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【第2話】
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BOXに着いて、部屋に案内されると、合コンはすでに盛り上がっていた。
「イェーイ、待ってたぜ、小島ー!」
ドアの近くにいた友人の田中が片手を挙げハイタッチを求めてきたので、僕も片手を挙げてそれに応えた。
「なんだこれ!」
僕が手に持っている唐揚げの袋に田中はすぐに気づいて、
「お、唐揚げじゃないかよ、これ!」
と、さっそくパックを取り出してテーブルの上に並べた。
もうひとりの友人である宮川は、クリスマスのお決まり、三角帽子を被せながら僕を女子に紹介した。
「こいつは勇人! ブーって呼んでやってね。でも、高木じゃないよ」
宮川は僕を紹介するとき、必ず最後に「でも、高木じゃないよ」とつけ加える。
いままで一度もウケたことがないのに、自分ではウケてると思っている。
だからこのときも、ふたりの女子たちに完全にスルーされていた。
とは言え、この僕も、彼女たちからスルーされているようなもので、歓迎されるどころかひとりの彼女なんて、明らかにがっかりした表情を浮かべていた。
ハハハ、いつものことだからいいんけどね……。
そう思いながらも、あからさまなその態度に少し落ち込んでソファの端に腰を下ろすと、
「ごめんね、遅れちゃって」
女子がひとり入ってきた。
僕は、テーブルの上のデカンタに入っているビールをグラスに注ぎながら、その彼女に眼をやった。
そのとたん、僕はフリーズしてしまい、グラスからビールが溢れそうになって慌ててそのグラスを口に運んだ。
危なかった。ビールをこぼすところだったよ……。
僕がほっとしてると、
「心(こころ)ちゃんは、ここに坐って」
僕を見てがっかりしていた彼女が、遅れてきた彼女を僕の隣に坐らせた。
その彼女に、僕をあてがおうとする魂胆が見え見えだった。
でも、それが僕にとっては好都合だった。
だってだって、心ちゃんと呼ばれて彼女は、僕のタイプだったのだ。
タレ目に眼鏡を掛けてて色白。
そして何よりも、ぽっちゃり系。
まさしく、僕のタイプ以外のなにものでもない。
僕の胸はもう、ときめきまくっちゃっている。
心ちゃんが隣にやってきたので、僕は少し腰をずらして彼女が坐りやすいようにした。
「どうもありがとう。三多(みた)と言います」
心ちゃんは、軽く会釈をしてから、隣に腰を下ろした。
僕の胸の鼓動は、早鐘のように鳴り出した。
「あ、ぼ、僕は、小島です……」
緊張して、そこで言葉がつまる。
しかし、このままでは、会話もまともにできない男なのかと思われてしまう。
それじゃ、あまりにもカッコ悪すぎだ。
「あ、あの、君の名前って、心ちゃんて言うんだ。可愛いですね……」
僕は、やっとの思いでそう言った。
すると、
「なんですか、それ。まだ会ったばかりなのに、馴れ馴れしくないですか? 初対面なんだし、私は『三多です』って名乗ったんですから、三多さんと呼んでください」
心ちゃんはそう返してきた。
ひえ~~~~、恐い……。
その場の空気が、一気に凍りついた。
「さ、さあ、みんなカラオケやろうよ。それと、酒とか足りてる?」
凍りついたその場を何とか繕おうと、田中が言った。
田中の言葉に賛同して、彼女たちはデンモクを手に曲を探し始め、宮川はフロントにビールのデカンタを追加注文した。
僕と心ちゃ、いや、三多さんだけは、取り残されたかのように無言のまま坐っていたのだった。
うむむ、なんか、おかしいな……。すごく居心地が悪い……。
僕の胸の中に、キラキラと煌めていたときめきは、霧のごとくどこかへ消えていた。
宮川が、手でマイクを包むように持ち、僕の知らないラヴ・バラードを唄っている。
お世辞にも上手いとは言えないのだが、その宮川を、ふたりの女子が黙って見つめていた。
あー、そうですか。顔さえよければ、歌唱力なんてどうでもいいんだ……。
