蒼穹(そうきゅう)の約束

星 陽月

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【第73話】

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「ええ。前世で関わり合いを持った人とは、生まれ変わってもまた出会うものなの。その中でも、深いきずなで結ばれてた人とは、出会っただけで感じるものがあるわ。そしてなんどもなんども生まれ変わって、魂を高め合いながら最後は融合するの」

 志乃が言った。

「融合って、ひとつになるってことよね……。私、小さいころに聞いたことがある。男と女は元々はひとつで、神様が試練を与えるために、それをふたつに切り離した。だから男と女は求め合うって」

 紀子はその話を聞いたとき、幼いながらも「なんてロマンティックなんだろう」と思った。

「時には親子だったり、兄弟として生まれ変わったりする場合もあるけど、そうなるのは様々な関係を経験するために必要な要素だから。前世が男性だったのに生まれ変わったら女性だったりするのも、男性の気持ちは男性にならないとわからないし、女性だってまたおなじこと。人はそうやって生まれ変わりながら、ふたりは魂の向上に努めていくの。それが――」
「ソウルメイト」

 志乃が最後に言おうとしたことを、紀子が言った。

「そう。魂の固いきずなで結ばれている人」
「ってことは、あなたは私でもあるんだから、正吉さんと私も、ソウルメイトってことなの?」
「そうよ。だから、あなたは正吉さんと出会った」
「出会ったといっても、正吉さんはおじいさんで、すぐに死んじゃったのよ」
「確かにそうね。でも、正吉さんが肉体を離れてから今日まで、あなたとは深い関わりを持ったはずよ。それもふつうでは考えられない関係。それだけでも、正吉さんとあなたの魂は高められたはずだよ」
「言われてみれば、そうだけど……」
「それに、ソウルメイトとなる相手はひとりだけの場合がほとんどだけど、ふたりのときもあれば複数ってこともあるの。そしてあなたのすぐそばに、いまのあなたにとって、いちばん大切なソウルメイトがいるわ。それにあなたは、気づいていることに気づいていない」
「え? それってだれなの?」
「すぐにわかるわよ」

 志乃はやさしく微笑む。

「魂は生まれ変わるものです。でも、いまのあなたは、前世にも来世にも囚われることはないの。あなたはあなただけのものよ。一度の人生、心のゆくまで楽しんで」

 そう言うと、志乃の身体がすうっとうしろに下がった。

「正吉さん。そろそろ行きましょう」
「はい。ですが、もう少し待ってください」

 志乃を待たせて、正吉は谷口の前に立った。
 青年にもどっている正吉は谷口よりも若い。

『僕はいま、君だけに話しかけている。だから、よく聞いて』
「あ、はい」
『僕は君に、あるものを手に入れなければ君の力は目醒めないって言ったよね。そしてそれは、自ずとわかるときがくるって』
「ええ」
『そこで君に、ヒントをあげる』
「ヒント?」
『うん。君が手にいれなければならないものは、君のすぐ近くにある。それを君は知っている。そして大切に想っている』
「――それって、まさか……」
『そう、君の思うとおりだよ。いいかい、手に入れられるかどうかは君しだいさ』
「は、はい。がんばります」

 谷口は姿勢を正した。

『うん。短いあいだだったけど、君に逢えて僕は光栄だよ。ありがとう』

 そして今度はカオルの前に立ち、

「カオルさん」

 声を発した。

「ありがとう。君はすばらしい人だ。君に会えてよかった」
「なによォ、もう」

 カオルの眼からは、洪水の涙があふれている。

「でも、正吉さんて、すごくイイ男。アタシがあなたの時代に生まれていたら、放っておかなかったわ」

 正吉は苦笑いを浮かべながら紀子の前にいく。

「紀子さん、あなたにはほんとうに――」
「いいの、正吉さん。わかってるから、なにも言わないで。私、泣きたくないから」
「そうですか。わかりました」

 正吉はうしろに下がり、志乃のとなりに並んだ。

「それではみなさん。ほんとうにありがとう」

 天からの光が、正吉と志乃を包みこむ。
 ふたりの姿が輝きはじめる。

「意地っ張りで泣き虫で、そしてやさしくて美しい紀子さん。そして別の意味で美しいカオルさん。それに、力を秘めた谷口くん。いつの日かまた会いましょう」

 軍服姿の正吉が敬礼をする。
 ふたりの姿が、光に包まれながら空へと昇っていく。
 やがて光は、蒼い空にすうっと消えた。
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