3 / 28
【第1話】
しおりを挟む
12月24日、クリスマス・イヴ。
僕は友人に誘われて、カラオケPartyという名目の合コンに参加することになった。
『イヴなのに、彼氏がいなくて寂しがってる女子が5人も来るから、お前にも彼女ができるチャンスがあるかもよ』
友人の言葉に、そのとき、僕の顔がゆるゆるに緩んでしまったのは言うまでもない。
物心ついたころには、もう太っていた。
そのせいか、24歳にもなって彼女ができたことがない。
それどころか、女子とまともに会話したことすらない。
僕は、頭に「チョー」がついてしまうほどの奥手なのだ。
それでも、人並みに彼女がほしいと想いつづけている。
マッチングアプリにも手を出してはみたけれど、三浪したあげくに大学受験を諦め、いまは弁当屋でバイトをしているだけの男だからお金もなく、将来もまったく見えない。
そんな僕に、興味を持ってくれる人なんて、いるはずもなかった。
それだけに、イヴのその日、体調が悪いと偽ってバイトを早退させてもらったのだ。
体調が悪いと言っておきながら、自分で揚げた唐揚げ6パックを袋に入れ、そそくさと早退していく僕を、店長は訝(いぶか)し気に見送っていた。
そんなことはお構いなしに、僕は錦糸町にあるカラオケBoxに急いだ。
その店は、持ち込みOKなので女子たちも何か手作りのものを持ってくるかもしれない。
そんなことを考えながら信号待ちをしていると、すぐ右隣からの視線を感じた。
何気なく横目に視線を向けた。
するとそこには、すすけた身なりのおじさんが、僕の持っている唐揚げの袋をガン見しながら鼻をヒクヒクさせていた。
腹を空かせてるのか……。
初めは怪しく感じながらもそう思い、
まいったな。こういうタイプの人に、僕は弱いんだよな……。
さらにそう思いながら、そのおじさんを見つめた。
とは言っても、人見知りする僕は、知らない人に自分から声を掛けるのが苦手だ。
だから、そのおじさんがふいに顔を上げたとき、互いの視線が合って、僕は思わず正面に視線をそらした。
そうこうしているうちに、信号が青に変わった。
そして横断歩道を渡ろうとした、そのときだった。
右隣にいたおじさんが、僕を追い越さんばかりの勢いで横断歩道に倒れ込んだ。
と同時に怒声が聴こえてきた。
「じゃまなんだよ、おっさん!」
その声へ顔を向けると、中学生くらいの男子ふたりが、倒れ込んだおじさんを睨みいつけ、信号の青が点滅し始めた横断歩道を渡っていった。
「ガキが、なんてことをするんだッ!」
その言葉を胸の中で吐き捨て、
「大丈夫ですか? 怪我はしてないですか? まったく、ひどいことしやがる」
僕は立ち上がろうとしているおじさんに手を貸した。
けれど、そのおじさんは何も答えず、ただ唐揚げの袋を食い入るように見つめている。
ごくり、という唾液を呑む音まで聴こえてきた。
これは相当腹が減ってるな……。
そう思った。
だから僕は、
「あの、もしよかったら、これどうぞ」
袋の中から唐揚げを1パック取り出して、そのまま差し出した。
眼の前に差し出された唐揚げのパックを見つめたおじさんは、もう一度唾液を呑みこむと、
「いいのかい……」
かすかに聴こえる声でそう言い、
「どうぞ、どうぞ」
僕が笑みを浮かべると、おじさんは軽く頭を下げてその場を立ち去っていった。
そのうしろ姿を見送り、僕は再び青に変わった横断歩道を渡って先を急いだ。
僕は友人に誘われて、カラオケPartyという名目の合コンに参加することになった。
『イヴなのに、彼氏がいなくて寂しがってる女子が5人も来るから、お前にも彼女ができるチャンスがあるかもよ』
友人の言葉に、そのとき、僕の顔がゆるゆるに緩んでしまったのは言うまでもない。
物心ついたころには、もう太っていた。
そのせいか、24歳にもなって彼女ができたことがない。
それどころか、女子とまともに会話したことすらない。
僕は、頭に「チョー」がついてしまうほどの奥手なのだ。
それでも、人並みに彼女がほしいと想いつづけている。
マッチングアプリにも手を出してはみたけれど、三浪したあげくに大学受験を諦め、いまは弁当屋でバイトをしているだけの男だからお金もなく、将来もまったく見えない。
そんな僕に、興味を持ってくれる人なんて、いるはずもなかった。
