蒼穹(そうきゅう)の約束

星 陽月

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【第49話】

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 時が経つのは早いもので、正吉が死を迎えてから、47日目が過ぎた。
 彼が紀子の身体の中から離れられたのはいいが、まだ一向に天国へと召される気配はない。
 その数日前から、さすがに正吉自身も不安に駆られるとみえて、肩を落とし、ため息をつく仕草が増えていた。
 その度に紀子が、「大丈夫よ、正吉さん」と力づけようとするのだが、彼女にしてみても不安が募らないわけではなかった。

(神様はいったいいつまで、正吉さんをこのままにしておくつもりなんだろう……)

 そんなことを思ったそのとき、紀子は大切なことを忘れていたことに気づいた。
 それは正吉が言っていた、「遠い日の約束」である。
 さっそく訊いてみようと思い立った紀子だが、そのことについてはカオルも一枚噛んでいるので、どうせならピンク・ロードに行ってから話を聞かせてもらおうと、その日、谷口慎吾を伴って店へと足を向けた。
 どうして谷口を伴わなければならなかったのかについては、これといったわけがあるわけでもない。

『谷口さんも誘ってあげてください』

 と、正吉がそう言ったからだ。
 その理由を訊くと、『理由がなければいけませんか』そう返され、

『だめだというなら、私はなにも話しませんよ』

 そう言うので、仕方なく連れて行くことにしたのだった。
 それにしても、自分の存在を知られてしまったとはいえ、正吉には、どこか谷口を特別扱いしているように思えてならない。
 それは確かに、正吉の存在を視覚で捉え、意識の伝達ができるのは紀子の他に谷口だけだ。
 けれど紀子と谷口にでは、接し方や扱い方がまったく違うのはいったいどういうことなのか。
 まるで弱みでも握られているかのようだ。
 まさかそんなことがあるはずもないが、何かにつけて谷口と話したがるし、その正吉の彼への対応を見ていると、紀子には何か別の意図があるようにも感じてならなかった。
 とはいえ、物事を深く考えない性格もあって、ピンク・ロードの開店早々、紀子たちは足を運んだのだった。

「紀ちゃん、いらっしゃい」

 カオルは、棚に陳列されているボトルの整理をしているところだった。
 さすがに客はひとりもいない。
 店を開けるのは、チーママであるカオルの役目だ。

「来るの、早すぎたかな」
「ぜーんぜん。待ってたわよ」

 言いながらカオルは、カウンターの中に入っていく。
 カオルには、正吉のことで話があるからと、紀子が前もって電話を入れておいたのだ。

「あら、ちょっと、紀ちゃん。あなたのとなりにいる、この若くてイケメンな彼は、いったいどなた?」

 ふたりがカウンターに坐ったとたん、めざとくカオルが言った。
 その瞳はランランと耀き、谷口に釘付けになっている。

「彼は会社の後輩」

 紀子の言い方は素っ気ない。

「まァ、後輩なの? だったら、どうしていままで連れてこなかったのよォ。こんないい男を隠してるなんて、ずるいィ!」
「って別に、隠していたわけじゃないから」

 そう言う紀子を無視し、カオルはすぐさま谷口へと視線をもどす。

「それで、お名前は?」
「あ、初めまして。谷口慎吾といいます」

 そう名乗って谷口は笑みを浮かべたが、その顔は幾分引きつっていた。

「シンゴちゃんね。アタシはカオル。よろしくね」
「カオルさん、ですか……」

 谷口は複雑な顔でカオルを見つめ、

「あの、本名はなんて言うんですか?」

 そう訊いた。

「アタシの本名なんて、なんだっていいじゃないの」

 カオルはふたりの水割りを作りながら言った。

「そんなこと言わず、教えてくださいよ」

 谷口は食い下がる。

「そうそう、私も、カオルちゃんの本名知りたいな。ね、どんな名前なの? 教えてよ」

 紀子は身を乗り出して訊いた。
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