甦る妻

星 陽月

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【チャプター 31】

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〈また厭味か〉

 声が言う。

「そうさ。厭味だよ。僕が僕自身に厭味を言ってなにが悪い。どうせなにも変わらないんだ……。おまえは、いったいなんのために現れたんだ」

 中沢が訊いた。

〈起きたことには何事にも意味がある。いまおまえに起きていることにも、そして俺が現れたことにもな〉
「だったら、おまえが現れたのは、夢から目醒める方法を教えるためじゃないのか。そうでなければ、おまえが現れた意味がない」
〈どうやらキサマは勘違いしているようだな〉
「勘違い?」
〈そうだ。俺が現れたのはそんなことのためではない〉
「他にどんな理由があるというんだ」
〈そうだな。ただのひまつぶしとでも言っておこうか〉
「なんだとッ!」

 中沢は憤りをあらわにした。

〈クク、怒る気力もないと言っていたが、気力はじゅうぶんにあるじゃないか〉
「これが怒らずにいられるか!」
〈そう怒るな。おまえの厭味に、少しばかり仕返しをしただけだ。実のところ、俺にもわからないのだ。ふとすると、おまえの声が聴こえてきて、俺はそれに反応していた〉
「それだけか。まったく。結局、おまえが現れたことには、なんの意味のないってことじゃないか」

 ため息をつくように、中沢は呼気を吐いた。

〈一見そう見えるものにも、必ず意味はあるものだ〉
「そんなんじゃ、埒があかない」
〈まあ聞けよ。おまえの声に反応したときだ。俺はその一瞬におまえのすべてが見えた。そして同時にわかったのだ。おまえが俺であり、俺がおまえであるいうことがな〉
「そんなことがわかったからといってなんになる。僕にはなんの意味も持たない」
〈そんなことはない。意味はあるのだ。おまえの思うことは俺の思うところでもあるのだからな。利害は一致するのだ〉
「なら、おまえもこの夢から目醒めたいということなんだな」
〈目醒めるのはおまえだが、まあ、そういうことになるな〉
「だったら、目醒めるために協力してくれ」
〈それはできない。だがひとつ教えてやる。この夢から目醒めたいのなら、さきほどおまえが妻にしようとしていたことをもう一度、今度は着実に実行するのだ〉
「なに! それは――」
〈そうだよ。妻の死体を切断するのさ。そうすれば、さすがにおまえの妻も生き返りはしないだろう。断定はできないがな〉
「しかし、僕にはとても……」
〈できないか。できないのならそれもいいさ。だが、この夢からは永遠に目醒めることはない。それでいいのであればな〉
「だからといって、礼子の身体を切断するなんて……」
〈なにを言う。一度はそうしようと、のこぎりを手にしたのだろうが。ならばもう一度その手に握ればいいのだ。死体となった女の身体に、のこぎりの刃を突き立て、血飛沫を浴びながらばらばらにするのだ。どうだ。想像するだけでゾクゾクしないか? 思わずイってしまいそうだよ〉
「ふざけるな。礼子は僕の妻だぞ!」
〈おう。そうだったな。女はおまえの妻だった。忘れていたよ。死者には敬意を払わなければな〉
「とぼけたことを言うな」
〈フン。だがおまえは、その妻を殺したのだぞ。なんども、なんどもな〉
「言うな。しかたがなかったんだ……」
〈人ひとりを殺して、しかたがなかっただと? ずいぶんと勝手なものだ〉
「おまえになにがわかる!」
〈俺はおまえなのだ。わからぬことなどあるものか。おまえは妻の裏切りに耐え切れずに殺したのだ〉
「違う! 僕は……」
〈ああ、わかっているさ。それも愛するがゆえ、と言いたいのだろう? しかし、いまはどうだ。殺しても殺しても生き返ってくる人間を、妻として愛せるのか?〉
「なんど生き返ろうとも、礼子は僕の妻だ」

 その言葉を、中沢は胸の中で噛みしめた。
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