僕は宮川たちから顔を背けて、ビールを飲んだ。
もう、帰ろうかな……。
ほんとうに、そんな気分だった。
「イェーイ、待ってたぜ、小島ー!」
ドアの近くにいた友人の田中が片手を挙げハイタッチを求めてきたので、僕も片手を挙げてそれに応えた。
「なんだこれ!」
僕が手に持っている唐揚げの袋に田中はすぐに気づいて、
「お、唐揚げじゃないかよ、これ!」
と、さっそくパックを取り出してテーブルの上に並べた。
もうひとりの友人である宮川は、クリスマスのお決まり、三角帽子を被せながら僕を女子に紹介した。
「こいつは勇人! ブーって呼んでやってね。でも、高木じゃないよ」
宮川は僕を紹介するとき、必ず最後に「でも、高木じゃないよ」とつけ加える。
いままで一度もウケたことがないのに、自分ではウケてると思っている。
だからこのときも、ふたりの女子たちに完全にスルーされていた。
とは言え、この僕も、彼女たちからスルーされているようなもので、歓迎されるどころかひとりの彼女なんて、明らかにがっかりした表情を浮かべていた。
ハハハ、いつものことだからいいんけどね……。
そう思いながらも、あからさまなその態度に少し落ち込んでソファの端に腰を下ろすと、
「ごめんね、遅れちゃって」
女子がひとり入ってきた。
僕は、テーブルの上のデカンタに入っているビールをグラスに注ぎながら、その彼女に眼をやった。
そのとたん、僕はフリーズしてしまい、グラスからビールが溢れそうになって慌ててそのグラスを口に運んだ。
危なかった。ビールをこぼすところだったよ……。
僕がほっとしてると、
「心(こころ)ちゃんは、ここに坐って」
僕を見てがっかりしていた彼女が、遅れてきた彼女を僕の隣に坐らせた。
その彼女に、僕をあてがおうとする魂胆が見え見えだった。
でも、それが僕にとっては好都合だった。
だってだって、心ちゃんと呼ばれて彼女は、僕のタイプだったのだ。
タレ目に眼鏡を掛けてて色白。
そして何よりも、ぽっちゃり系。
まさしく、僕のタイプ以外のなにものでもない。
僕の胸はもう、ときめきまくっちゃっている。
心ちゃんが隣にやってきたので、僕は少し腰をずらして彼女が坐りやすいようにした。
「どうもありがとう。三多(みた)と言います」
心ちゃんは、軽く会釈をしてから、隣に腰を下ろした。
僕の胸の鼓動は、早鐘のように鳴り出した。
「あ、ぼ、僕は、小島です……」
緊張して、そこで言葉がつまる。
しかし、このままでは、会話もまともにできない男なのかと思われてしまう。
それじゃ、あまりにもカッコ悪すぎだ。
「あ、あの、君の名前って、心ちゃんて言うんだ。可愛いですね……」
僕は、やっとの思いでそう言った。
すると、
「なんですか、それ。まだ会ったばかりなのに、馴れ馴れしくないですか? 初対面なんだし、私は『三多です』って名乗ったんですから、三多さんと呼んでください」
心ちゃんはそう返してきた。
ひえ~~~~、恐い……。
その場の空気が、一気に凍りついた。
「さ、さあ、みんなカラオケやろうよ。それと、酒とか足りてる?」
凍りついたその場を何とか繕おうと、田中が言った。
田中の言葉に賛同して、彼女たちはデンモクを手に曲を探し始め、宮川はフロントにビールのデカンタを追加注文した。
僕と心ちゃ、いや、三多さんだけは、取り残されたかのように無言のまま坐っていたのだった。
うむむ、なんか、おかしいな……。すごく居心地が悪い……。
僕の胸の中に、キラキラと煌めていたときめきは、霧のごとくどこかへ消えていた。
宮川が、手でマイクを包むように持ち、僕の知らないラヴ・バラードを唄っている。
お世辞にも上手いとは言えないのだが、その宮川を、ふたりの女子が黙って見つめていた。
あー、そうですか。顔さえよければ、歌唱力なんてどうでもいいんだ……。
僕は宮川たちから顔を背けて、ビールを飲んだ。
もう、帰ろうかな……。
ほんとうに、そんな気分だった。
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