それだけに、イヴのその日、体調が悪いと偽ってバイトを早退させてもらったのだ。
体調が悪いと言っておきながら、自分で揚げた唐揚げ6パックを袋に入れ、そそくさと早退していく僕を、店長は訝(いぶか)し気に見送っていた。
そんなことはお構いなしに、僕は錦糸町にあるカラオケBoxに急いだ。
その店は、持ち込みOKなので女子たちも何か手作りのものを持ってくるかもしれない。
そんなことを考えながら信号待ちをしていると、すぐ右隣からの視線を感じた。
何気なく横目に視線を向けた。
するとそこには、すすけた身なりのおじさんが、僕の持っている唐揚げの袋をガン見しながら鼻をヒクヒクさせていた。
腹を空かせてるのか……。
初めは怪しく感じながらもそう思い、
まいったな。こういうタイプの人に、僕は弱いんだよな……。
さらにそう思いながら、そのおじさんを見つめた。
とは言っても、人見知りする僕は、知らない人に自分から声を掛けるのが苦手だ。
だから、そのおじさんがふいに顔を上げたとき、互いの視線が合って、僕は思わず正面に視線をそらした。
そうこうしているうちに、信号が青に変わった。
そして横断歩道を渡ろうとした、そのときだった。
右隣にいたおじさんが、僕を追い越さんばかりの勢いで横断歩道に倒れ込んだ。
と同時に怒声が聴こえてきた。
「じゃまなんだよ、おっさん!」
その声へ顔を向けると、中学生くらいの男子ふたりが、倒れ込んだおじさんを睨みいつけ、信号の青が点滅し始めた横断歩道を渡っていった。
「ガキが、なんてことをするんだッ!」
その言葉を胸の中で吐き捨て、
「大丈夫ですか? 怪我はしてないですか? まったく、ひどいことしやがる」
僕は立ち上がろうとしているおじさんに手を貸した。
けれど、そのおじさんは何も答えず、ただ唐揚げの袋を食い入るように見つめている。
ごくり、という唾液を呑む音まで聴こえてきた。
これは相当腹が減ってるな……。
そう思った。
だから僕は、
「あの、もしよかったら、これどうぞ」
袋の中から唐揚げを1パック取り出して、そのまま差し出した。
眼の前に差し出された唐揚げのパックを見つめたおじさんは、もう一度唾液を呑みこむと、
「いいのかい……」
かすかに聴こえる声でそう言い、
「どうぞ、どうぞ」
僕が笑みを浮かべると、おじさんは軽く頭を下げてその場を立ち去っていった。
そのうしろ姿を見送り、僕は再び青に変わった横断歩道を渡って先を急いだ。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
僕の異世界攻略〜神の修行でブラッシュアップ〜
リョウ
ファンタジー
僕は十年程闘病の末、あの世に。
そこで出会った神様に手違いで寿命が縮められたという説明をされ、地球で幸せな転生をする事になった…が何故か異世界転生してしまう。なんでだ?
幸い優しい両親と、兄と姉に囲まれ事なきを得たのだが、兄達が優秀で僕はいずれ家を出てかなきゃいけないみたい。そんな空気を読んだ僕は将来の為努力をしはじめるのだが……。
※画像はAI作成しました。
※現在毎日2話投稿。11時と19時にしております。
転生したら領主の息子だったので快適な暮らしのために知識チートを実践しました
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
不摂生が祟ったのか浴槽で溺死したブラック企業務めの社畜は、ステップド騎士家の長男エルに転生する。
不便な異世界で生活環境を改善するためにエルは知恵を絞る。
14万文字執筆済み。2025年8月25日~9月30日まで毎日7:10、12:10の一日二回更新。
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
真祖竜に転生したけど、怠け者の世界最強種とか性に合わないんで、人間のふりして旅に出ます
難波一
ファンタジー
"『第18回ファンタジー小説大賞【奨励賞】受賞!』"
ブラック企業勤めのサラリーマン、橘隆也(たちばな・りゅうや)、28歳。
社畜生活に疲れ果て、ある日ついに階段から足を滑らせてあっさりゲームオーバー……
……と思いきや、目覚めたらなんと、伝説の存在・“真祖竜”として異世界に転生していた!?
ところがその竜社会、価値観がヤバすぎた。
「努力は未熟の証、夢は竜の尊厳を損なう」
「強者たるもの怠惰であれ」がスローガンの“七大怠惰戒律”を掲げる、まさかのぐうたら最強種族!
「何それ意味わかんない。強く生まれたからこそ、努力してもっと強くなるのが楽しいんじゃん。」
かくして、生まれながらにして世界最強クラスのポテンシャルを持つ幼竜・アルドラクスは、
竜社会の常識をぶっちぎりで踏み倒し、独学で魔法と技術を学び、人間の姿へと変身。
「世界を見たい。自分の力がどこまで通じるか、試してみたい——」
人間のふりをして旅に出た彼は、貴族の令嬢や竜の少女、巨大な犬といった仲間たちと出会い、
やがて“魔王”と呼ばれる世界級の脅威や、世界の秘密に巻き込まれていくことになる。
——これは、“怠惰が美徳”な最強種族に生まれてしまった元社畜が、
「自分らしく、全力で生きる」ことを選んだ物語。
世界を知り、仲間と出会い、規格外の強さで冒険と成長を繰り広げる、
最強幼竜の“成り上がり×異端×ほのぼの冒険ファンタジー”開幕!
※小説家になろう様にも掲載しています。
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
拾われ子のスイ
蒼居 夜燈
ファンタジー
【第18回ファンタジー小説大賞 奨励賞】
記憶にあるのは、自分を見下ろす紅い眼の男と、母親の「出ていきなさい」という怒声。
幼いスイは故郷から遠く離れた西大陸の果てに、ドラゴンと共に墜落した。
老夫婦に拾われたスイは墜落から七年後、二人の逝去をきっかけに養祖父と同じハンターとして生きていく為に旅に出る。
――紅い眼の男は誰なのか、母は自分を本当に捨てたのか。
スイは、故郷を探す事を決める。真実を知る為に。
出会いと別れを繰り返し、命懸けの戦いを繰り返し、喜びと悲しみを繰り返す。
清濁が混在する世界に、スイは何を見て何を思い、何を選ぶのか。
これは、ひとりの少女が世界と己を知りながら成長していく物語。
※週2回(木・日)更新。
※誤字脱字報告に関しては感想とは異なる為、修正が済み次第削除致します。ご容赦ください。
※カクヨム様にて先行公開(登場人物紹介はアルファポリス様でのみ掲載)
※表紙画像、その他キャラクターのイメージ画像はAIイラストアプリで作成したものです。再現不足で色彩の一部が作中描写とは異なります。
※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
異世界に召喚されて2日目です。クズは要らないと追放され、激レアユニークスキルで危機回避したはずが、トラブル続きで泣きそうです。
もにゃむ
ファンタジー
父親に教師になる人生を強要され、父親が死ぬまで自分の望む人生を歩むことはできないと、人生を諦め淡々とした日々を送る清泉だったが、夏休みの補習中、突然4人の生徒と共に光に包まれ異世界に召喚されてしまう。
異世界召喚という非現実的な状況に、教師1年目の清泉が状況把握に努めていると、ステータスを確認したい召喚者と1人の生徒の間にトラブル発生。
ステータスではなく職業だけを鑑定することで落ち着くも、清泉と女子生徒の1人は職業がクズだから要らないと、王都追放を言い渡されてしまう。
残留組の2人の生徒にはクズな職業だと蔑みの目を向けられ、
同時に追放を言い渡された女子生徒は問題行動が多すぎて退学させるための監視対象で、
追加で追放を言い渡された男子生徒は言動に違和感ありまくりで、
清泉は1人で自由に生きるために、問題児たちからさっさと離れたいと思うのだが……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる