73 / 74
【第73話】
しおりを挟む
「ええ。前世で関わり合いを持った人とは、生まれ変わってもまた出会うものなの。その中でも、深いきずなで結ばれてた人とは、出会っただけで感じるものがあるわ。そしてなんどもなんども生まれ変わって、魂を高め合いながら最後は融合するの」
志乃が言った。
「融合って、ひとつになるってことよね……。私、小さいころに聞いたことがある。男と女は元々はひとつで、神様が試練を与えるために、それをふたつに切り離した。だから男と女は求め合うって」
紀子はその話を聞いたとき、幼いながらも「なんてロマンティックなんだろう」と思った。
「時には親子だったり、兄弟として生まれ変わったりする場合もあるけど、そうなるのは様々な関係を経験するために必要な要素だから。前世が男性だったのに生まれ変わったら女性だったりするのも、男性の気持ちは男性にならないとわからないし、女性だってまたおなじこと。人はそうやって生まれ変わりながら、ふたりは魂の向上に努めていくの。それが――」
「ソウルメイト」
志乃が最後に言おうとしたことを、紀子が言った。
「そう。魂の固いきずなで結ばれている人」
「ってことは、あなたは私でもあるんだから、正吉さんと私も、ソウルメイトってことなの?」
「そうよ。だから、あなたは正吉さんと出会った」
「出会ったといっても、正吉さんはおじいさんで、すぐに死んじゃったのよ」
「確かにそうね。でも、正吉さんが肉体を離れてから今日まで、あなたとは深い関わりを持ったはずよ。それもふつうでは考えられない関係。それだけでも、正吉さんとあなたの魂は高められたはずだよ」
「言われてみれば、そうだけど……」
「それに、ソウルメイトとなる相手はひとりだけの場合がほとんどだけど、ふたりのときもあれば複数ってこともあるの。そしてあなたのすぐそばに、いまのあなたにとって、いちばん大切なソウルメイトがいるわ。それにあなたは、気づいていることに気づいていない」
「え? それってだれなの?」
「すぐにわかるわよ」
志乃はやさしく微笑む。
「魂は生まれ変わるものです。でも、いまのあなたは、前世にも来世にも囚われることはないの。あなたはあなただけのものよ。一度の人生、心のゆくまで楽しんで」
そう言うと、志乃の身体がすうっとうしろに下がった。
「正吉さん。そろそろ行きましょう」
「はい。ですが、もう少し待ってください」
志乃を待たせて、正吉は谷口の前に立った。
青年にもどっている正吉は谷口よりも若い。
『僕はいま、君だけに話しかけている。だから、よく聞いて』
「あ、はい」
『僕は君に、あるものを手に入れなければ君の力は目醒めないって言ったよね。そしてそれは、自ずとわかるときがくるって』
「ええ」
『そこで君に、ヒントをあげる』
「ヒント?」
『うん。君が手にいれなければならないものは、君のすぐ近くにある。それを君は知っている。そして大切に想っている』
「――それって、まさか……」
『そう、君の思うとおりだよ。いいかい、手に入れられるかどうかは君しだいさ』
「は、はい。がんばります」
谷口は姿勢を正した。
『うん。短いあいだだったけど、君に逢えて僕は光栄だよ。ありがとう』
そして今度はカオルの前に立ち、
「カオルさん」
声を発した。
「ありがとう。君はすばらしい人だ。君に会えてよかった」
「なによォ、もう」
カオルの眼からは、洪水の涙があふれている。
「でも、正吉さんて、すごくイイ男。アタシがあなたの時代に生まれていたら、放っておかなかったわ」
正吉は苦笑いを浮かべながら紀子の前にいく。
「紀子さん、あなたにはほんとうに――」
「いいの、正吉さん。わかってるから、なにも言わないで。私、泣きたくないから」
「そうですか。わかりました」
正吉はうしろに下がり、志乃のとなりに並んだ。
「それではみなさん。ほんとうにありがとう」
天からの光が、正吉と志乃を包みこむ。
ふたりの姿が輝きはじめる。
「意地っ張りで泣き虫で、そしてやさしくて美しい紀子さん。そして別の意味で美しいカオルさん。それに、力を秘めた谷口くん。いつの日かまた会いましょう」
軍服姿の正吉が敬礼をする。
ふたりの姿が、光に包まれながら空へと昇っていく。
やがて光は、蒼い空にすうっと消えた。
志乃が言った。
「融合って、ひとつになるってことよね……。私、小さいころに聞いたことがある。男と女は元々はひとつで、神様が試練を与えるために、それをふたつに切り離した。だから男と女は求め合うって」
紀子はその話を聞いたとき、幼いながらも「なんてロマンティックなんだろう」と思った。
「時には親子だったり、兄弟として生まれ変わったりする場合もあるけど、そうなるのは様々な関係を経験するために必要な要素だから。前世が男性だったのに生まれ変わったら女性だったりするのも、男性の気持ちは男性にならないとわからないし、女性だってまたおなじこと。人はそうやって生まれ変わりながら、ふたりは魂の向上に努めていくの。それが――」
「ソウルメイト」
志乃が最後に言おうとしたことを、紀子が言った。
「そう。魂の固いきずなで結ばれている人」
「ってことは、あなたは私でもあるんだから、正吉さんと私も、ソウルメイトってことなの?」
「そうよ。だから、あなたは正吉さんと出会った」
「出会ったといっても、正吉さんはおじいさんで、すぐに死んじゃったのよ」
「確かにそうね。でも、正吉さんが肉体を離れてから今日まで、あなたとは深い関わりを持ったはずよ。それもふつうでは考えられない関係。それだけでも、正吉さんとあなたの魂は高められたはずだよ」
「言われてみれば、そうだけど……」
「それに、ソウルメイトとなる相手はひとりだけの場合がほとんどだけど、ふたりのときもあれば複数ってこともあるの。そしてあなたのすぐそばに、いまのあなたにとって、いちばん大切なソウルメイトがいるわ。それにあなたは、気づいていることに気づいていない」
「え? それってだれなの?」
「すぐにわかるわよ」
志乃はやさしく微笑む。
「魂は生まれ変わるものです。でも、いまのあなたは、前世にも来世にも囚われることはないの。あなたはあなただけのものよ。一度の人生、心のゆくまで楽しんで」
そう言うと、志乃の身体がすうっとうしろに下がった。
「正吉さん。そろそろ行きましょう」
「はい。ですが、もう少し待ってください」
志乃を待たせて、正吉は谷口の前に立った。
青年にもどっている正吉は谷口よりも若い。
『僕はいま、君だけに話しかけている。だから、よく聞いて』
「あ、はい」
『僕は君に、あるものを手に入れなければ君の力は目醒めないって言ったよね。そしてそれは、自ずとわかるときがくるって』
「ええ」
『そこで君に、ヒントをあげる』
「ヒント?」
『うん。君が手にいれなければならないものは、君のすぐ近くにある。それを君は知っている。そして大切に想っている』
「――それって、まさか……」
『そう、君の思うとおりだよ。いいかい、手に入れられるかどうかは君しだいさ』
「は、はい。がんばります」
谷口は姿勢を正した。
『うん。短いあいだだったけど、君に逢えて僕は光栄だよ。ありがとう』
そして今度はカオルの前に立ち、
「カオルさん」
声を発した。
「ありがとう。君はすばらしい人だ。君に会えてよかった」
「なによォ、もう」
カオルの眼からは、洪水の涙があふれている。
「でも、正吉さんて、すごくイイ男。アタシがあなたの時代に生まれていたら、放っておかなかったわ」
正吉は苦笑いを浮かべながら紀子の前にいく。
「紀子さん、あなたにはほんとうに――」
「いいの、正吉さん。わかってるから、なにも言わないで。私、泣きたくないから」
「そうですか。わかりました」
正吉はうしろに下がり、志乃のとなりに並んだ。
「それではみなさん。ほんとうにありがとう」
天からの光が、正吉と志乃を包みこむ。
ふたりの姿が輝きはじめる。
「意地っ張りで泣き虫で、そしてやさしくて美しい紀子さん。そして別の意味で美しいカオルさん。それに、力を秘めた谷口くん。いつの日かまた会いましょう」
軍服姿の正吉が敬礼をする。
ふたりの姿が、光に包まれながら空へと昇っていく。
やがて光は、蒼い空にすうっと消えた。
0
あなたにおすすめの小説
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
ヤクザに医官はおりません
ユーリ(佐伯瑠璃)
ライト文芸
彼は私の知らない組織の人間でした
会社の飲み会の隣の席のグループが怪しい。
シャバだの、残弾なしだの、会話が物騒すぎる。刈り上げ、角刈り、丸刈り、眉毛シャキーン。
無駄にムキムキした体に、堅い言葉遣い。
反社会組織の集まりか!
ヤ◯ザに見初められたら逃げられない?
勘違いから始まる異文化交流のお話です。
※もちろんフィクションです。
小説家になろう、カクヨムに投稿しています。
一億円の花嫁
藤谷 郁
恋愛
奈々子は家族の中の落ちこぼれ。
父親がすすめる縁談を断り切れず、望まぬ結婚をすることになった。
もうすぐ自由が無くなる。せめて最後に、思いきり贅沢な時間を過ごそう。
「きっと、素晴らしい旅になる」
ずっと憧れていた高級ホテルに到着し、わくわくする奈々子だが……
幸か不幸か!?
思いもよらぬ、運命の出会いが待っていた。
※エブリスタさまにも掲載
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
✿ 私は彼のことが好きなのに、彼は私なんかよりずっと若くてきれいでスタイルの良い女が好きらしい
設楽理沙
ライト文芸
累計ポイント110万ポイント超えました。皆さま、ありがとうございます。❀
結婚後、2か月足らずで夫の心変わりを知ることに。
結婚前から他の女性と付き合っていたんだって。
それならそうと、ちゃんと話してくれていれば、結婚なんて
しなかった。
呆れた私はすぐに家を出て自立の道を探すことにした。
それなのに、私と別れたくないなんて信じられない
世迷言を言ってくる夫。
だめだめ、信用できないからね~。
さようなら。
*******.✿..✿.*******
◇|日比野滉星《ひびのこうせい》32才 会社員
◇ 日比野ひまり 32才
◇ 石田唯 29才 滉星の同僚
◇新堂冬也 25才 ひまりの転職先の先輩(鉄道会社)
2025.4.11 完結 25649字
子持ち愛妻家の極悪上司にアタックしてもいいですか?天国の奥様には申し訳ないですが
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
胸がきゅんと、甘い音を立てる。
相手は、妻子持ちだというのに。
入社して配属一日目。
直属の上司で教育係だって紹介された人は、酷く人相の悪い人でした。
中高大と女子校育ちで男性慣れしてない私にとって、それだけでも恐怖なのに。
彼はちかよんなオーラバリバリで、仕事の質問すらする隙がない。
それでもどうにか仕事をこなしていたがとうとう、大きなミスを犯してしまう。
「俺が、悪いのか」
人のせいにするのかと叱責されるのかと思った。
けれど。
「俺の顔と、理由があって避け気味なせいだよな、すまん」
あやまってくれた彼に、胸がきゅんと甘い音を立てる。
相手は、妻子持ちなのに。
星谷桐子
22歳
システム開発会社営業事務
中高大女子校育ちで、ちょっぴり男性が苦手
自分の非はちゃんと認める子
頑張り屋さん
×
京塚大介
32歳
システム開発会社営業事務 主任
ツンツンあたまで目つき悪い
態度もでかくて人に恐怖を与えがち
5歳の娘にデレデレな愛妻家
いまでも亡くなった妻を愛している
私は京塚主任を、好きになってもいいのかな……?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる