31 / 55
【チャプター 31】
しおりを挟む
〈また厭味か〉
声が言う。
「そうさ。厭味だよ。僕が僕自身に厭味を言ってなにが悪い。どうせなにも変わらないんだ……。おまえは、いったいなんのために現れたんだ」
中沢が訊いた。
〈起きたことには何事にも意味がある。いまおまえに起きていることにも、そして俺が現れたことにもな〉
「だったら、おまえが現れたのは、夢から目醒める方法を教えるためじゃないのか。そうでなければ、おまえが現れた意味がない」
〈どうやらキサマは勘違いしているようだな〉
「勘違い?」
〈そうだ。俺が現れたのはそんなことのためではない〉
「他にどんな理由があるというんだ」
〈そうだな。ただのひまつぶしとでも言っておこうか〉
「なんだとッ!」
中沢は憤りをあらわにした。
〈クク、怒る気力もないと言っていたが、気力はじゅうぶんにあるじゃないか〉
「これが怒らずにいられるか!」
〈そう怒るな。おまえの厭味に、少しばかり仕返しをしただけだ。実のところ、俺にもわからないのだ。ふとすると、おまえの声が聴こえてきて、俺はそれに反応していた〉
「それだけか。まったく。結局、おまえが現れたことには、なんの意味のないってことじゃないか」
ため息をつくように、中沢は呼気を吐いた。
〈一見そう見えるものにも、必ず意味はあるものだ〉
「そんなんじゃ、埒があかない」
〈まあ聞けよ。おまえの声に反応したときだ。俺はその一瞬におまえのすべてが見えた。そして同時にわかったのだ。おまえが俺であり、俺がおまえであるいうことがな〉
「そんなことがわかったからといってなんになる。僕にはなんの意味も持たない」
〈そんなことはない。意味はあるのだ。おまえの思うことは俺の思うところでもあるのだからな。利害は一致するのだ〉
「なら、おまえもこの夢から目醒めたいということなんだな」
〈目醒めるのはおまえだが、まあ、そういうことになるな〉
「だったら、目醒めるために協力してくれ」
〈それはできない。だがひとつ教えてやる。この夢から目醒めたいのなら、さきほどおまえが妻にしようとしていたことをもう一度、今度は着実に実行するのだ〉
「なに! それは――」
〈そうだよ。妻の死体を切断するのさ。そうすれば、さすがにおまえの妻も生き返りはしないだろう。断定はできないがな〉
「しかし、僕にはとても……」
〈できないか。できないのならそれもいいさ。だが、この夢からは永遠に目醒めることはない。それでいいのであればな〉
「だからといって、礼子の身体を切断するなんて……」
〈なにを言う。一度はそうしようと、のこぎりを手にしたのだろうが。ならばもう一度その手に握ればいいのだ。死体となった女の身体に、のこぎりの刃を突き立て、血飛沫を浴びながらばらばらにするのだ。どうだ。想像するだけでゾクゾクしないか? 思わずイってしまいそうだよ〉
「ふざけるな。礼子は僕の妻だぞ!」
〈おう。そうだったな。女はおまえの妻だった。忘れていたよ。死者には敬意を払わなければな〉
「とぼけたことを言うな」
〈フン。だがおまえは、その妻を殺したのだぞ。なんども、なんどもな〉
「言うな。しかたがなかったんだ……」
〈人ひとりを殺して、しかたがなかっただと? ずいぶんと勝手なものだ〉
「おまえになにがわかる!」
〈俺はおまえなのだ。わからぬことなどあるものか。おまえは妻の裏切りに耐え切れずに殺したのだ〉
「違う! 僕は……」
〈ああ、わかっているさ。それも愛するがゆえ、と言いたいのだろう? しかし、いまはどうだ。殺しても殺しても生き返ってくる人間を、妻として愛せるのか?〉
「なんど生き返ろうとも、礼子は僕の妻だ」
その言葉を、中沢は胸の中で噛みしめた。
声が言う。
「そうさ。厭味だよ。僕が僕自身に厭味を言ってなにが悪い。どうせなにも変わらないんだ……。おまえは、いったいなんのために現れたんだ」
中沢が訊いた。
〈起きたことには何事にも意味がある。いまおまえに起きていることにも、そして俺が現れたことにもな〉
「だったら、おまえが現れたのは、夢から目醒める方法を教えるためじゃないのか。そうでなければ、おまえが現れた意味がない」
〈どうやらキサマは勘違いしているようだな〉
「勘違い?」
〈そうだ。俺が現れたのはそんなことのためではない〉
「他にどんな理由があるというんだ」
〈そうだな。ただのひまつぶしとでも言っておこうか〉
「なんだとッ!」
中沢は憤りをあらわにした。
〈クク、怒る気力もないと言っていたが、気力はじゅうぶんにあるじゃないか〉
「これが怒らずにいられるか!」
〈そう怒るな。おまえの厭味に、少しばかり仕返しをしただけだ。実のところ、俺にもわからないのだ。ふとすると、おまえの声が聴こえてきて、俺はそれに反応していた〉
「それだけか。まったく。結局、おまえが現れたことには、なんの意味のないってことじゃないか」
ため息をつくように、中沢は呼気を吐いた。
〈一見そう見えるものにも、必ず意味はあるものだ〉
「そんなんじゃ、埒があかない」
〈まあ聞けよ。おまえの声に反応したときだ。俺はその一瞬におまえのすべてが見えた。そして同時にわかったのだ。おまえが俺であり、俺がおまえであるいうことがな〉
「そんなことがわかったからといってなんになる。僕にはなんの意味も持たない」
〈そんなことはない。意味はあるのだ。おまえの思うことは俺の思うところでもあるのだからな。利害は一致するのだ〉
「なら、おまえもこの夢から目醒めたいということなんだな」
〈目醒めるのはおまえだが、まあ、そういうことになるな〉
「だったら、目醒めるために協力してくれ」
〈それはできない。だがひとつ教えてやる。この夢から目醒めたいのなら、さきほどおまえが妻にしようとしていたことをもう一度、今度は着実に実行するのだ〉
「なに! それは――」
〈そうだよ。妻の死体を切断するのさ。そうすれば、さすがにおまえの妻も生き返りはしないだろう。断定はできないがな〉
「しかし、僕にはとても……」
〈できないか。できないのならそれもいいさ。だが、この夢からは永遠に目醒めることはない。それでいいのであればな〉
「だからといって、礼子の身体を切断するなんて……」
〈なにを言う。一度はそうしようと、のこぎりを手にしたのだろうが。ならばもう一度その手に握ればいいのだ。死体となった女の身体に、のこぎりの刃を突き立て、血飛沫を浴びながらばらばらにするのだ。どうだ。想像するだけでゾクゾクしないか? 思わずイってしまいそうだよ〉
「ふざけるな。礼子は僕の妻だぞ!」
〈おう。そうだったな。女はおまえの妻だった。忘れていたよ。死者には敬意を払わなければな〉
「とぼけたことを言うな」
〈フン。だがおまえは、その妻を殺したのだぞ。なんども、なんどもな〉
「言うな。しかたがなかったんだ……」
〈人ひとりを殺して、しかたがなかっただと? ずいぶんと勝手なものだ〉
「おまえになにがわかる!」
〈俺はおまえなのだ。わからぬことなどあるものか。おまえは妻の裏切りに耐え切れずに殺したのだ〉
「違う! 僕は……」
〈ああ、わかっているさ。それも愛するがゆえ、と言いたいのだろう? しかし、いまはどうだ。殺しても殺しても生き返ってくる人間を、妻として愛せるのか?〉
「なんど生き返ろうとも、礼子は僕の妻だ」
その言葉を、中沢は胸の中で噛みしめた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
17歳男子高生と32歳主婦の境界線
MisakiNonagase
恋愛
32歳の主婦・加恋。冷え切った家庭で孤独に苛まれる彼女を救い出したのは、ネットの向こう側にいた二十歳(はたち)と偽っていた17歳の少年・晴人だった。
「未成年との不倫」という、社会から断罪されるべき背徳。それでも二人は、震える手で未来への約束を交わす。少年が大学生になり、社会人となり、守られる存在から「守る男」へと成長していく中で、加恋は自らの手で「妻」という仮面を脱ぎ捨てていく…
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる