72 / 74
【第72話】
しおりを挟む
「そうだ、君に紹介するよ」
正吉が志乃に言った。
そしてふたりは、3人の前に歩んでいった。
「この青年は谷口くん」
「は、初めまして、谷口慎吾と申します」
谷口は直立不動になって挨拶をした。
そしていつもの敬礼をした。
「初めまして、志乃です」
志乃は微笑みを向けた。
「そして、この人はカオルさん」
「カオルです。ヨロシク」
カオルはカワイ子ぶった。
「初めまして、カオルさん」
「そして、この人が紀子さん。この人を見たとき、僕はほんとうに驚いた」
「初めまして、志乃さん」
紀子は志乃の顔をじっと見る。
(ほんとうに鏡を見ているようだ。もし双子だったら、こんな感じなんだろうか。でもちょっとだけ、彼女のほうが若い。あくまでもちょっとだけ……)
「初めまして、紀子さん。でもあなたには、初めましてというのはおかしいかしら」
「どうして?」
紀子が訊く。
「だって、あなたは、わたしですもの」
「はァ?」
いきなりのことに、紀子の声が裏返った。
「あなたは、わたしの生まれ変わりなの」
志乃が言う。
「なな、なによそれ。どどど、ど、どういうこと?」
紀子は動揺しまくった。
「わたしは、27年前に肉体を失って、そして、あなたに生まれ変わったの。信じられないかもしれないけど、ほんとうのことよ」
「そんなこと信じられるわけがないわ。百歩譲ってあなたの言うことがほんとうだとするなら、どうしてあなたはいま、眼の前にいるの?」
「いまのわたしは、志乃だったころの記憶。いうなれば、あなたに生まれ変わるときに残った魂のかけら。つまり、あなたの一部でもあるの」
「わからない、わからない、わからないーッ!」
パニクった紀子は、子供のように地団駄を踏んだ。
それを見て、志乃がクスッと笑う。
「あなたの、その天真爛漫なところ、羨ましいわ。前世のわたしには、そういうところがなかったもの」
「そんな、前世のわたしには、なんて言わないでよ。あー頭が混乱する……。でも待ってよ。魂ってひとつじゃないの?」
「魂は、物ではないわ。わかり易く言うなら、雲のようなもの。雲って、離れたり混ざりあったりするでしょう? 魂もそういうもの」
「だったら、もしかすると私の魂は、ううん、あなただった魂は、幾つもにわかれて、別の人生を送っているわけ?」
「それはありません。魂には意思があるから、必ずひとつの肉体に宿るの。そしてその意思は、新たな人生を送ることで消えていく。けれどそれは消滅するわけではなくて、前世の記憶としてもとの場所へと帰っていくだけなの」
「それが魂のかけら。そしてそれが、あなた」
「さすが紀子さん。聡明なのは、わたしと同じ」
「そういうことなの……」
紀子はなんとなく理解しながら、それでも、やっぱり理解できなかった。
理解するには相当な時間が必要だ。
「頭の整理がつかないわ。私の前世だったあなたと、こうして話をしているなんて」
「無理もないわ。ふつうなら、ありえないことだもの」
「でも、これでやっとわかったわ。正吉さんがこの世に留まってしまったわけが。あなたにそっくりな私に出会ったことで、あなたへの想いが正吉さんの中でフラッシュバックした。それが強いあまりに、正吉さんの魂は私の中に入りこんじゃった。ということよね――だけど、あなたが正吉さんを迎えにくるなんて、なんだかできすぎって感じがするんだけど」
「いいえ。できすぎでもなんでもないのよ。彼を迎えにくるのは、わたし以外にはないんですもの。わたしたちはソウルメイトだから」
「ソウルメイト?……」
典子の頭の中に「?」マークが幾つも浮かんだ。
正吉が志乃に言った。
そしてふたりは、3人の前に歩んでいった。
「この青年は谷口くん」
「は、初めまして、谷口慎吾と申します」
谷口は直立不動になって挨拶をした。
そしていつもの敬礼をした。
「初めまして、志乃です」
志乃は微笑みを向けた。
「そして、この人はカオルさん」
「カオルです。ヨロシク」
カオルはカワイ子ぶった。
「初めまして、カオルさん」
「そして、この人が紀子さん。この人を見たとき、僕はほんとうに驚いた」
「初めまして、志乃さん」
紀子は志乃の顔をじっと見る。
(ほんとうに鏡を見ているようだ。もし双子だったら、こんな感じなんだろうか。でもちょっとだけ、彼女のほうが若い。あくまでもちょっとだけ……)
「初めまして、紀子さん。でもあなたには、初めましてというのはおかしいかしら」
「どうして?」
紀子が訊く。
「だって、あなたは、わたしですもの」
「はァ?」
いきなりのことに、紀子の声が裏返った。
「あなたは、わたしの生まれ変わりなの」
志乃が言う。
「なな、なによそれ。どどど、ど、どういうこと?」
紀子は動揺しまくった。
「わたしは、27年前に肉体を失って、そして、あなたに生まれ変わったの。信じられないかもしれないけど、ほんとうのことよ」
「そんなこと信じられるわけがないわ。百歩譲ってあなたの言うことがほんとうだとするなら、どうしてあなたはいま、眼の前にいるの?」
「いまのわたしは、志乃だったころの記憶。いうなれば、あなたに生まれ変わるときに残った魂のかけら。つまり、あなたの一部でもあるの」
「わからない、わからない、わからないーッ!」
パニクった紀子は、子供のように地団駄を踏んだ。
それを見て、志乃がクスッと笑う。
「あなたの、その天真爛漫なところ、羨ましいわ。前世のわたしには、そういうところがなかったもの」
「そんな、前世のわたしには、なんて言わないでよ。あー頭が混乱する……。でも待ってよ。魂ってひとつじゃないの?」
「魂は、物ではないわ。わかり易く言うなら、雲のようなもの。雲って、離れたり混ざりあったりするでしょう? 魂もそういうもの」
「だったら、もしかすると私の魂は、ううん、あなただった魂は、幾つもにわかれて、別の人生を送っているわけ?」
「それはありません。魂には意思があるから、必ずひとつの肉体に宿るの。そしてその意思は、新たな人生を送ることで消えていく。けれどそれは消滅するわけではなくて、前世の記憶としてもとの場所へと帰っていくだけなの」
「それが魂のかけら。そしてそれが、あなた」
「さすが紀子さん。聡明なのは、わたしと同じ」
「そういうことなの……」
紀子はなんとなく理解しながら、それでも、やっぱり理解できなかった。
理解するには相当な時間が必要だ。
「頭の整理がつかないわ。私の前世だったあなたと、こうして話をしているなんて」
「無理もないわ。ふつうなら、ありえないことだもの」
「でも、これでやっとわかったわ。正吉さんがこの世に留まってしまったわけが。あなたにそっくりな私に出会ったことで、あなたへの想いが正吉さんの中でフラッシュバックした。それが強いあまりに、正吉さんの魂は私の中に入りこんじゃった。ということよね――だけど、あなたが正吉さんを迎えにくるなんて、なんだかできすぎって感じがするんだけど」
「いいえ。できすぎでもなんでもないのよ。彼を迎えにくるのは、わたし以外にはないんですもの。わたしたちはソウルメイトだから」
「ソウルメイト?……」
典子の頭の中に「?」マークが幾つも浮かんだ。
0
あなたにおすすめの小説
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
ヤクザに医官はおりません
ユーリ(佐伯瑠璃)
ライト文芸
彼は私の知らない組織の人間でした
会社の飲み会の隣の席のグループが怪しい。
シャバだの、残弾なしだの、会話が物騒すぎる。刈り上げ、角刈り、丸刈り、眉毛シャキーン。
無駄にムキムキした体に、堅い言葉遣い。
反社会組織の集まりか!
ヤ◯ザに見初められたら逃げられない?
勘違いから始まる異文化交流のお話です。
※もちろんフィクションです。
小説家になろう、カクヨムに投稿しています。
一億円の花嫁
藤谷 郁
恋愛
奈々子は家族の中の落ちこぼれ。
父親がすすめる縁談を断り切れず、望まぬ結婚をすることになった。
もうすぐ自由が無くなる。せめて最後に、思いきり贅沢な時間を過ごそう。
「きっと、素晴らしい旅になる」
ずっと憧れていた高級ホテルに到着し、わくわくする奈々子だが……
幸か不幸か!?
思いもよらぬ、運命の出会いが待っていた。
※エブリスタさまにも掲載
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
✿ 私は彼のことが好きなのに、彼は私なんかよりずっと若くてきれいでスタイルの良い女が好きらしい
設楽理沙
ライト文芸
累計ポイント110万ポイント超えました。皆さま、ありがとうございます。❀
結婚後、2か月足らずで夫の心変わりを知ることに。
結婚前から他の女性と付き合っていたんだって。
それならそうと、ちゃんと話してくれていれば、結婚なんて
しなかった。
呆れた私はすぐに家を出て自立の道を探すことにした。
それなのに、私と別れたくないなんて信じられない
世迷言を言ってくる夫。
だめだめ、信用できないからね~。
さようなら。
*******.✿..✿.*******
◇|日比野滉星《ひびのこうせい》32才 会社員
◇ 日比野ひまり 32才
◇ 石田唯 29才 滉星の同僚
◇新堂冬也 25才 ひまりの転職先の先輩(鉄道会社)
2025.4.11 完結 25649字
子持ち愛妻家の極悪上司にアタックしてもいいですか?天国の奥様には申し訳ないですが
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
胸がきゅんと、甘い音を立てる。
相手は、妻子持ちだというのに。
入社して配属一日目。
直属の上司で教育係だって紹介された人は、酷く人相の悪い人でした。
中高大と女子校育ちで男性慣れしてない私にとって、それだけでも恐怖なのに。
彼はちかよんなオーラバリバリで、仕事の質問すらする隙がない。
それでもどうにか仕事をこなしていたがとうとう、大きなミスを犯してしまう。
「俺が、悪いのか」
人のせいにするのかと叱責されるのかと思った。
けれど。
「俺の顔と、理由があって避け気味なせいだよな、すまん」
あやまってくれた彼に、胸がきゅんと甘い音を立てる。
相手は、妻子持ちなのに。
星谷桐子
22歳
システム開発会社営業事務
中高大女子校育ちで、ちょっぴり男性が苦手
自分の非はちゃんと認める子
頑張り屋さん
×
京塚大介
32歳
システム開発会社営業事務 主任
ツンツンあたまで目つき悪い
態度もでかくて人に恐怖を与えがち
5歳の娘にデレデレな愛妻家
いまでも亡くなった妻を愛している
私は京塚主任を、好きになってもいいのかな……?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる