蒼穹(そうきゅう)の約束

星 陽月

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【第72話】

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「そうだ、君に紹介するよ」

 正吉が志乃に言った。
 そしてふたりは、3人の前に歩んでいった。

「この青年は谷口くん」
「は、初めまして、谷口慎吾と申します」

 谷口は直立不動になって挨拶をした。
 そしていつもの敬礼をした。

「初めまして、志乃です」

 志乃は微笑みを向けた。

「そして、この人はカオルさん」
「カオルです。ヨロシク」

 カオルはカワイ子ぶった。

「初めまして、カオルさん」
「そして、この人が紀子さん。この人を見たとき、僕はほんとうに驚いた」
「初めまして、志乃さん」

 紀子は志乃の顔をじっと見る。

(ほんとうに鏡を見ているようだ。もし双子だったら、こんな感じなんだろうか。でもちょっとだけ、彼女のほうが若い。あくまでもちょっとだけ……)
「初めまして、紀子さん。でもあなたには、初めましてというのはおかしいかしら」
「どうして?」

 紀子が訊く。

「だって、あなたは、わたしですもの」
「はァ?」

 いきなりのことに、紀子の声が裏返った。

「あなたは、わたしの生まれ変わりなの」

 志乃が言う。

「なな、なによそれ。どどど、ど、どういうこと?」

 紀子は動揺しまくった。

「わたしは、27年前に肉体を失って、そして、あなたに生まれ変わったの。信じられないかもしれないけど、ほんとうのことよ」
「そんなこと信じられるわけがないわ。百歩譲ってあなたの言うことがほんとうだとするなら、どうしてあなたはいま、眼の前にいるの?」
「いまのわたしは、志乃だったころの記憶。いうなれば、あなたに生まれ変わるときに残った魂のかけら。つまり、あなたの一部でもあるの」
「わからない、わからない、わからないーッ!」

 パニクった紀子は、子供のように地団駄を踏んだ。
 それを見て、志乃がクスッと笑う。

「あなたの、その天真爛漫なところ、羨ましいわ。前世のわたしには、そういうところがなかったもの」
「そんな、前世のわたしには、なんて言わないでよ。あー頭が混乱する……。でも待ってよ。魂ってひとつじゃないの?」
「魂は、物ではないわ。わかり易く言うなら、雲のようなもの。雲って、離れたり混ざりあったりするでしょう? 魂もそういうもの」
「だったら、もしかすると私の魂は、ううん、あなただった魂は、幾つもにわかれて、別の人生を送っているわけ?」
「それはありません。魂には意思があるから、必ずひとつの肉体に宿るの。そしてその意思は、新たな人生を送ることで消えていく。けれどそれは消滅するわけではなくて、前世の記憶としてもとの場所へと帰っていくだけなの」
「それが魂のかけら。そしてそれが、あなた」
「さすが紀子さん。聡明なのは、わたしと同じ」
「そういうことなの……」

 紀子はなんとなく理解しながら、それでも、やっぱり理解できなかった。
 理解するには相当な時間が必要だ。

「頭の整理がつかないわ。私の前世だったあなたと、こうして話をしているなんて」
「無理もないわ。ふつうなら、ありえないことだもの」
「でも、これでやっとわかったわ。正吉さんがこの世に留まってしまったわけが。あなたにそっくりな私に出会ったことで、あなたへの想いが正吉さんの中でフラッシュバックした。それが強いあまりに、正吉さんの魂は私の中に入りこんじゃった。ということよね――だけど、あなたが正吉さんを迎えにくるなんて、なんだかできすぎって感じがするんだけど」
「いいえ。できすぎでもなんでもないのよ。彼を迎えにくるのは、わたし以外にはないんですもの。わたしたちはソウルメイトだから」
「ソウルメイト?……」

 典子の頭の中に「?」マークが幾つも浮かんだ。
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