり、そんなことで妻が眼を醒ますはずもなかった。
首すじに眼を移してみれば、青い痣と赤い痣が重なり合うようにして残っている。
どちらも、中沢の手によって残された痣。
昨夜の出来事は夢ではなかった。
そう、昨夜、妻は確かに死んだのだ。
そしていま、妻はもう一度死んだ。
起こりえない現実。
それが起きた。
いや、すべてが夢なのだ。
悪夢を見つづけている。
そうとしか思えなかった。
そうでなければ、一度殺した人間を二度も殺すことなどありえない。
(夢なら、早く醒めてくれ!)
中沢は頭を抱え、胸の中でなんどもおなじ言葉を叫んだ。
だがしかし、それは悪夢のはじまりにすぎなかった。
その翌日、妻は平然と中沢の前に現れたのだ。
何事もなかったかのように。
その妻をまた、中沢は殺した。
そうして、妻を殺す日々がつづいたのだった。
そして今日もまた――
中沢は寝室のドアを乱暴に開け放つと、階下のリビングに向かった。
酒が欲しかった。
飲まずにはいられなかった。
ずっとそうだ。
飲むことで、精神が崩壊するのをかろうじて防いでいる。
リビングに入り、棚からバーボンのボトルを取ると食卓の椅子に坐った。
グラスにあふれんばかりにバーボンを注ぎ、水のように一息に呷った。
「クソッ! いつまでつづくんだ」
醒めることない悪夢。
だがそれは、とても夢とは思えないリアルさがあった。
その生々しさは、これは現実なのだと思わせるほどに。
いや、現実なのかもしれない。
まるで時間と時間の狭間に入りこんでしまったかのような、おなじ時間をただくり返すだけの現実。
(ばかな。そんな現実があるわけない……)
中沢は苦笑し、バーボンをグラスに注ぐと、また一息に呷った。
(これは、呪われた夢だ……)
あなたにはわかる?
これは、夢?――
妻の声が脳裡に響く。
その声を払拭するようにまたもバーボンを呷る。
それでも声は消えようとはしない。
「もう、やめてくれッ!」
中沢は叫び、さらに今度は、バーボンをボトルごと口へ運び喉に流しこんだ。
とたんにむせて咳きこむ。
酔いが急激に襲いかかり、それとともに視界が揺れ、焦点は定まらずに意識がどんよりとした濃霧の中を漂った。
だが、
あなたにはわかる?
これは、夢?――
どんなに意識が混濁しようとも、その声だけは脳裡に粘りつくように反響した。
瞼を閉じている妻は眠っているようにも見え、唇に口づけをすれば眼を醒ますのではないかとさえ思えてくる。
その思いに中沢は、妻に顔を寄せると唇を重ねた。
唇はかすかにまだ温もりを残している。
彼はそっと唇を離した。
だがやはり、そんなことで妻が眼を醒ますはずもなかった。
首すじに眼を移してみれば、青い痣と赤い痣が重なり合うようにして残っている。
どちらも、中沢の手によって残された痣。
昨夜の出来事は夢ではなかった。
そう、昨夜、妻は確かに死んだのだ。
そしていま、妻はもう一度死んだ。
起こりえない現実。
それが起きた。
いや、すべてが夢なのだ。
悪夢を見つづけている。
そうとしか思えなかった。
そうでなければ、一度殺した人間を二度も殺すことなどありえない。
(夢なら、早く醒めてくれ!)
中沢は頭を抱え、胸の中でなんどもおなじ言葉を叫んだ。
だがしかし、それは悪夢のはじまりにすぎなかった。
その翌日、妻は平然と中沢の前に現れたのだ。
何事もなかったかのように。
その妻をまた、中沢は殺した。
そうして、妻を殺す日々がつづいたのだった。
そして今日もまた――
中沢は寝室のドアを乱暴に開け放つと、階下のリビングに向かった。
酒が欲しかった。
飲まずにはいられなかった。
ずっとそうだ。
飲むことで、精神が崩壊するのをかろうじて防いでいる。
リビングに入り、棚からバーボンのボトルを取ると食卓の椅子に坐った。
グラスにあふれんばかりにバーボンを注ぎ、水のように一息に呷った。
「クソッ! いつまでつづくんだ」
醒めることない悪夢。
だがそれは、とても夢とは思えないリアルさがあった。
その生々しさは、これは現実なのだと思わせるほどに。
いや、現実なのかもしれない。
まるで時間と時間の狭間に入りこんでしまったかのような、おなじ時間をただくり返すだけの現実。
(ばかな。そんな現実があるわけない……)
中沢は苦笑し、バーボンをグラスに注ぐと、また一息に呷った。
(これは、呪われた夢だ……)
あなたにはわかる?
これは、夢?――
妻の声が脳裡に響く。
その声を払拭するようにまたもバーボンを呷る。
それでも声は消えようとはしない。
「もう、やめてくれッ!」
中沢は叫び、さらに今度は、バーボンをボトルごと口へ運び喉に流しこんだ。
とたんにむせて咳きこむ。
酔いが急激に襲いかかり、それとともに視界が揺れ、焦点は定まらずに意識がどんよりとした濃霧の中を漂った。
だが、
あなたにはわかる?
これは、夢?――
どんなに意識が混濁しようとも、その声だけは脳裡に粘りつくように反響した。
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